4章 第5話
取調室の空気は重く沈んでいた。
机の上のデスクライトが、二人の顔の半分だけを照らしている。
光の外側は、ほとんど闇だった。
ライアンはデイヴィッドを睨みつけたまま言った。
「何人死んだか、わかってるのか」
デイヴィッドは少し首を傾ける。
そして、短く答えた。
「……さあな」
その声には、まるで興味がないような響きがあった。
デイヴィッドは椅子の背にもたれ、淡々と続ける。
「爆弾が爆発して、人が死んだって——」
一瞬、言葉を区切る。
「俺は気にしない」
静かな声だった。
だが、その言葉は取調室の空気を凍らせるには十分だった。
デイヴィッドはさらに言う。
「お前も、後ろからクラクション鳴らされても気にしないだろ?」
ライアンの眉がわずかに動く。
デイヴィッドの口元がわずかに歪んだ。
「このアメリカじゃ、クラクションなんて日常だ。
誰も気にしない」
軽く肩をすくめる。
「……それと同じだ」
その瞬間だった。
デイヴィッドの眉間が、ほんの一瞬だけ動いた。
ライアンはそれを見逃さなかった。
次の瞬間、ライアンの身体が反射的に動く。
椅子を蹴り、机を乗り越えるように身を乗り出す。
そして——
デイヴィッドの頭を掴んだ。
強く。
指が髪に食い込み、頭を押さえつける。
机へ叩きつけるように引き寄せた。
だが——
直前で止まった。
机まで、あと数センチ。
ライアンの腕が震えている。
怒りが、今にも爆発しそうだった。
デイヴィッドはその状態のまま、ゆっくりと息を吸った。
そして——
乾いた笑い声を漏らす。
「……ハッ」
それは嘲笑だった。
「相変わらずだな」
目だけをライアンに向ける。
「手が出るのが早い」
口元がわずかに歪む。
「……ライアン」
その名前の呼び方は、昔と変わらない。
だがそこにあるのは、懐かしさではなく——
明確な挑発だった。
ライアンの拳がわずかに震える。
次の瞬間。
ライアンは掴んでいた頭を、放り投げるように離した。
デイヴィッドの身体が椅子に戻る。
取調室の中に、再び静寂が落ちた。
デスクライトの光だけが、二人の間で静かに揺れている。
かつて命を預け合った二人。
だが今、その距離は——
二十年前よりも、はるかに遠かった。




