終焉に向かって
隼人たとは、核心へと迫っていた。。。
***札を剥がす***
その夜。
隼人は。
部室の札を。
『全て』剥がした。
北側施設から。
部室から。
校舎中の。
すべての札を。
隆が言った。
「これ。何が起きるんだ?」
隼人は答えなかった。
ただ。
「行こう」
と言った。
秀が呟いた。
「本当に。いいのか?」
「昭和五十四年の人たちが。必死に止めたものを」
美優が言った。
「今。僕たちが。解放しようとしている....」
隼人は。
その不安感。
その覚悟を。
五人の中に感じた。
だが。
『篠田』を見つけた以上。
『篠田』を名前を呼んだ以上。
もう。
戻ることはできなかった。
夕子が言った。
「篠田さんは。待ってるんでしょうか?」
隼人は答えなかった。
ただ。
窓から。
暗い校舎を見た。
昭和五十四年から。
ずっと。
札の中に留められていた。
『篠田』は。
いったい。
何を感じていたのか。
何を待っていたのか。
隼人には。
想像することさえ。
辛かった。
***廊下***
五人は。
部室を出た。
廊下は。
静寂に包まれていた。
夜間だ。
学校には。
誰もいない。
電灯だけが。
薄暗く。
廊下を照らしていた。
隆が。
隼人の後ろを歩いていた。
秀が。
美優が。
夕子が。
五人は。
一列になって。
北側施設へ向かった。
その時。
秀が呟いた。
「時間。何時ですか」
隼人は。
懐中電灯で時計を照らした。
午後七時四十五分。
まだ。
『午後四時十五分』ではない。
だが。
この廊下を歩いていると。
時間の感覚が。
曖昧になるような気がした。
美優が言った。
「……寒い」
本当だ。
廊下は。
異様に寒い。
隆が言った。
「あの音。聞こえる」
隼人は耳を澄ました。
確かに。
微かに。
『カン……』という音が。
聞こえている。
遠い。
だが。
確実に。
北側施設から。
聞こえてくる。
夕子が言った。
「近づいています」
「音が」
隼人は。
その言葉に。
頷いた。
***北側施設***
五人は。
北側附属棟の跡に到着した。
札がない。
『篠田を留めるもの』がない。
それでも。
『何かがここに』
『存在している』
その感覚は。
消えなかった。
むしろ。
『札が取り除かれたことで』
『その存在が。より明確になった』
ような気さえした。
隼人は。
時計を持ってきていた。
懐中電灯で照らす。
午後七時五十分。
相変わらず。
『午後四時十五分』ではない。
だが。
この場所に立つと。
時間が。
『その時間へ引き寄せられている』
ような感覚がある。
秀が言った。
「ここか?」
隼人は答えなかった。
ただ。
「篠田さん」
と呟いた。
その名前を。
その場所で。
呼んだ。
夕子が言った。
「何も起きません」
隆が言った。
「ずっと静かなままだ」
だが。
隼人は感じていた。
『何かが。応えようとしている』
その『感覚』を。
秀が呟いた。
「もう一度」
隼人は。
もう一度。
呼んだ。
「篠田さん」
その声が。
北側の暗がりに吸い込まれていく。
美優が言った。
「来ます」
「何が」
隆が聞いた。
「わかりません。ですが」
美優が言った。
「何かが。こちらに近づいています」
***現れ***
その時。
北側附属棟の跡地に。
『何か』が見える。
ぼやけた姿。
昭和三十八年七月一日の全校朝会の写真に写っていた。
『六人目』。
篠田。
それは。
『人間の姿』をしていた。
だが。
『完全ではない』
ぼやけている。
透けている。
『この世にいながら。この世にいない』
そんな存在だ。
隆が呟いた。
「……ここに」
秀が言った。
「ずっと」
美優が言った。
「いたんだ」
篠田は。
何も言わなかった。
ただ。
『そこに存在していた』。
その『存在感』だけが。
五人に伝わってくる。
隼人は。
その『何か』を見つめた。
もし。
これが『篠田』であるなら。
『篠田』は。
昭和三十八年七月一日から。
ずっと。
この場所にいたのだ。
いや。
この場所『だけ』にいたのだ。
学校から『消された』から。
山へ『追いやられた』から。
だが。
この場所には。
『確実に』
『篠田は。いた』。
***対面***
隼人は。
その『何か』を見つめた。
「篠田さん。昭和三十八年七月一日。ここで亡くなったんだね」
隼人の声は。
震えていた。
秀が言った。
「もう。誰も。忘れない」
「あなたのことを」
夕子が続けた。
「存在を」
隆が言った。
「昭和三十八年七月一日。あなたは。ここにいた」
隼人が言った。
「死んだのではなく。ここにいた」
「もう。あなたのことを。消さない」
秀が言った。
「消させない」
「篠田さんという児童は。ここにいた」
隼人が言った。
「ここにいたことを。覚えておく」
隆が言った。
「見つけてもらえてよかった」
「と思ってもらいたい」
美優が言った。
「そう思ってもらいたい」
夕子が言った。
「篠田さん。ありがとう」
「何もできなくて。本当にごめんなさい」
「昭和三十八年から。ずっと。待ってくれて」
隼人が言った。
「篠田さん。あなたは。もう。一人じゃない」
***ありがとう***
その時。
隼人には。
何かが聞こえたような気がした。
ほんの。
かすかな。
『思い』のようなもの。
『感情』のようなもの。
だが。
隼人たちに。
それが伝わった。
「……ありがとう」
そう聞こえた。
だが。
誰が言ったのか。
篠田なのか。
それとも。
五人の心の中から聞こえたのか。
すべてが曖昧だった。
秀が言った。
「篠田そんは、喋ったのか?」
隆が言った。
「わかりません」
隼人が答えた。
「でも。何か。伝わってきた」
美優が言った。
「感謝。ですか」
「わからない」
隼人が答えた。
「だが。その『何か』が。消えて行く。。。。」
夕子が言った。
「篠田さんが。。。。」
隆が呟いた。
「遠ざかっていく」
本当だ。
ぼやけた姿が。
さらに。
『薄くなり始めている』。
***時間が進む***
その瞬間。
隼人が持っていた時計が。
カタン……
と。
大きな音を立てた。
五人は。
時計を見つめた。
懐中電灯の光が。
時計の盤面を照らす。
午後四時十五分から。
針が。
ゆっくりと。
動き始めた。
午後四時十六分。
『時間が一秒進んだ』。
隼人は。
その時計を見つめた。
秒針が。
『確実に』
『前へ進んでいる』。
カチ。カチ。カチ。
秒針の音。
その音が。
五人には。
『世界が正常に戻った』ことを示していた。
もう。
『午後四時十五分で止まる』ことはない。
北側附属棟の跡地から。
『何か』は消えていた。
隆が呟いた。
「篠田さんは」
「いなくなったんですか」
秀が聞いた。
隼人は答えなかった。
ただ。
「帰ったんだ」
と言った。
***廊下を戻る***
廊下を歩き戻る。
さっき来た時とは違う。
『カン……』という音は。
もう。
聞こえない。
廊下は。
『普通の廊下』に戻っていた。
秀が言った。
「音が消えた」
隆が言った。
「終わったんですね」
美優が言った。
「昭和三十八年から。ずっと」
***部室***
五人は。
部室に戻った。
時計は。
『正常に時を刻み始めていた』。
カチ……。
カチ……。
その規則正しい音。
五人は。
その音を聞いていた。
秀が言った。
「全部。終わった・・・・」
隼人は答えなかった。
ただ。
頷いた。
隆が言った。
「篠田さんは」
「今。どこに」
美優が聞いた。
隼人は。
あの『何か』が消えた時の感覚を思い出した。
ただ。
それ以上は。
考えないことにした。
***五人***
隼人は。
四人を見た。
隆。
秀。
美優。
夕子。
そして。
自分。
五人。
夕子が言った。
「明日。学校来ます」
「ああ・・・」
秀が答えた。
「そうだね」
隆が言った。
「明日も」
隼人は頷いた。
「ああ。明日も。普通に。学校へ来る」
隆が言った。
「わかりました」
***最後***
部室を出た。
廊下は。
『普通の廊下』だった。
『カン……』という音も。
もう。
聞こえない。
時計は。
前へ進んでいた。
カチ……。
カチ……。
隼人は。
振り返らなかった。
五人は。
暗い校舎を出ていった。
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