2章 第2話
番組開始から三十分。
桐生は淡々と原稿を読み上げ続けていた。
国内外の政治、経済、天候、スポーツ。
いつもと変わらないニュースの羅列。
だが、あの爆発の件には一切触れられなかった。
GNNが関与しているという事実も、犯人からの要求も、すべて伏せられている。
——視聴者に知られてはいけない“異常”。
番組後半、スタジオ参加型企画が始まった。
抽選で選ばれた一般視聴者がスタジオに入り、簡単なコメントを述べるだけの軽いコーナーだ。
照明の下、緊張した面持ちの男女が並んでいる。
その中の一人、二十代ほどの男が桐生の前に歩み出た。
次の瞬間だった。
男の手から、何かが放り投げられた。
机の上を跳ね、転がり、桐生の手元で止まる。
無線機だった。
「……?」
スタジオの空気が、一瞬で凍りついた。
次の瞬間、無線機からノイズ混じりの声が流れ出した。
『聞こえるか、GNN。いや……桐生恒一』
低く、落ち着いた男の声。
機械越しでも分かるほど、異様に落ち着いている。
桐生の背筋が凍りついた。
ガラス越しの副調整室で、黒瀬が立ち上がる。
「カメラ止めろ! すぐにだ!」
叫び声がインカム越しに響く。
だが、その直後、無線機の声が割り込んだ。
『止めるな』
短く、だが断定的な声。
スタジオの誰もが動けなくなる。
『三つ目が爆ぜるぞ』
言葉の意味を理解した瞬間、桐生の喉が鳴った。
『俺の要求通りに動いたな。これで二つ目の爆弾で、横浜市内の誰かが死ぬことはない』
カメラの赤いランプは消えない。
全国に、リアルタイムで放送されている。
『感謝しろ。俺は無差別殺人をしたいわけじゃない。ただ、観測されたいだけだ』
スタジオの視聴者たちは凍りつき、スタッフは言葉を失ったまま固まっている。
『これからは俺の要求通りに動け。歯向かえば、次は本当に死者が出る』
一拍置き、声がわずかに笑った。
ノイズが走り、通信が途切れた。
スタジオに、完全な沈黙が落ちた。
桐生は無線機を見つめたまま、動けなかった。
自分の声が、震えていることにも気づかなかった。
そして、彼は理解した。
——この瞬間から、世界が変わったのだと。




