3章 第2話
ミハイルは壁に固定された数字を見つめていた。
199912312359
冷たい風が窓の隙間から入り込み、頬を撫でる。
1999年12月31日 23時59分。
世界が「終わる」と騒がれたミレニアムの一分前。
「この時間に、何があった……?」
ミハイルはキーボードに手を伸ばす。
検索ボックスに入力する。
1999年12月31日 23時59分
表示されるのは、カウントダウン映像や祝賀イベントの記録ばかり。
世界各地の歓声。
花火。
「3、2、1」と叫ぶ群衆。
違う。
もっと冷たい何かがあるはずだ。
スクロールを続ける。
数十件目で、ようやく異質な記事が目に入った。
------------------------------------------------------------------------------------------------
2000年1月1日 0:00発生
軍武器倉庫から“21種類の銃弾”が1発ずつ消失
モスクワ発・未解決事件再検証特集
2000年1月1日午前0時、モスクワ郊外の軍武器倉庫において、
21種類の銃弾がそれぞれ1発ずつ消失していたことが発覚した。
倉庫内の銃弾箱は全て整然と並んでおり、
減っていたのは各箱から“1発のみ”。
侵入の痕跡は確認されていない。
扉、窓、換気口のいずれにも破壊やこじ開けの形跡はなく、
監視システムにも異常記録はなかった。
内部調査の結果、関係者の一人が不審な行動を認め、自首。
窃盗の事実は確認された。
しかしその後、盗まれた銃弾は一度も使用された記録がない。
国内外で発生した銃撃事件、軍用弾使用事案との照合でも一致なし。
回収報告もない。
21発の銃弾は、現在も所在不明のままである。
当時は軽微な内部犯行として処理されたが、
専門家の間では「目的不明性」が指摘され続けている。
なぜ“1発ずつ”だったのか。
なぜ“21種類”だったのか。
なぜ“使用されないまま消えた”のか。
事件は現在も未解決扱いとなっている。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ミハイルは画面から目を離さなかった。
発生時刻は2000年0:00。
だが、壁の数字はその一分前。
23:59
なぜ“直前”を示す?
カウントダウンの最後の一分。
開始ではなく、直前。
「……準備段階」
ミハイルは呟く。
もしこの数字があの事件を示しているなら。
犯人はあの銃弾事件を知っている。
あるいは――関与している。
そしてもう一つの数字。
21発。
現在、モスクワで発生した爆発は二件。
もし21が総数なら。
残り19。
ミハイルの喉が乾く。
爆発の威力は上昇している。
最初は限定的。
二件目は明確に強化されていた。
段階的増幅。
もし指数関数的に増しているなら。
十九回後。
都市機能は停止する可能性がある。
いや――
停止で済めばいい。
窓の外では雪が降り続けている。
静寂。
白い世界。
だがその下で、
何かが確実に進行している。
これは偶然ではない。
銃弾。
爆発。
同時刻。
21という数。
「……銃弾は“発射されていない”」
ミハイルの背筋が冷える。
銃弾は撃たれなかった。
では。
何に使われた?
もし銃弾を分解し、
火薬だけを抽出したとしたら?
21種類。
異なる成分。
異なる燃焼特性。
組み合わせ。
調整。
実験。
雪は止まない。
世界は静かだ。
だが、ミハイルには分かる。
これは二十年以上前から始まっていた可能性がある。
そして今。
そのカウントダウンが再開された。




