花壇の花子さん
園芸部から、ある相談を受ける事になった。その相談とは、、、
***園芸部からの相談***
放課後、葵が部室を訪れた。
「ちょっと聞いてほしいことがあって」
葵の表情はいつになく真剣だった。
「どうしたの」
美優が椅子を勧める。
「最近、うちの花壇に変なことが続いてて」
葵が話し始めた。
「朝来ると、植えた苗の位置が変わってたり、土が掘り返されてたりするの」
「動物とか?」
秀が尋ねる。
「最初はそう思ったんだけど……」
葵は少しためらいながら続けた。
「夜、誰かがいる気配がするって、他の部員も言ってて」
「気配……」
夕子が繰り返す。
「怖いってわけじゃないの」
葵が慌てたように付け加えた。
「なんていうか……いたずらっぽい感じ、っていうか」
「いたずらっぽい?」
隼人が聞き返す。
「うまく言えないんだけど……」
葵は少し困ったように笑った。
「調べてみてもらえないかな」
「もちろん」
隼人が頷いた。
「隣の部室だしな。俺たちに任せて」
***カメラの設置***
「今回は、体育倉庫から園芸部の花壇に向けてカメラを仕掛けよう」
隆が提案した。
「フェンス越しに見える位置があるはず」
「距離はあるけど……」
夕子が窓の外を確認する。
「ズームで対応できそうね」
その日の夕方、五人は部室の窓際にカメラを設置した。
「これで花壇の様子が映るはず」
隆がモニターを確認しながら言う。
「あとは夜を待つだけだな」
秀が腕を組んだ。
***夜の異変***
その夜、隼人たちは部室に残り、交代でモニターを見張ることにした。
「今のところ何もないな」
秀があくびを噛み殺しながら言う。
時計の針が夜の九時を回った頃だった。
「……あれ」
モニターを見ていた隆が身を乗り出した。
「花壇の方、何か動いてる」
全員が慌ててモニターを覗き込む。
小さな白い影が、花壇の間をゆっくりと動いていた。
その、足元だけが――地面に、触れていないように、見えた。
まるで、宙に、浮いているかのように、影は、音もなく、滑るように、動いていく。
「今の、歩いて、なくないか……?」
秀が、震える声で、呟いた。
モニターの、映像が、一瞬、ザザッと、乱れる。
「行ってみよう」
隼人が立ち上がった。
***花壇にて***
五人はそっと部室を出て、フェンス沿いに園芸部の花壇へと向かった。
近づくにつれ、空気が、ひんやりと、冷たくなっていくのを、感じた。
夏の夜だというのに、吐く息が、うっすらと、白く見える気がした。
月明かりの下、花壇の真ん中に――。
小さな人影が佇んでいた。
中学生くらいの、幼さの残る少女だった。
白いワンピースを着て、両手でそっと花を抱えている。
だが、その、輪郭は――月の光を、透かすように、うっすらと、揺らめいていた。
風もないのに、少女の、長い髪だけが、ゆらゆらと、揺れている。
「あの……」
隼人が恐る恐る声をかけた。
少女が振り向く。
その瞬間、周囲の、花たちが、一斉に、震えるように、揺れた。
その瞳が悪戯っぽく、きらりと光った。
***花子さん***
「見つかっちゃった」
少女はくすくすと笑った。
その、笑い声だけが、妙に、はっきりと、耳に、届いた。
まるで、すぐ、そばで、囁かれているかのように。
「あなたは……」
美優が尋ねる。
「花子。ここの花壇、時々お邪魔してるの」
花子と名乗った少女は、悪びれる様子もなく答えた。
抱えていた、花に、指を、通してみせる。
その、指は――花びらを、すり抜けていた。
「苗、動かしたり土、掘り返したりしてるのは……」
夕子が確認するように尋ねる。
「そうそう」
花子があっさりと認めた。
「だって、みんなが朝慌てて直そうとする顔見るの、楽しいんだもん」
「花子さん……」
秀が呆れたように呟いた。
「それ、完全にいたずらだよな」
「怒った?」
花子が小首を傾げる。
その、動きに合わせて、髪が、一拍、遅れて、揺れた。
その表情には悪意はまるで感じられなかった。
ただ無邪気ないたずら心だけが伝わってくる、そんな様子だった。
***これからのこと***
「花子さんは、どうしてここにいるの」
隼人が静かに尋ねた。
花子は少し考えるように花壇を見渡した。
「この場所……昔から好きなの」
「昔から、って……」
「ずっと昔から」
花子はそれ以上詳しくは語らなかった。
「でも、園芸部のみんなが困ってるんだ」
隼人が続けた。
「いたずら、少し控えてもらえないかな」
花子はしばらく隼人を見つめていた。
やがて、にっと笑う。
「じゃあ、条件があるの」
「条件……?」
「たまに私と遊んでくれるなら、いたずらやめてあげる」
花子は悪戯っぽく笑った。
隼人たちは思わず顔を見合わせた。
「……それなら、いいかもしれないな」
隼人が苦笑した。
こうして新霊体験隊は、また一人、少し変わった隣人と出会うことになった。
夜風に花壇の花々が静かに揺れていた。
その傍らで、花子は満足そうに微笑んでいた。
その夜、五人が部室へ戻ったあとも、花子は花壇に残っていた。
月明かりの下で、花子は校舎の方を、じっと見つめている。
誰もいないはずの、暗い校舎を。
「……あの人、また来てる」
花子は小さく呟いた。
その声は、誰にも届かなかった。
やがて花子は、何事もなかったように、花壇へ向き直った。
そして、一輪の花を、そっと撫でた。
その瞳から、さっきまでの、無邪気な笑みが、静かに消えていた。
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