五分間
隼人知多は、ある違和感に気付きはじめていた。。。それは何なのかを?
***記録の断片***
前回の調査では。
『六人目』の名前は見つからなかった。
だが。
隼人たちは。
別の角度から。
昭和三十八年七月一日を調べることにした。
『午後四時十五分』。
その時刻に。
一体。
何が起きたのか。
その時間を追うことにしたのだ。
学校に残っていた記録の断片。
保健室の記録。
校務日誌。
施設点検票。
それらを並べてみると。
ある『ずれ』が見えてきた。
隆が言った。
「午後四時。北側附属棟の確認」
次に。
「午後四時十五分。生徒対応。」
そして。
「午後四時二十分。職員集合」
秀が続けた。
「さらに……午後四時三十五分。校長室使用」
隼人は。
その時系列を見つめた。
四時。
四時十五分。
四時二十分。
四時三十五分。
すべてが記録されている。
だが。
「おかしいわ」
美優が言った。
「何が?」
隼人が聞いた。
「四時十五分から四時二十分。この五分間」
美優が指差した。
「記録がないほ」
隆が確認した。
「本当だ。四時十五分の『生徒対応』の詳細がない。そして次に出てくるのは四時二十分の『職員集合』」
「五分間。空白があります」
夕子が言った。
隼人は。
それを見つめた。
午後四時。
「北側附属棟の確認を行う」
午後四時十五分。
「児童一名――」
その先がない。
ただ。
保健室記録には。
「生徒対応。詳細は別紙」
だけがある。
そして。
その『別紙』には。
「転倒。軽微な怪我。保護者へ連絡。帰宅」
と書かれているだけだ。
だが。
なぜか。
午後四時十五分から。
午後四時二十分までの。
『時間の記録』だけが。
存在していないのだ。
夕子が言った。
「この五分間。何が起きたんでしょうか?」
秀が呟いた。
「短い」
「えっ」
「五分間。それだけ」
秀が言った。
「何が起きるのに五分しかない」
隆が言った。
「いや。違う」
隼人が言った。
夕子が隆を見た。
「何が?」
隼人が答えた。
「五分間しかないんじゃない」
「えっ」
「五分間しか。記録されていない・・・・」
隼人が言った。
つまり。
午後四時十五分から。
何かが始まった。
そして。
その後。
『時間の流れ』そのものが。
記録から消えたのだ。
***時計が止まる***
その夜。
隼人は。
部室で資料を整理していた。
古い写真。
名簿。
校務日誌。
すべてを並べて。
昭和三十八年七月一日を。
追い続けていた。
午前。
午後四時。
午後四時十五分。
午後四時二十分。
その時系列。
その流れ。
隼人は。
それに『意味』を求めていた。
だが。
その時。
部室の壁に掛かっていた。
古い時計が。
突然。
カタン……
と音を立てた。
隼人は振り返った。
その時計は。
『壊れた』のだ。
針が。
午後四時十五分で。
止まっていた。
隼人は。
その時計を見つめた。
針は。
動かない。
午後四時十五分。
その時刻で。
永遠に。
止まったままだ。
誰も。
この時計を巻いていない。
だが。
時計は。
その時刻で。
止まった。
隼人は。
その時計が。
昭和三十八年から。
ずっと。
この部室にあったことを。
思い出した。
昭和五十四年。
『それ』が『帰ろう』とした時。
この部室に。
札が貼られた。
そして。
その『札』の裏側に。
この古い時計は。
あったはずだった。
隼人は。
その時計を手に取った。
重い。
古い。
そして。
針は。
午後四時十五分。
あの時刻で。
止まったままだ。
隼人は。
その時計を見つめ続けた。
昭和三十八年七月一日。
午後四時十五分。
その時刻で。
『何かが起きた』
そして。
その『何か』は。
時計も。
時間も。
すべてを。
その一点に。
『留めてしまった』のだ。
五人
***同じ数***
隼人は。
気づきはじめていた。
昭和三十八年七月一日。
当時の児童は。
『五人』である。
そして。
『現在』。
隼人たちは。
『五人』で調査している。
隼人。
隆。
秀。
美優。
夕子。
五人だ。
それ以上でも。
それ以下でもない。
『五人だけ』だ。
秀に話した。
「昭和三十八年。児童は五人ですね」
「はい」
秀が答えた。
「そして。僕たちも五人です」
秀は黙った。
その『一致』の意味を。
感じた。
隆に話した。
「昭和五十四年に札を増やした人たちは。何人だったと思いますか」
隆は首を傾げた。
「記録には。書かれていません」
「でも。もし。五人だったら」
隼人が言った。
「昭和三十八年と。現在が」
隼人は。
その先を言わなかった。
***部室の違和感***
その日の放課後。
隼人たちは。
部室にいた。
時計は。
午後四時十五分で。
止まったままだ。
隼人は。
その時計を見た。
そして。
窓の外を見た。
『外の空』は。
いつもと同じだった。
だが。
なぜか。
『昨日』がない。
いや。
『昨日』の記憶が曖昧だ。
何をしたのか。
どの時間にいたのか。
それが。
はっきりしない。
秀が言った。
「隼人。今日。何をした?」
隼人は。
考えた。
だが。
『今日』という時間が。
どこまで続いているのか。
わからなかった。
朝。
昼。
午後四時。
午後四時十五分。
その『午後四時十五分』から。
『その先』が。
ない。
あるいは。
『何度も繰り返されている』のか。
隼人には。
区別がつかなかった。
隆が呟いた。
「僕。今何をしていたのか。正確に思い出せないんだ。。。。」
秀が続けた。
「同じだ。。。。」
美優が言った。
「ずっと。ここにいるような気がするんだけど」
「いつからですか」
夕子が聞いた。
誰も答えられなかった。
***五人***
隼人は。
部室を見回った。
五人。
隼人。
隆。
秀。
美優。
夕子。
確実に。
五人がいる。
だが。
隼人は。
何度数えても。
『五人目』が。
誰なのか。
分からなかった。
いや。
『五人目』という概念そのものが。
部室の中に。
希薄だった。
五人が均等に。
そこにいる。
それなのに。
『五人いる』のではなく。
『五人しかいない』という感覚が。
隼人を支配していた。
隆が言った。
「僕たちは。五人で調査してきました」
「ああ」
秀が答えた。
「昭和三十八年の児童も。五人」
隆が続けた。
「では。六人目は。どこに」
誰も答えない。
隼人は。
その『五人』を見つめた。
『六人目は。写真には写っていた』
『だが。記録には名前がない』
『そして。現在。僕たちは。五人だ』
『では。六人目は。どこにいるのか』
その問いが。
頭から離れない。
***北側から***
その時。
部室の外から。
カン……
と。
あの音がした。
五人は。
動けない。
隼人は。
時計を見た。
針は。
午後四時十五分。
動いていない。
音は。
消えた。
だが。
しばらくして。
もう一度。
カン……
今度は。
『前と違った』。
少し。
『大きい』。
北側施設ではない。
校舎のどこか。
別の場所から。
隼人は。
音の出所を探そうとした。
だが。
すぐに。
カン……
もう一度。
今度は。
『もっと近い』。
北側施設ではない。
校舎の中。
廊下。
それよりも。
『近い』。
秀が言った。
「どこからなんだ?」
隼人は答えなかった。
カン……
音は。
今度は。
『部室のドアの向こうから』
聞こえた。
隼人は。
ドアを見た。
誰もいない。
それでも。
音は。
『段階的に近づいている』。
隆が言った。
「これ。毎回」
「毎回?」
隼人が聞いた。
「来るたびに。この音が」
隆が続けた。
「少しずつ。近づいている気がする」
夕子が呟いた。
「毎回。同じ時間に。同じ音が?」
美優が言った。
「少し違う。毎回。『少しだけ』違う感じ」
隼人は。
その『違い』に気づいていた。
だが。
『いつから』
『何度』
『その音が続いているのか』
それが。
わからなかった。
***五人目***
隼人は。
五人を見た。
自分たちは。
『五人』。
昭和三十八年の児童も。
『五人』。
では。
『六人目』は。
どこにいるのか。
そして。
自分たち五人の中に。
本当に。
『五人だけがいるのか』。
隼人は。
その考えを。
それ以上。
考えることができなかった。
秀が言った。
「隼人さん。今。何をしていますか」
隼人は答えなかった。
隆が言った。
「僕たち。いつから。ここにいるんですか」
隼人は答えなかった。
その時。
カン……
もう一度。
音がした。
今度は。
『部室の中から』。
五人は。
振り返った。
だが。
誰もいない。
時計は。
相変わらず。
午後四時十五分。
動かない。
そして。
その『午後四時十五分』の中で。
五人は。
『何度』
『何を』
『繰り返しているのか』
隼人には。
わからなかった。
ただ。
『その繰り返しが』
『何かを呼び起こしている』
その感覚だけが。
確実だった。
カン……
もう一度。
今度は。
『ドアの向こうから』ではなく。
『ドアの内側から』。
隼人は。
その音の出所を。
探そうとした。
だが。
誰もいない。
時計は。
午後四時十五分。
五人しかいない。
それなのに。
『音だけが』
『段階的に』
『近づき続けている』。
隼人は。
初めて。
『恐怖そのもの』を感じた。
『自分たちが』
『何かの中に』
『閉じ込められている』
その感覚。
その『何か』が。
『毎回』
『少しだけ』
『近づいている』
その恐怖が。。。。
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