お地蔵さん
事件が終わり、隼人たちは、これまでの事を見直す事にした。
***札を剥がした後***
篠田事件が終わってから。
学校は。
不思議なくらい。
静かだった。
「カン……」という音も。
もう聞こえない。
それでも。
隼人には。
一つだけ。
気になっていることがあった。
札を剥がした後も。
この学校には。
怪談が残っている。
篠田だけではなく。
他の怪異も。
そういう疑問が。
頭の片隅に。
ずっとあった。
***祀る***
篠田事件から一週間が経った。
隼人は。
瑞希姉さんから預かった。
小さなお地蔵さんを。
部室に祀ることにした。
瑞希姉さんの師匠は言っていた。
「ここに置いておくといい」
ただそれだけ。
特別な儀式も。
強力な霊力で守ってくれるという説明もなかった。
ただ。
「落ち着いて調査できる場所になる」
という。
そういう意味らしい。
隼人は。
部室の片隅に。
小さな棚を作った。
そこにお地蔵さんを置いた。
秀が言った。
「何か。変わったか?」
「特別、変わらないようだけど」
隆が聞いた。
「部室が。なんというか」
秀が首をかしげた。
「落ち着いた。ような気もする」
隼人は頷いた。
それがお地蔵さんの役割なのだろう。
特別な力ではなく。
ただ。
『ここは安全だ』
そういう感覚を与えてくれるだけ。
だが。
それだけで十分だった。
***お清め***
翌日。
隼人たちは。
校内のお清め活動を始めることにした。
篠田事件が終わったからこそ。
一度。
学校を清めておこう。
そう思ったのだ。
夕子が写経を行った。
何度も何度も。
静かに。
そして。
隆が適切な場所を探して。
それを納めた。
美優は。
部室の隅々を掃除した。
古い資料も。
整理した。
秀は。
校内の古い場所を歩き回った。
校舎の裏側。
旧校舎。
昔使われていた教室。
そうした場所を。
丁寧に確認した。
それは。
怪異を『退治する』ためではなかった。
ただ。
学校を『整理する』作業だった。
篠田という。
一人の児童の存在を認めたことで。
学校そのものを。
改めて見つめ直したい。
そういう気持ちからの活動だった。
***疑問***
活動しているうちに。
隼人たちは。
ある疑問を持ち始めた。
それは。
夕子が過去の相談記録を整理している時に。
より鮮明になった。
夕子が言った。
「隼人さん。これ。見てください」
隼人が見た。
夕子が並べた。
記録。
噂。
言い伝え。
それらの中に出てくる。
『怪異の場所』。
音楽室のピアノ。
花壇の花子さん。
廃病院。
北側附属棟。
夜の校庭。
図書館の古い本。
旧校舎の階段。
そして。
篠田事件。
夕子が言った。
「全部。この学校のエリアですよね?」
秀が言った。
「これ……多くないか?」
隆が言った。
「こんなに怪談がある学校って。普通なのか・・・・」
隼人は答えなかった。
だが。
彼もまた。
その『多さ』に気づいていた。
美優が言った。
「篠田さんの事件だけじゃ……」
「ない」
夕子が続けた。
「他にも。いっぱい」
「あります」
隆が呟いた。
「一つや二つじゃ」
「ない」
秀が言った。
「多すぎると思います」
隼人は。
その言葉を聞きながら。
『篠田だけがおかしかったのではない』
その可能性に気づいた。
***昭和二十八年***
その日の夜。
隼人は。
学校の古い資料を調べていた。
創立時の案内。
昭和二十八年。
この学校が創立された年。
その時の。
校舎配置図。
隼人は。
現在の配置図と比べた。
かなり変わっていた。
昔はあった建物が。
今はない。
昔なかった建物が。
今はある。
それは自然なことだ。
時間が経てば。
学校も変わる。
だが。
一つだけ。
違和感があった。
山側の空き地。
昭和二十八年の配置図にも。
その場所があった。
だが。
説明がない。
ただ。
小さく。
『旧地』
とだけ書かれていた。
隼人は。
その言葉に引っかかった。
『旧地』。
『古い土地』。
『それ以前からある土地』。
隼人が夕子に聞いた。
「夕子。これ。知ってる」
隼人が配置図を見せた。
夕子が見た。
「これは。昭和二十八年のですね」
「ああ。創立時」
「そして。ここ」
隼人が『旧地』の場所を指した。
「『旧地』って。何ですか」
夕子が聞いた。
隼人は答えなかった。
ただ。
「わからない」
と言った。
だが。
窓の外を見た。
山側。
その空き地。
隼人たちは。
何度も何度も。
その場所の近くを歩いていた。
篠田事件の調査でも。
お清め活動でも。
だが。
『旧地』という言葉は。
聞いたことがなかった。
隆が言った。
「隼人」
「何だい?」
「その『旧地』。今も。あるのか?」
隼人が見た。
昭和二十八年の配置図。
その『旧地』の位置。
現在の配置図と比べると。
その場所は。
今も。
存在していた。
ただ。
『特に何もない空き地』として。
***違和感***
その夜。
部室に。
五人が集まった。
隼人は。
配置図を見せた。
秀が言った。
「『旧地』。昭和二十八年から。ずっと」
隆が言った。
「何もないのか?」
隼人は答えなかった。
ただ。
「わからない」
と言った。
美優が言った。
「でも。何かあったから。『旧地』って名前が」
夕子が言った。
「つけられたんですよね」
隼人は頷いた。
ただ。
その『何か』が。
何なのか。
それは。
記録に残っていなかった。
あるいは。
意図的に消されていたのか。
篠田事件のように。
隼人は。
『旧地』という言葉だけを。
見つめた。
秀が言った。
「この学校。変じゃないか?」
隆が言った。
「確かに、、、」
「怪異が多い」
秀が言った。
「篠田さんだけじゃなくて」
「音楽室も。図書館も。旧校舎も」
「全部。この学校の中」
「そして。『旧地』」
隼人は。
何も言わなかった。
夕子が言った。
「隼人さん」
「何だい?」
「この学校って。何か。あるんでしょうか?」
隼人は答えなかった。
ただ。
「今は、わからない」
と言った。
それが。
正直な答えだった。
篠田事件が終わったのに。
新しい疑問が。
消えなかった。
むしろ。
より大きくなっていた。
***夜明け***
朝日が昇った。
隼人たちは。
部室に集まった。
昨晩の疑問は。
消えていなかった。
むしろ。
より大きくなっていた。
お地蔵さんは。
静かに。
部室を守っていた。
隼人は。
四人を見た。
隆。
秀。
美優。
夕子。
そして。
自分。
五人。
秀が言った。
「隼人、次はどうする?」
隼人は答えなかった。
ただ。
窓の外を見た。
五人は。
黙った。
誰も。
答えられなかった。
夕子が言った。
「隼人さん」
「何だい?」
「この学校って」
夕子が呟いた。
「やっぱり、怪異が、多すぎませんか?」
五人は。
黙った。
誰も。
答えられなかった。
ただ。
窓の外を見る。
学校。
山。
古い校舎。
その向こうに。
何かがある。
そんな気がした。
部室に置かれた。
小さなお地蔵さんは。
静かに。
その『何か』を。
見守っていた。
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