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3章 第5話

スタジオに、重い沈黙が張りついていた。


その沈黙を切り裂くように、無線機から再び声が流れた。


「さあ、桐生。これでお前はもう俺に逆らえない」


低く、確信に満ちた声だった。


桐生は何も言わず、机の上に置かれた紙の端を指先でいじっていた。

意識を逸らさなければ、緊張に押し潰されそうだった。


まるで不安定な吊り橋の上を歩いているような感覚だ。


一歩踏み外せば、すべてが終わる。


桐生は息を整え、無線機に向かって口を開いた。


「……もし逆らえば、爆弾が爆発するということでしょうか?」


数秒の沈黙。


そのあと、短い返答が返ってくる。


「そうだ」


断定だった。


桐生は一瞬だけ目を閉じた。

犯人を刺激してはいけない。


言葉を慎重に選ぶ。


「……次の要求は、なんですか?」


すぐに返答が来た。


「次は、ここに今から読み上げる人物を連れて来い」


スタジオの空気が一瞬凍りつく。


「連れて来なければ――」


わざと間を置く。


「今度は渋谷駅の駅構内のどこかが爆発する」


副調整室。


スタッフの一人が思わず呟いた。


「……嘘だろ」


日本有数の巨大ターミナル。

もし本当に爆発が起きれば、被害は想像を超える。


黒瀬は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべた。


だが、それはほんの一瞬だった。


次の瞬間には、完全に番組ディレクターの顔に戻っていた。


「全員聞け!」


副調整室に鋭い声が響く。


「やつの言葉を一言一句聞き逃すな!」


スタッフたちが一斉に振り向く。


黒瀬はモニターを睨んだまま続けた。


「この番組は――これからだぞ」


音声担当はヘッドセットを強く押し当てた。

耳が詰まりそうなほどの圧迫感。


環境音。

息遣い。

ノイズ。


すべてを聞き取る。


キーボードの音。

紙をめくる音。


メモ担当がペンを構え、読み上げを待つ。


一文字も逃すことは許されない。


モニターの端では、リアルタイム視聴率が表示されている。


60%


驚異的な数字だ。


だが――


そこから、上がっていない。


日本の半分以上が、この瞬間を見ている。


誰もが、次に読み上げられる名前を待っていた。

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