3章 第3話
絵にも、必ず何かある。
ミハイルは棚から手帳を取り出し、紙を裏返し、ペンのノックを押した。
静かな部屋に小さな音が響く。
再び壁から紙を外す。
数字を分解して書き込む。
1999、12、31、23、59、19
最後の「19」は、自分が導いた“残りの爆弾予測数”。
頭が鈍く痛む。
酒に弱いのに、飲みすぎた。
だが思考は止まらない。
彼は絵を見つめた。
横並びの建物群。
重複はない。
明らかに高さの異なる構造。
数える。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12。
12棟。
12。
月。
いや、それだけではない。
紙に書かれていた数字も12桁。
偶然ではない。
ミハイルは建物と12桁の数字を対応させる。
左から順に割り当てる。
高さの異なる建物に注目する。
明らかに高い建物がいくつかある。
そこに割り当てられた数字だけを抜き出す。
浮かび上がったのは――
19935
鼓動が強まる。
「19……」
残りの爆弾数。
では。
「935は何だ?」
彼は該当する建物を凝視する。
その建物の窓には、人型の影が描かれていた。
二種類。
細身の影。
丸みのある影。
幼児の落書きのようだが、意図はある。
ミハイルは手帳に書き込む。
細身=n
丸=f
建物ごとに並びを転記する。
nff ff f
間隔を空けて整理する。
nff / ff / f
思考が一瞬、静止する。
そして。
「……モールス信号か」
f=短点
n=長点(-)
変換する。
-・・ / ・・ / ・
アルファベットに置き換える。
D I E
手帳の上に浮かぶ三文字。
die。
死。
喉が詰まる。
これは予告か。
警告か。
それとも宣言か。
次の爆発で死者が出るという意味か。
ミハイルの視線が、再び絵に戻る。
彼は今まで建物ばかり見ていた。
だが――
最も強烈なのは、下に描かれた小さな人影だ。
瓦礫の下にいる人間たち。
血の描写はない。
だが、動きがない。
そこに、何か規則性はないか。
ミハイルは目を凝らす。
影の数。
配置。
重なり。
心臓の鼓動が再び速くなる。
これは単なる「死」の宣言ではない。
どこで、誰が、どうなるか。
そこまで指定している可能性がある。
雪は降り続けている。
世界は静かだ。
だが、この紙の上では、
すでに未来が設計されている。
ミハイルはゆっくりと、瓦礫の下の人影を数え始めた。




