4章 第1話
午後四時半。
テキサス。
FBI本部の作戦室で、ライアンは大型モニターを見つめていた。
画面には、テキサス州全体の立体地図が表示されている。
郊外、幹線道路、そしてひとつのビル。
その各所に、その爆発事件の資料の詰まった赤いピンが突き刺さっていた。
ジープを取り逃がしてから、数時間。
その間に起きた出来事が、地図の上に無機質に記録されている。
先ほど報告が入ったばかりだった。
テキサス州内のある郊外。
FBIのSWAT部隊十名が突入したマフィアの拠点で爆発が発生した。
結果は最悪だった。
一名死亡。
四名が四肢の欠損による重傷。
二名が軽傷。
三名は奇跡的に無傷だった。
作戦室の空気は重い。
さらに異様だったのは、その現場の状況だった。
マフィアのボスの執務室には、激しく争った形跡が残されていた。
机の前の椅子には、男が縛りつけられていた。
そして左の眼球には、ナイフが突き刺さっていた。
ナイフの柄には爆弾が紐で固定されていた。
まるで見せしめのような光景だった。
報告を受けた四人は、それぞれ違う反応を見せていた。
ライアンはモニターを見つめたまま、低く呟く。
「……またか」
その隣で、ダニエルが突然叫んだ。
「クソッ!」
次の瞬間、拳がコンクリートの壁に叩きつけられる。
鈍い音。
ダニエルの拳から血がにじみ、壁に赤い跡が残った。
ルーカスは何も言わない。
ただ、うつむいたまま動かなかった。
マーカスだけが冷静だった。
報告してきた捜査官に向き直る。
「わかった。ほかに判明していることは?」
捜査官は首を横に振った。
「いえ。それ以外の情報はまだありません」
短い沈黙が落ちる。
そのとき、ライアンは現場の記録映像を再生した。
モニターから雑音が流れる。
破裂音。
崩れる壁。
隊員たちの怒号。
その中に——
奇妙な音声が混ざっていた。
「……else」
ノイズ。
「else……else……」
ライアンは眉をひそめる。
「なんだ、これ……」
不自然なほど繰り返されている。
ライアンは過去の資料を思い出した。
これまでの爆発事件で残されていた言葉。
AWAY
Magenta
そして今回の——
else
どれも意味がつながらない。
共通点も見えない。
だが。
単語が残されている以上、何かの意図があるはずだった。
チームはホワイトボードの前で議論を始めた。
暗号か。
プログラム用語か。
地名か。
略語か。
仮説はいくつも出たが、どれも決定打にならない。
その時だった。
作戦室の扉が開いた。
振り向くと、FBI本部で事務を担当している捜査官が立っていた。
ライアンは苛立った声で言う。
「……今度は何だ?」
捜査官は、少し言いづらそうに口を開いた。
「先ほど……本部の正面に、例のジープが現れました」
部屋の空気が止まる。
「それだけじゃありません」
ライアンが眉をひそめた。
「運転手が……自首しました」
ダニエルが振り向く。
「は?」
ライアンはすぐに言葉を返した。
「待て。ジープは今まで逃走を続けていただろ。
それが、どうしてここに来る?」
捜査官は困惑した顔で首を振る。
「理由はわかりません……」
そして続けた。
「ですが、問題はそこじゃないんです」
捜査官は一度、深く息を吸った。
まるで覚悟を決めるように。
そして言った。
「その運転手ですが……」
作戦室の全員が彼を見ていた。
「デイヴィッド・ブラウンです」
ライアンの顔が強張る。
捜査官は続けた。
「あなたのバディだった人物です。
二十年前、あなたの目の前で殉職したとされている……」
一瞬、誰も動かなかった。
「現在は本部の留置場で拘束されています」
ライアンの口から、思わず声が漏れる。
「……何だって?」
その瞬間、記憶が蘇った。
炎。
爆発。
崩れ落ちる建物。
そして——
炎に飲み込まれていく、デイヴィッドの姿。
ライアンは呆然と呟いた。
「……死んだはずだ」
拳が震える。
「なぜ生きてる……」
さらに低く続けた。
「それに——」
「なぜ、こんなことをしたんだ」
作戦室の誰も言葉を発しなかった。
ただ、チームのメンバーたちは静かに——
ライアンを見ていた。




