3章 第4話
ミハイルは瓦礫の下に描かれた人影を数えた。
そして、ある違和感に気づく。
それぞれの人間が押しつぶしている瓦礫。
その表面に、細い線が刻まれている。
ただの傷ではない。
文字だ。
ミハイルは顔を近づけ、順番に読み取っていく。
thgil folb morw
意味をなさない羅列。
だが、無意味なはずがない。
指でなぞる。
「……13文字?」
12桁の数字と一致しない。
13という数も、これまで出ていない。
違う角度から見る必要がある。
ミハイルは瓦礫の並びに目を向けた。
瓦礫は無造作に見えて、規則的だ。
3×3の正方形。
それがいくつも並んでいる。
電卓の配列。
1 2 3
4 5 6
7 8 9
直感が走る。
「位置か」
彼は、先ほど導いた数字を思い出す。
1、9、2、3、5、9
瓦礫の刻字を、電卓配列に当てはめる。
該当位置の文字だけを抜き出す。
順番は、最初の12桁に従う。
手帳に慎重に書き込んでいく。
並び替え。
反転。
再構成。
浮かび上がった文字列。
light from below
ミハイルの喉が鳴る。
「……下から照らせ」
命令形。
指示。
彼は迷わず、紙をトレース台の上に置いた。
スイッチを入れる。
白い光が、紙を透過する。
そして――
浮かび上がる文字。
表にも裏にもなかったはずの文字。
ロシア連邦
モスクワ市
スタロヴォルスカヤ通り 19
ビル 9
115419
住所。
完全な所在地。
ミハイルの思考が一瞬で結論に達する。
「……次の地点だ」
偶然ではない。
暗号は段階的に導くよう設計されている。
19。
9。
935。
すべてが繋がる。
爆発は増幅している。
もし次がここなら――
威力はさらに上がる。
都市機能に影響が出る可能性。
雪は降り続けている。
だが部屋の中は、異様に明るい。
トレース台の光が、やけに鋭い。
まるで、未来を照射しているようだ。
ミハイルはコートを掴んだ。
警察に連絡するという選択肢は、一瞬も浮かばなかった。
犯人は自分に暗号を送ってきた。
ならば。
解読者として、現場に立ち会う責任がある。
ドアを開ける。
冷気が一気に流れ込む。
白い夜の中へ、ミハイルは踏み出した。
カウントダウンは、止まらない。




