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新霊体験隊  作者: waku


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異常事象

調査は、地道ながらも続けていた。

***山からの通知***


その夜。


隼人の携帯に、メールが届いた。


差出人は『不明』。


本文には。


一枚の写真が添付されていた。


昭和三十八年のものと思われる。


古びた校舎の写真だ。


ただし。


通常の校舎ではなく。


北側施設。


隼人は息を呑んだ。


北側施設に。


『何か』が写っていた。


小さな建造物。


見たことのない建物。


現在の学校の見取り図には。


そんなものは存在していない。


「これ……」


隼人は部室に五人を集めた。


写真を見せた。


「誰から」


隆が聞いた。


「『不明』です」


「この建物」


秀が指さした。


「今、北側施設にはないじゃないですか」


「そう」


隼人が頷いた。


「昭和三十八年の『修繕』の時に。恐らく撤去されたんだと思う」


美優が呟いた。


「わざわざ誰かが、この写真をあなたに……」


「送ったんです」


夕子が続けた。


隼人は窓から、暗い山を見つめた。


なぜか。


あの写真が。


山の向こうから届いたような気がした。


だが。


誰が送ったのかは。


分からなかった。


***古い記念誌***


その日の放課後。


隼人は、学校の倉庫に向かった。


松田先生に許可をもらって。


昭和三十年代の『学校記念誌』を探した。


五年ごとに出版されていた。


『昭和三十年記念誌』


『昭和三十五年記念誌』


『昭和四十年記念誌』


昭和三十五年版を開いた。


校舎の見取り図。


建物一覧。


その中に。


「北側附属棟」


という記載があった。


隼人は息を呑んだ。


『附属棟』。


『棟』というのは。


かなり大きな建物を指す言葉だ。


説明は簡潔だ。


「北側附属棟。昭和三十年新築。教材保管および職員休憩室」


昭和三十五年の記念誌の写真には。


その『北側附属棟』が写っていた。


木造。


かなり古めかしい建物。


隼人は、携帯の写真と見比べた。


同じ建物だ。


だが。


昭和四十年版の記念誌には。


『北側附属棟』の記載がない。


建物一覧から消えていた。


『撤去』ではなく。


『解体』だったのか。


隼人は、その言葉に引っかかった。


***見つかった日誌***


倉庫を探り続けると。


隼人は。


一冊の『日誌』を見つけた。


表紙には。


「昭和三十八年 校舎日誌」


と書かれていた。


見るからに古い。


だが。


他の記録よりも。


この日誌だけは。


比較的きれいに保管されていた。


「誰かが大切に保存していた」


隼人はそう感じた。


ページをめくった。


昭和三十八年の一月から三月。


通常の記録だ。


四月。五月。六月。


六月までは。


通常の教育活動の記載のみ。


だが。


昭和三十八年七月。


七月一日の項目に。


初めて。


異なる記載が出現した。


「北側附属棟について、校長より緊急指示を受ける。


本日より当該施設の使用を即座に中止する。


理由は別途。


職員には別紙で周知。」


七月一日。


その日から。


何かが起きたのだ。


隼人は。


さらに先のページをめくった。


七月二日。


「北側附属棟の調査に県教委派遣の職員が来校。


詳細不明。校長指示で記録は別紙。」


七月三日から七月十日までは。


完全に空白だった。


十一日。


「北側附属棟の解体工事、本日より開始。


工事期間:七月十一日~八月二十日。


施工業者及び工事内容は秘匿。


全職員に口外禁止を厳命。」


隼人の手が震えた。


『解体』。


そしてその理由は。


『秘匿』されていた。


***記録の消失***


さらに調べていくと。


昭和三十八年から昭和四十年代にかけて。


学校日誌や教職員会議の記録に。


小さな欠落が増え始めていることに気づいた。


昭和三十八年七月。


「北側施設に関する重要な報告。詳細は別紙」


という記載だけで。


その『別紙』は、どこにも見当たらなかった。


昭和三十九年。


昭和四十年。


同じパターンの欠落が繰り返されていた。


「これは……」


秀が言った。


「昭和三十八年から、記録が『意図的に隠され始めた』ってことですか」


隼人は頷いた。


「その通りです」


***立入制限の公式化***


さらに、学校の公式文書を探すと。


昭和三十八年の校長指示書が見つかった。


それには。


「山側および北西角への生徒の立入を厳格に制限する。


理由は『学校の安全管理上』とし、それ以上の説明は不要。


教職員間での情報共有も、最小限に留めること。」


と書かれていた。


隼人は、その指示書を見つめた。


「昭和三十八年」


隼人が繰り返した。


「その年に、急に『立入制限』が公式化された」


「そして、記録が消され始めた」


隆が言った。


「複数の証拠が、昭和三十八年に集中している」


***札の痕跡***


昭和三十八年七月。


その時刻で。


『何かが始まった』


秀が言った。


「つまり。その年に。学校の北側で。何かが起きた」


隼人が答えた。


「その『何か』は。児童たちに隠されるべき『何か』だった」


「そして。その『何か』の後で。学校は『北側施設を使用しないこと』と決定した」


隆が言った。


「その決定は。昭和五十四年にも引き継がれた」


美優が言った。


「札が貼られ。立入が厳格に制限され。記録が隠された」


隼人は。


部室の壁に貼られた札を見た。


その札が『守っている』もの。


それは。


昭和三十八年の『秘密』だったのか。


それとも。


別のものだったのか。


***花子への確認***


隼人は。


花子を探した。


その夜。


花子が部室に現れた。


隼人は、昭和三十八年の資料を見せた。


花子はそれを見つめた。


長い間。


何も言わなかった。


「うん」


花子が小さく呟いた。


「その年だ」


「その年に、何が?」


隼人が聞いた。


花子は答えなかった。


ただ、窓から山を見つめた。


「『あいつ』がここからいなくなった。昭和三十八年。ここからいなくなった」


花子がぽつりと言った。


「でも、ずっと山の中にいたんです」


「山の中に?」


「うん」


花子が頷いた。


「ずっと。昭和三十八年から。ずっと」


隼人は、その言葉の重さを感じた。


昭和三十八年。


『それ』がここからいなくなった年。


その年に。


何が起きたのか。


何があって。


『それ』は山へ去ったのか。


***新しい問い***


隼人たちは。


初めて気づいた。


『調査をしていること自体が。何かを呼び起こしているのではないか』


その夜。


誰も学校に残らなかった。


だが。


隼人の携帯に。


メールが届いた。


『調べ続けよ。昭和三十八年七月一日。その日に何が起きたのか。すべてを』


隼人は。


そのメールを見つめた。


『調べ続けよ』。


調査を止めるなということか。


それとも。


調査を続ければ。


何かが起きるということなのか。


隼人は。


その夜。


眠れなかった。


校務日誌に書かれた現在の時刻が。


頭から離れない。


誰が書いたのか。


昭和三十八年の人間が。


現在に向けて。


メモを書いているのか。


それとも。


『それ』が。


時間を超えて。


現在にメッセージを送っているのか。


答えは。


まだない。


だが。


隼人たちが調べ続ける限り。


昭和三十八年は。


静かに。


現在に近づき続けるのだ。


七月一日


***七月一日 地方紙の記事***


隼人達は調査の方法を変えた。


昭和三十八年七月一日。


その日の記録を。


学校以外から探ることにしたのだ。


図書館の地方紙。


市役所の資料。


古い公報。


隆が昭和三十八年の地方新聞の縮刷版を見つけた。


「ありました」


その新聞。


昭和三十八年七月二日付。


つまり七月一日の出来事が書かれた版だ。


秀が身を乗り出した。


新聞の記事には。


「学校北側にて――」


と書かれていた。


だが。


その続きが。


黒く塗りつぶされている。


「これ……」


隆が言った。


「保存状態が悪いんですか?」


夕子は新聞を持ち上げた。


その黒い部分の裏を見た。


「違う」


夕子が答えた。


「後から消された。インクが上から塗られてる」


つまり。


昭和三十八年の時点で。


誰かが。


この記事の続きを。


わざと消したのだ。


隼人が別の資料を探した。


別の地方紙。


昭和三十八年七月二日付。


そこにも。


同じ日付の記事がある。


「昨夜。学校北側付近にて――」


だが。


やはり。


その先が。


切り取られていた。


***窓の外***


その時。


部室の窓の外から。


コン……


と音がした。


五人が振り返った。


誰もいない。


部室の窓は。


四階にある。


何が当たったのか。


隆が窓に近づいた。


「何ですか」


秀が聞いた。


隆は窓を開けた。


すると。


窓の下に。


古い新聞の切れ端が。


落ちている。


隆は手を伸ばしてそれを拾った。


古い紙だ。


かなり劣化している。


その紙には。


文字が書かれていた。


「七月一日 北側附属棟にて児童――」


その先が。


破れている。


夕子が言った。


「同じパターンだ」


隼人は。


その切れ端を見つめた。


窓の外。


四階の外に。


こんな古い新聞が。


どうして。


落ちているのか。


夕子が。


その紙の裏を返した。


そこには。


当日の日付が。


書かれていた。


本日の日付が。


***校務日誌の異変***


隼人は。


倉庫から取り出した校舎日誌を開いた。


昭和三十八年七月の部分。


その中でも。


七月一日の記載。


「午後四時。北側附属棟の確認を行う」


「午後四時十五分。児童一名――」


その先がない。


記録は。


そこで途切れている。


隼人は。


ページをめくり始めた。


八月。


九月。


十月。


十一月。


ページをめくり続ける。


そして。


十二月のページを開いた。


その余白に。


見覚えのない文字があった。


『午後四時』


隼人は固まった。


その時刻が。


書かれていた日付は。


本日。


今日だった。


秀が言った。


「昭和三十八年の日誌に?」


隼人は答えなかった。


***音***


その時。


カン……


と。


古い金属を叩くような音が。


聞こえた。


五人は。


動けない。


もう一度。


カン……


今度は。


誰にも分からなかった。


北側から聞こえたようにも。


部室の中から聞こえたようにも。


隆が言った。


「どこからですか」


誰も答えない。


隼人は窓の外を見た。


北側施設には。


誰もいない。


秀が小さく言った。


「これまでは……過去を調べていたんですよね」


隼人は答えなかった。


夕子が呟いた。


「でも、今は……」


その先を。


誰も言わなかった。


隼人は。


もう一度。


北側施設を見た。


誰もいない。


それでも。


カン……


と。


また音がした。


***メール***


その夜。


隼人の携帯にメールが届いた。


差出人は。


『不明』。


本文には。


一行だけ。


『七月一日を調べろ』


隼人は画面を見つめた。


そして。


その下に。


もう一通の連続メールがあることに気づいた。


『もう一度、七月一日を』


隼人の指が止まった。


「……もう一度?」


隼人は呟いた。


自分たちは。


まだ。


一度も。


七月一日を。


調べていない。


では。


『もう一度』とは。


誰が。


何を。


もう一度。


調べたのか。


隼人は。


その言葉を。


何度も読み返した。


誰かが。


隼人たちより先に。


昭和三十八年七月一日を。


調べている。


そして。


もう一度。


調べさせようとしている。


それは誰なのか。


その答えは。


昭和三十八年という過去の中に。


隠されていた。


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