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2章 第1話

午前三時半。

GNN局内の会議室で、黒瀬は結論を告げた。


「……犯人の要求通りに放送を開始する」


一瞬、誰も言葉を発さなかった。

沈黙は承認ではなく、拒絶する力を失った結果の空白だった。


桐生恒一はスタジオのキャスター席に腰を下ろすと、背筋を伸ばし、深く息を吸った。

肺が空気で満たされる感覚はあるのに、どこか息苦しい。


——本当に、放送すべきなのか。


その疑念は、合理的な根拠を持たない。

ただの直感。

だが、彼の直感はこれまで幾度も現場を救ってきた。


スタジオの照明はまだ半分だけ点灯している。

ガラス越しに見えるフロアでは、スタッフが無言で機材を調整していた。

誰もが、これが“普通の朝番組”ではないと理解している。


時計に目をやる。

三時五十二分。


分針が頂点へ近づくにつれ、心臓の鼓動が強くなる。

桐生は手のひらを握りしめ、指先に爪が食い込むのを感じた。


「……桐生さん」


インカム越しに、サブディレクターの声が響く。


「本当に、やるんですか?」


桐生は一瞬だけ言葉を失った。

その問いは、彼自身が何度も自分に投げかけているものだった。


「……局の決定だ」


そう答えたが、声は自分でも驚くほど乾いていた。


黒瀬はスタジオ外のガラス越しに立っている。

無表情で、だがどこか満足げに見えた。


四時まで、あと五分。


桐生はカメラのレンズを見つめる。

そこに映るのは、自分だけではない。

数百万、数千万の視聴者。

そして、どこかでこちらを見ている“犯人”。


「もしこれが、爆弾の起動スイッチだったら……」


独り言のように呟く。

だが、答えは出ない。


四時まで、あと三分。


プロンプターに原稿が流れ始める。

いつもと変わらないニュース。

天気予報、経済指標、海外情勢。


だが今は、すべてが偽物の平穏に見えた。


四時まで、あと一分。


心臓の音が耳の内側で鳴り響く。

桐生は最後にもう一度、深く息を吸った。


「……放送、五秒前」


カウントダウンが始まる。


「……三」


「……二」


「……一」


赤いランプが点灯した。


桐生は、カメラに向かって口を開いた。


「おはようございます。GNNワールドレポートの時間です――」


その瞬間、彼の背筋を冷たいものが走った。

まるで世界のどこかで、何かが起動したかのような感覚だった。

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