秘密基地、始動
島から戻った隼人たちは再びいつもの生活、部活に戻っていた。
*** 離れ小島のような部室***
オカルト研究会――対外的には、新聞部を、名乗る、新霊体験隊の、部室は、校舎から、少し、離れた、場所に、あった。
グラウンドの、端。
使われなくなった、古い体育用具の倉庫を改装した、小さな建物。
他の部室とは離れ、まるで学校の中に浮かぶ小さな、島のようだった。
「ここだけ、別世界だよな。」
隆が、周囲を見回す。
隣には、園芸部の花壇と畑。
季節の花が咲き、野菜が青々と育っている。
一方、新霊体験隊の部室は古びたトタン屋根の、倉庫。
雰囲気は、正反対だった。
「トイレ、行くのも一苦労だよな。」
秀がよくこぼす事だった。
最寄りのトイレは、体育館の、隣まで歩かなければない。
決して、近いとは言えない距離だった。
「静かなのは、いいけど、さ。」
秀が、汗を、拭う。
「夏は、地獄だ。」
誰も、否定できなかった。
***暑さ対策会議***
部室の中では二台の扇風機と冷風機が回っていた。
しかし、熱気は、ほとんど、逃げない。
「断熱材を、入れれば、かなり違うと思う。」
秀が、天井を、見上げる。
「屋根が熱を全部、受けてる。」
「でも、俺たちだけじゃ、無理だよな。」
隼人が、腕を、組む。
そこへ美優が、提案する。
「工作部の大井君に、相談してみない?」
「木工が得意って、聞いたことが、あるの。」
「そうだな。」
隼人は頷いた。
「相談だけでも、してみよう。」
***工作部の協力***
翌日。
隼人たちは、工作部を訪ねた。
春樹は部室を一通り見回すと苦笑した。
「思った以上に、暑いな。」
事情を聞いた春樹は少し考える。
「俺一人じゃ難しいけど先輩に相談してみる。」
数日後。
工作部の、三年生、二人も、部室へ、やって来た。
天井を、見上げた先輩が、笑う。
「これは、改造しがいが、あるな。」
***校長先生の許可***
ただ一つ問題が、あった。
「学校の建物だから勝手に工事は、できないね。」
夕子が、言う。
そこで顧問の先生を通して、校長へ、相談することになった。
工作部の活動実習も兼ねること。
安全第一で施工すること。
学校の備品を壊さないこと。
その条件で正式に許可が下りた。
「これで安心して作業できるな。」
春樹は、ほっと息をついた。
***みんなで作る秘密基地***
夏休み最後の週。
工事が始まった。
工作部の先輩が骨組みを作り、
春樹が寸法を測る。
秀は材料運び。
隼人は釘打ち。
隆は作業を写真に残す。
美優と夕子は掃除と整理を担当した。
誰一人、見ているだけでは、なかった。
天井には断熱材が入り、その下に天井板が張られていく。
さらに天井裏には小さな収納スペースも完成した。
「これなら資料も、しまえる。」
夕子が、嬉しそうに、笑った。
***壁と本棚***
続いて壁。
冷たい、コンクリートブロックの内側に断熱材を入れ、
その上へ木目調の化粧板を張る。
部屋の雰囲気は、一変した。
「なんだか、山小屋、みたい。」
美優が目を輝かせる。
さらに壁一面には丈夫な本棚も作られた。
妖怪辞典や民俗学の本。
録音機材。
調査資料。
今まで段ボールへ積んでいた物が、きれいに並んでいく。
「これで探しやすくなる。」
隆も、満足そうだった。
夕子は、新しい本棚に並べられた妖怪辞典を何気なく、手に取った。
パラパラと、ページを、めくると――。
一枚の古い新聞の切り抜きがはらりと床へ落ちた。
『○○地区で夜ごと人影を目撃』
記事は、ところどころ色あせ年月を感じさせた。
「……?」
夕子は首を傾げた。
ずいぶん昔の新聞らしい。
誰かが栞代わりに挟んでいたのだろうか。
その時は、まだ誰も気に留めなかった。
夕子は、その切り抜きをそっと本の間に戻し棚へ並べ直した。
***外回りの整備***
最後は外だった。
窓の上には木製の日除け。
入口にも小さな庇を取り付ける。
さらに古い水道は蛇口を交換し洗い場として使えるよう整えられた。
「山から帰ったら、ここで靴も洗えるな。」
秀が笑う。
「道具も手入れ、できるね。」
美優も頷いた。
***完成***
夕方。
全員で、部室を、見回した。
まだ、豪華ではない。
冷蔵庫も、テレビも、ない。
寝泊まりできる、設備も、ない。
それでも以前とは、比べものに、ならないほど快適だった。
「うわぁ……。」
美優は思わず、小さく声を漏らした。
「本当に俺たちの部室なのか?」
隆は壁をそっと撫でる。
「夏でも、こんなに違うんだな。」
秀は、天井を見上げながら感心した。
「これなら資料整理もはかどりそう。」
夕子は本棚を眺めて微笑む。
隼人は、そんな仲間たちを見渡し静かに頷いた。
「秘密基地らしく、なったな。」
隼人が、笑う。
「これから、少しずつ、揃えていこう。」
隼人は、静かに、部室を、見回した。
以前は暑さに耐えるだけの古い倉庫だった。
それが今では、仲間たちの手で生まれ変わっていた。
「ここなら……。」
隼人は小さく笑った。
「みんなで帰ってこられる場所になる。」
誰も言葉を返さなかった。
だが全員が同じことを思っていた。
春樹も満足そうに頷いた。
「全部一度に作るより、その方が楽しい。」
工作部の先輩たちは道具を片付けながら笑った。
「困ったら、また呼べ。」
「ありがとう!」
五人は、深く、頭を、下げる。
工作部の先輩たちが帰り支度をしているとフェンスの向こうから声が掛かった。
「あら、随分、きれいになりましたね。」
園芸部の部員が、じょうろを片手にこちらを見て微笑んでいた。
「日除けとか、いいですね。うちも真似しようかな。」
「ありがとうございます。」
美優が、笑顔で、答えた。
「これからも、よろしく、お願いします。」
「こちらこそ。」
園芸部員は、そう言って、また花壇の水やりへと戻っていった。
花壇からは土の匂いと水を含んだ草花の香りが風に乗って流れてきた。
フェンス一枚、隔てた、隣同士。
それでも確かに同じ校庭の一部だった。
窓から吹き込む風は、以前よりもずっと涼しかった。
夕暮れの中、新しい部室の窓には柔らかな、明かりが灯る。
校庭の隅にある小さな建物。
そこは、仲間たちが汗を流しながら作り上げた新霊体験隊だけの秘密基地だった。
そして、この穏やかな日々が、やがて春樹の「ある相談」へとつながっていくのだった。
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