花壇の秘密
隼人たちは謎が深まる中、ある疑問が浮かび上がっていた。。。。
***花壇への疑問***
師匠が去った後。
隼人は、ある違和感に気づいた。
昭和五十四年の卒業アルバムの花壇の写真。
そして、現在の花壇の写真。
「これ……」
隼人が二つを並べた。
「位置が違う」
隆が近づいた。
「どういうことですか」
「昭和五十四年の写真では、花壇がもっと山寄りにある」
隼人が指さした。
「でも、現在の花壇は、山からもっと遠い場所にある」
秀が確認した。
「つまり、花壇が移動されたんですか」
「いや」
隼人が首を振った。
「花壇自体は……この場所に今もある。だが、昭和五十四年には、別の場所にもあったのかもしれない」
「別の場所?」
美優が聞いた。
「昭和五十四年の北西角に」
隼人がそう言った。
「あの『□』が建てられた場所の近くに」
***実地調査***
その日の放課後。
五人は、現在の校舎北西角を調べることにした。
古い柵が立っている場所。
その柵の手前に、わずかな空地がある。
「ここ……」
隆がその空地を見つめた。
「昭和五十年代の図面では、建物が立っていた場所だ」
「今は何もありませんね」
夕子が言った。
だが、地面をよく見ると。
わずかな痕跡が残っていた。
コンクリートの基礎の跡。
そして。
草が育たない、わずかな土のくぼみ。
「あった」
秀が呟いた。
「ここに何か立っていたんだ。確実に」
隼人は、その地面に目を凝らした。
基礎の跡は、明らかに。
建物があった証拠だった。
***花壇の痕跡***
さらに調べていると。
隆が別のものに気づいた。
「これ……」
隆が指さしたのは、わずかな石の並び。
整然と並んだ石。
かつて、何かの境界を示すものだったのかもしれない。
隼人はそれをたどった。
その石の並びは。
山の方から。
現在の花壇の位置まで。
一本の線を引いているように見えた。
「これは……」
隼人が呟いた。
「昭和五十四年の花壇と、この建物が、繋がっていたってこと?」
「同じ機能?」
隆が言った。
「あるいは、同じ『守り』の一部だったのか」
五人は、その可能性に身を震わせた。
昭和五十四年。
山近くに建てられた建物と。
花壇。
それらが、同じ目的で配置されていたのだとしたら。
***花壇を掘る***
隼人は、師匠のアドバイスを思い出した。
「答えは学校の中にある」
「現在の花壇を、調べてみましょう」
隼人がそう言った。
「掘ってみる、ってことですか」
美優が確認した。
「ああ」
隼人が頷いた。
その夜。
誰もいない学校で。
五人は、花壇を掘り始めた。
慎重に。
そして、丁寧に。
深さ三十センチほど掘った時。
隆の鍬が、何かに当たった。
「あ……」
隆が呟いた。
「何かある」
五人は、慎重に土を払った。
そこには。
木製の小さな箱があった。
古い。
昭和五十年代のものに見えた。
隼人は、そっと箱を取り出した。
昭和五十四年の記録
箱の中には。
古い写真があった。
学校の写真。
だが、見たことのない角度の。
北西角の建物の、内部からの写真。
そして。
古い日記のような、ノート。
隆が慎重にページを開いた。
最初のページに。
昭和五十四年七月。
そう書かれていた。
記述は、簡潔で事務的だった。
だが、その中には。
明らかに異常を示す言葉が散在していた。
「『来た』」
秀がそう読んだ。
「『確認した』」
隆が続けた。
「『対応の決定』」
美優が言った。
ページをめくると。
「『札の增強』」
「『建物の設置』」
「『立入禁止の通達』」
次々と、対応の記録が続いていた。
***花子との遭遇***
その時。
部室の気温が下がった。
花子が現れた。
「見つけたんですね」
花子が静かに言った。
五人は顔を上げた。
「花子さん」
隼人が聞いた。
「この箱の中に何があるのか……教えてくれませんか」
花子は、古いノートを見つめた。
「あの年……」
花子がぽつりと言った。
「山から『やつ』が来た。学校の中へ」
「中へ?」
「ああ」
花子が答えた。
「花壇のそば。あの建物の中へ。何かが……」
花子は言葉を止めた。
「いったい、何が来たんですか」
隼人が聞いた。
花子は答えなかった。
ただ。
古いノートの最後のページを指した。
そこには、一行だけ書かれていた。
「『あれを、この場所に封じる。二度と外に出さないために』」
***謎への一歩***
花子が消えた後。
五人は、古いノートを読み続けた。
だが。
重要な部分は、記載されていなかった。
「何が『それ』なのか」
隼人が呟いた。
「書かれていない」
「意図的に、隠されているんですね」
隆が言った。
秀が別の記事に目をやった。
「ここ、『立入禁止の理由については、記載しない』と書いてある」
「やはり」
隼人が言った。
「当時から、意図的に記録を残さないようにしていた」
五人は、古いノートと箱を、部室に持ち込んだ。
窓から、山が見えていた。
夜の山。
その山は、何かを隠し続けているかのようだった。
そして、昭和五十四年に学校がしたことは。
その山からの『それ』を。
この学校の中に。
『封じ』ることだったのだ。
だが。
『それ』が、何なのか。
なぜ『それ』を封じたのか。
なぜ『それ』を外に出さなかったのか。
その答えは、まだ。
古いノートの中には書かれていなかった。
部室の壁には、二枚の札が貼られている。
その札が守り続けているものは。
果たして、何なのか。
五人は、ようやく。
本当の謎に、辿り着こうとしていた。
***花壇と山 位置の意味***
古いノートを読み終えた翌日。
隼人は、古い図面ともう一度向き合った。
昭和五十年代の校舎図。
そこに描かれた「□」と花壇の位置。
そして、現在の花壇の位置。
「これ……」
隼人が呟いた。
「花壇の場所は、意図的に決められている」
隆が近づいた。
「どういうことですか」
「昭和五十四年の『□』の位置と、現在の花壇の位置」
隼人が指さした。
「一直線上に並んでいる。そして、その線は……」
隼人は、定規で線を引いた。
山へ向かって。
「山へ向かっている」
秀が気づいた。
「つまり、花壇は『封印の場所』ではなく」
「『山と結ぶ地点』だったのか」
隆が言った。
隼人は頷いた。
「花壇そのものが何かを『守っている』のではなく」
「山との関係が、何かを『守っている』ってことだ」
***師匠への報告***
その週の金曜日。
瑞希姉さんを通じて、師匠に報告した。
翌日。師匠は部室を訪れた。
古い図面を見た師匠は。
「ああ」
と、小さく呟いた。
「やはり、そうでしたか」
「先生、何か分かったんですか」
隼人が聞いた。
師匠は古い図面を見つめたまま。
「花壇の位置が。山と一直線に並んでいる」
師匠がそう言った。
「これは『偶然』ではなく『意図』ですね」
「つまり」
夕子が言った。
「花壇は『封印の場所』ではなく、『何かを守るための位置関係』だったんですか」
師匠は答えなかった。
代わりに。
「昭和五十四年に」
師匠がゆっくり言った。
「君たちの先輩たちが、『何か』に対して恐れました。それは、『それ』そのものに対する恐れだったのか」
師匠は言葉を止めた。
「それとも」
「それとも?」
隼人が聞いた。
「『それを外へ出してはいけない理由』に対する恐れだったのか」
師匠がそう言った。
「その違いは、大きい」
「何を恐れたのか」
師匠の言葉は、新しい問いを生み出していた。
昭和五十四年。
学校の教職員たちは。
『それ』を恐れたのか。
それとも。
『それが外に出ることの危険性』を恐れたのか。
その区別は。
まったく異なる意味を持っていた。
隆がそれを口にした。
「もし『それ』そのものが悪いものなら」
隆が言った。
「『それ』を封じる。『それ』を隠す。それで終わりですよね」
「ああ」
師匠が頷いた。
「しかし、もし『それを外へ出すこと』が危険なのだとしたら」
秀が続けた。
「『それ』を守ることと『学校を守ること』は、同じ意味になってくるんです」
隼人は、その言葉の重さを感じた。
札が「『それ』を封じるため」ではなく。
「『それ』を守るため」だったとしたら。
そして「学校を守るため」でもあったとしたら。
***花壇の秘密***
師匠は、古い図面の花壇の位置を指した。
「この花壇」
師匠がそう言った。
「生徒たちが毎日、花に水をやります」
「ああ」
隼人が答えた。
「当番制で、誰かが毎日」
「つまり」
師匠がそう言った。
「毎日、誰かが『その場所』に来る。毎日、誰かが『山を見ながら』作業をする」
隼人は、その意味に気づいた。
花壇は。
単なる「花を育てる場所」ではなく。
「山を『見守る』場所」だったのだ。
生徒たちは、気づかないまま。
毎日、山を「監視」していたのだ。
「でも」
美優が言った。
「なぜ、そんなことが必要だったんですか」
師匠は答えなかった。
ただ。
「『それ』が昭和五十四年に『来た』」
師匠がそう言った。
「昭和五十四年に、『それ』は『何かをしかけてきた』」
「花子が言ってた」
隆がそう呟いた。
「『山にいるやつが、その年に、何かをしかけてきた』」
***決定的な言葉***
師匠は、部室の札を見た。
一枚。また一枚と。
壁に貼られた札を。
「昭和五十四年に」
師匠が言った。
「『それ』を決めつけてはいけません」
「決めつける?」
隼人が聞いた。
「つまり」
師匠がそう言った。
「『それ』が『悪いもの』だと決めつけるな、ということです」
「『悪いもの』じゃなくて」
秀が呟いた。
「『守るべきもの』だった、ってことですか」
師匠は答えなかった。
ただ。
窓から、山を見つめた。
「昭和五十四年」
師匠がぽつりと言った。
「学校が『選んだ』こと。それが『正しかったのか』『間違っていたのか』。その判断は」
師匠は五人を見た。
「君たちが、最終的にしなければならないかもしれませんね」
***新しい問い***
師匠が去った後。
五人は部室で、新しい問いを前にしていた。
昭和五十四年。
学校が『封じた』ものは。
『悪いもの』ではなく。
『守るべきもの』だったのか。
そして。
その『守るべきもの』とは。
何なのか。
なぜ『守る』必要があったのか。
なぜ『外に出してはいけない』のか。
隼人は、古いノートに書かれた一行を思い出した。
「『あれを、この場所に封じる。二度と外に出さないために』」
その言葉は。
『囚う』という意味にも。
『守る』という意味にも。
両方で読むことができた。
部室の札は。
『それ』を閉じ込めているのか。
それとも。
『それ』を守り続けているのか。
その答えは。
まだ、暗闇の中にあった。
購読、ありがとうございました。




