4章 第2話
ライアンは、怒りと混乱が入り混じった感情の渦の中を歩いていた。
FBI本部の長い廊下。
蛍光灯の白い光が床に伸びている。
すれ違う捜査官。
書類を抱えて急ぐ職員。
遠くで鳴る電話。
そのすべてが、妙に鮮明に目に映り込んでくる。
まるで世界の速度だけが落ちて、
自分だけがその中を歩いているようだった。
——デイヴィッド・ブラウン。
その名前が、頭の中で何度も反響している。
二十年前。
爆発。
炎。
瓦礫。
そして、消えた相棒。
ライアンは足を止めずに歩き続けた。
やがて、取調室の前に辿り着く。
金属製の扉。
小さな覗き窓。
ライアンは一瞬も迷わず、ドアノブを握った。
そして——
そのまま扉を押し開けた。
取調室の中は、ほとんど闇だった。
天井の照明は落とされ、
机の上のデスクライトだけが点いている。
その光は、部屋の中央を照らしていた。
だが——
椅子に座る人物の顔だけが、
意図的に影の中に沈んでいる。
ライアンが中に入り、扉が静かに閉まった。
その瞬間。
天井の照明が、一つだけ点いた。
カチッ。
淡い光が部屋の一角を照らす。
ライアンの心臓が強く脈打つ。
さらに——
もう一つ。
カチッ。
光が、ゆっくりと中央へ近づく。
ライアンの呼吸が浅くなる。
そして——
三つ目の照明。
カチッ。
光が、ついに椅子に座る人物へ届いた。
影が消える。
顔が、浮かび上がる。
そこにいたのは——
デイヴィッド・ブラウン。
二十年前、ライアンの目の前で死んだはずの男。
黒いシャツ。
無精ひげ。
そして、どこか変わってしまった表情。
何を考えているのか、読み取れない。
静かで、冷たい。
そして——
どこか不気味だった。
ライアンはゆっくりと椅子を引き、座った。
視線を逸らさない。
デイヴィッドもまた、ライアンを見ていた。
沈黙。
数秒。
やがて、デイヴィッドが口を開いた。
「……久しぶりだな」
低く、落ち着いた声だった。
「二十年ぶりか。
ライアン・ケラー」
その名前の呼び方は、昔と変わらない。
だが響きは、まるで別人だった。
ライアンは何も言わない。
ただ、黙ってデイヴィッドの顔を見つめている。
その瞳には——
怒り。
そして、はっきりとした軽蔑が浮かんでいた。
二人の間の机の上で、
デスクライトの光だけが静かに揺れている。
二十年の時間が、
その沈黙の中に横たわっていた。




