花子の約束
現れた霊、花子との約束とは、、、
*** 花壇での再会***
その夜、隼人たちは五人で花壇に向かった。
「来てくれた」
花子は満足そうに微笑んでいた。
「約束だからな」
隼人が答える。
「で……遊ぶって、具体的には何を」
「遊ぶってね……」
花子がゆっくりと花壇を見回った。
「この花たちの話を聞いてほしいの」
「花たちの……話?」
美優が目を丸くした。
「うん」
花子が一輪のひまわりに指を触れた。
その瞬間、不思議なことが起きた。
ひまわりが、さらに鮮やかに輝き始めたのだ。
そして、その光と共に――映像のようなものが、五人の心に浮かび上がった。
去年の夏。このひまわりを植えた女の子の、笑顔。
毎日、水やりをする小さな手。
そして、卒業する日。その子がひまわりに向かって言った言葉。
愛おしそうに。別れを惜しむように。
映像は消えた。
「あ……」
夕子が、息を失った。
「わかるでしょ」
花子が静かに言った。
「ここには、みんなの思いが、咲いてるんだ」
「花子さんは……」
秀が慎重に尋ねた。
「どうして、そんなことが」
***昔からのこと***
「私、昔ここにいたんだ」
花子は月明かりの下で、遠い目をした。
「ずっと昔から」
「ずっと昔……」
隼人がそっと続ける。
「この学園が、まだ違う建物だった時代」
花子は花壇を見つめていた。
「花が好きな場所だった。ずっと」
その言葉は簡潔だった。詳しい説明はなかった。
「ある日、何か……あった」
花子が、そこで言葉を止めた。
その瞬間、彼女の顔に、ほんの一瞬、深い悲しみが映った。
「その話は……」
花子は微かに首を振った。
「また今度」
そして、話題を変えるように、別の花に指を触れた。
***異変の告知***
そうしていた時だった。
花子の表情が、急に変わった。
「あ……」
彼女は、校舎の方を見つめた。
「誰かが来てる」
「誰が」
隼人が尋ねる。
花子は答えない。ただ、校舎を見つめている。
「花子さん?」
美優が促す。
「違う」
花子が、やっと言った。
「霊じゃない。もっと……古いもの」
「古い?」
「山の方から来てる……」
その言葉で、花子は完全に黙ってしまった。
そして、五人は、感じた。
それまで、花壇に充満していた、温かな空気が。
急速に、冷たくなっていくのを。
夏の夜だというのに、吐く息が、白く見える。
そして最も不気味だったのは。
その冷気の中心が、学校の方にあるように感じられたことだった。
***割れた窓***
「行った」
花子が呟いた。
「何が」
秀が聞く。
その瞬間だった。
校舎の三階の、その窓が――。
ひどい音を立てて、割れた。
ガラスが、激しく飛び散った。
誰が割ったわけでもないのに。
何かが、内側から、叩き割ったかのように。
「何だ、あれ」
隆が声を失いかけた。
五人はしばらく、その場から動くことができなかった。
やがて花子の姿も消え、五人は何も分からないまま、部室へ戻ることにした。
***翌朝の調査***
朝になり、隼人たちは学校に来た。
校舎の割れた窓は、既に職員室で把握されていた。
休み時間に、隼人は慎重に、その窓の周囲を調べた。
校舎の外。
地面には、小石や砂利があった。
だが。
窓を割った石が、どこにもなかった。
外側から何かを投げた形跡も、ない。
そして隆が気付いた。
「あ……」
「何?」
隼人が聞く。
「昨日、確かにガラスが飛び散ってたよな……」
隆がそう言った。
そして五人は、気付いた。
割れた窓の周囲に。
ガラスの破片が、ほとんど落ちていないことに。
まるで、最初からそこにないかのように。
***モニターの映像***
放課後、部室に戻ると、隆が既にモニターをチェックしていた。
「昨夜のは、ちゃんと映ってるよ」
隆が言った。
「窓が割れる前に、人影が見えてる」
モニターを見た。
確かに、校舎の窓の奥に。
人間のような影が、立っていた。
ぼんやりとしているが、確かに、そこにいる。
「窓を割ったのは、その人影?」
秀が尋ねた。
「多分……」
隆がそう答えた時、隼人は思いついた。
「校舎行ってみよう」
「は?」
隼人は既に動いていた。
五人は校舎の三階へ向かった。
その窓のある廊下へ。
廊下は、当然のように、誰もいなかった。
窓は割れたまま。
だが。
その周囲は、奇妙なほど、何もなかった。
ガラスの破片さえ、ほとんど落ちていない。
まるで、最初からそこにいなかった。
そういう感覚を覚えた。
「これ、変だぞ」
秀が呟いた。
「でかい音がしたのに、破片が少なすぎる」
その時、隆がモニターを見直していた。
「あ……」
隆の声に、全員が振り返った。
「窓の奥に映ってた人影……」
隆の顔が、蒼くなっていた。
「もういない」
***夜の花壇***
夕方、隼人たちは花壇を見に行った。
花子がいるか、確認するためだった。
だが。
花壇には、誰もいなかった。
そして。
ひまわりが。
白くしぼんで、枯れていた。
昨夜、花子が思い出を見せてくれたそのひまわりが。
まるで、生気を吸い取られたかのような。
そういう枯れ方をしていた。
「花子さん……」
隼人が呼びかけた。
返事はない。
花壇全体に、ひんやりとした空気が漂っていた。
***部室での発見***
部室に戻った時、隆が壁を見た。
「あ……」
壁に貼られていたお札の一枚が、床に落ちていた。
瑞希からもらった、その札は。
自然に落ちたのではなく。
何かに、引き剥がされたように見えた。
「何だ、これ」
秀が拾い上げると、札は冷たかった。
妙に、冷たかった。
部室の中なのに。
その夜、五人は部室に残り、明け方まで過ごすことにした。
電灯をつけ、扇風機を回し、ラジオをつけた。
日常の音に包まれることで、心を落ち着かせるためだった。
スタンドの光に包まれて、五人は待った。
そして、午前一時を過ぎた頃。
コン。
外から、音がした。
小さな、だが明らかに意図的な音。
五人は全員、振り返った。
部室の窓に、何かが接近した、そう感じた。
だが。
窓の外には、何もいなかった。
その後、夜明けまでの間、五人は互いに顔を見つめ合うことしかできなかった。
ただ、花子はどこにいるのか。
その問いだけが、五人の心を占めていた。
明け方が来た時、五人はほぼ同時に気付いた。
「もう、自分たちだけで調べるのは無理かもしれないな」
隼人が小さく言った。
「今日、先生に相談しよう」
その言葉に、誰もが頷いた。
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