師匠の来訪
怪奇現象が静まり朝を迎えた隼人達だった。
***朝日の中で***
朝日が充分に射し込む頃。
瑞希姉さんが部室に到着した。
五人の疲れ切った顔を見て、瑞希姉さんは表情を引き締めた。
「お疲れ様でした」
瑞希がそう言った。
「具体的に、何が起きたんですか」
隼人は、一晩に起きたすべてを説明した。
花子からの警告。カメラによる山からの「下りてくる霊」の確認。部室での札の浮遊。そして、夜明けとともに去る白い影。
瑞希姉さんは、静かに聞いていた。
「分かりました」
瑞希がそう言った。
「これを師匠に報告します。恐らく、師匠は来るでしょう」
***師匠の確認***
その日の午後。
師匠は、再び学校を訪れた。
部室に入ると、師匠はまず札を見た。
壁に貼られた二枚の札。
師匠は、それらを丁寧に確認した。
「……やはり」
師匠が呟いた。
「この札は、本当に大事ですね」
「何か、分かったんですか」
隼人が聞いた。
師匠は部室の窓から、山を見つめた。
「昭和五十四年に」
師匠がゆっくり言った。
「学校は、何かを『隠した』んでしょう。あるいは『封じた』」
「封じた?」
「はい」
師匠が答えた。
「山にいるもの。それを『守る』という名目で、実は『封じる』ために、この札が貼られた。あの建物が建てられた」
「つまり……」
夕子が言いかけた。
「山のものは、危険なんですか」
師匠は答えなかった。
代わりに、古い図面を見た。
昭和五十年代の「□」。
「この建物」
師匠がそう言った。
「ここが、その『封じの中心』だったんでしょう」
昭和五十四年の真実へ
隼人は、師匠に尋ねた。
「昭和五十四年に、何が起きたんですか」
師匠は、少し間を置いた。
「それは」
師匠が答えた。
「君たちが、自分たちで見つけるべきことだと思う」
「自分たちで?」
「ああ」
師匠が頷いた。
「ただ、一つだけ。君たちの調査は、正しい方向に向かっている。昭和五十四年。その年が、すべての始まりだ」
「では、何を調べたら」
隼人が聞いた。
師匠は部室を見回った。
札。
古い図面。
昭和五十年代の資料。
「君たちは『記録』を調べてきた」
師匠がそう言った。
「だが、記録の中には、『誰かの決定』がある。その決定は、『誰かの知識』から生まれた。その知識は、『誰かの経験』から来ている」
「経験……」
「ああ」
師匠がそう言った。
「昭和五十四年。その時、この学校の誰かが、『何か』を経験したんだ。その経験が、その後のすべてを決めた」
***花子への聞き取り***
師匠の言葉を聞いた後。
隼人たちは、花子に直接聞き取りをすることにした。
その夜。部室に花子が現れた。
「花子さん」
隼人が言った。
「昭和五十四年に、学校で何が起きたんですか」
花子は、しばらく黙っていた。
やがて。
「私は……」
花子がぽつりと言った。
「昭和五十四年には、もう……いなかったんです」
「いなかった?」
「うん」
花子が答えた。
「だから、詳しくは知らないんです。ただ……」
「ただ?」
「山にいる『やつ』が、その年に、何かをしかけてきた。だから、学校側が対抗した。札を増やした。建物を建てた」
「山にいる『やつ』が?」
隼人が確認した。
「何をしかけたんだ?」
花子は答えなかった。
ただ、外を見つめていた。
山の方角を。
「それは……」
花子が最後に言った。
「学校の中で、一度だけ起きた。だから、二度と起きないようにしたの」
***五人の新しい質問***
花子が消えた後。
五人は部室で、新しい質問を立てた。
「山にいる『やつ』が、昭和五十四年に『何かをしかけてきた』」
隼人がそう言った。
「つまり、その『何か』を、学校側が『防いだ』あるいは『隠した』ってことだ」
「それがきっかけで、札が増えたり、建物が建てられたり、記録が消されたりしたんですね」
隆が言った。
「そして、その『何か』は」
秀が続けた。
「花壇に関係がある可能性がある」
「だって、花子は『花壇の奥には近づくなと言われた』って聞き取りで出てきたから」
美優が言った。
隼人は、すべての情報を並べた。
昭和五十四年。
山からの脅威。
札と建物による「防ぎ」。
花壇。
そして。
花子。
複数の謎が、一つの事象の周りに集まり始めていた。
だが、その中心にあるのは、まだ暗闇だった。
***師匠への最後の言葉***
その週の金曜日。
師匠は再び部室を訪れた。
五人に、師匠は最後にこう言った。
「君たちが知りたいのは『昭和五十四年に何が起きたのか』だ。その答えは、この学校の中にある」
「この学校の中に?」
「ああ、そうだ」
師匠が答えた。
「そして、その答えは『誰かが守り続けた』という形で、現在まで存在している。それが札であり、その『空間』であり、そして『花子』なんだろう」
「花子が……」
隼人が呟いた。
「昭和五十四年と関係がある」
「その可能性は高い」
師匠がそう言った。
「では、いつ。どこで。何が起きたのか。君たちが『見つけるべき』それは、もう間近だ」
部室の窓から、山が見えていた。
夜の山。
その山は、何かを守るように。
あるいは。
何かを隠すように。
学校の背後にそびえ立っていた。
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