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新霊体験隊  作者: waku


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20/56

開いてはいけない

隼人たちは、不穏な気配を感じていた。

*** 送信***


 翌朝、隼人は、朝食の前に、瑞希へ、メッセージを送った。


 昨日、蔵で見つけた日記の内容。


 写真に写り込んだ、白い輪郭。


 拡大して見えた、三つの人影。


 そして――ファイル名が、勝手に「六人目.jpg」に変わったこと。


 写真データも、添えて、送信する。


 既読が、すぐについた。


 だが、返信は、なかなか来なかった。


「瑞希姉さん、見てるのかな。」


 美優が、心配そうに、スマートフォンを覗き込む。


 十分ほど、待った頃だった。


 電話が、かかってきた。


***瑞希の悲鳴に近い声***


「もしもし。」


 隼人が、応答する。


『――その写真、今すぐ、消さないで!』


 瑞希の声は、これまで聞いたことがないほど、切迫していた。


「え……、消さないで、って言ったんですか。」


『そう。消さないで。でも――。』


 瑞希は、一度、言葉を切った。


『絶対に、夜、その写真を、開かないで。』


「どういうこと、ですか。」


『理由は、うまく説明できない。』


 瑞希の声が、震えていた。


『でも、その写真を見た瞬間、頭の中に、警報みたいなものが、鳴り響いたの。』


「警報……。」


『あの写真は、ただの記録じゃない。』


 瑞希は、一つ一つ、言葉を選ぶように、続けた。


『多分――窓なの。』


「窓?」


『こちら側と、向こう側を、繋いでしまう、窓。』


 部屋に、緊張が走った。


***六人目という言葉***


「瑞希姉さん、ファイル名のことも、見ましたか。」


 隼人が、尋ねる。


『……ええ。』


 瑞希の声が、一段と、低くなった。


『「六人目」。』


 瑞希は、その言葉を、口にした瞬間、突然、黙り込んだ。


「瑞希姉さん?」


『……ごめんなさい。』


 しばらくして、瑞希が、小さく、呟いた。


『昔、一度だけ……似たような話を、聞いたことがあるの。』


「似たような話、って。」


『写真じゃない。でも……数えた人数と、実際にいる人数が、合わなくなる話。』


 瑞希の声が、震えていた。


『その時、師匠は、言っていたわ。』


『「向こうが数え始めた時は、こちらも、数えられていると思え」って……。』


 隼人は、背筋が、冷たくなるのを感じた。


『それが、何を意味するのか、まだ、分からない。』


 瑞希は、低い声で、言った。


『でも、一つだけ、分かることがある。』


 電話の向こうで、瑞希が、一度、息を呑む気配がした。


『あちら側は――あなたたち五人を、見つけた。』


 隼人は、息を呑んだ。


 瑞希の声には、隠しきれない、不安が滲んでいた。


***新しい約束***


『いい、隼人君。』


 瑞希は、はっきりとした口調で、続けた。


『写真は、今のまま、健一さんに預けて。データも、それ以上は、開かないこと。』


「分かりました。」


『それと、今夜――今夜だけは、絶対に、五人全員で、同じ部屋にいて。』


「同じ部屋、ですか。」


『一人にならないで。誰も、部屋を離れないこと。』


 瑞希の声には、有無を言わせない、強さがあった。


「はい、約束します。」


『私も、明日には、必ず、そちらへ向かうから。』


 瑞希は、そう言うと、一度、大きく、息を吸った。


『隼人君。』


「はい。」


『怖い思いを、させてしまって、ごめんなさい。』


「瑞希姉さんのせいじゃないです。」


 隼人は、努めて、落ち着いた声で、答えた。


『でも……この島に呼んだのは、私だから。』


 瑞希の声には、自分を責めるような、響きがあった。


 通話が、切れる。


 隼人は、皆に、瑞希との会話を、伝えた。


「今夜は、全員で、一緒にいよう。」


 誰も、異論はなかった。


 窓の外は、今日も、穏やかな、夏の青空が広がっている。


 だが、その空の下、山の稜線だけが、変わらず、暗い影を、落としていた。


 その時、隆のスマートフォンが、震えた。


「……誰からだ?」


 全員が、画面を、覗き込む。


 表示されていた名前は――


 『不明』


 だった。


 隆は、恐る恐る、それを、開いた。


 そこには、一枚の写真が、添付されていた。


 撮影された場所は――今、自分たちがいる、ペンションの部屋。


 撮影時間は――十年前。


 そして、写真の中には、五人の姿が、写っていた。


 隼人は、一瞬、安心しかけた。


 だが――。


「……待って。」


 夕子の声が、部屋に、響いた。


「これ……おかしい。」


「何が?」


 夕子は、写真の端を、指差した。


「この写真が撮られたのは、十年前よね。」


「そうだな。」


「なのに……。」


 夕子の指先が、震えていた。


「どうして、私たちの服装まで、今と、同じなの?」


 全員が、息を呑んだ。


 写真の中の五人は、確かに、今日、着ているのと、同じ服を着ていた。


 誰も、言葉を、発せられなかった。


 午後五時――その刻限は、今日もまた、確実に、近づいていた。


***存在しない写真***


 翌朝、隼人たちは、健一に、昨夜の写真を見せた。


「これ、見てもらえますか。」


 隼人が、スマートフォンの画面を、健一に差し出す。


 健一は、写真を見た瞬間、表情を、こわばらせた。


「これは……。」


「この部屋、今、俺たちが泊まってる部屋、ですよね。」


「ああ、間違いない。」


 健一は、写真を、じっと見つめたまま、続けた。


「だが、おかしい。」


「何がですか。」


「このペンション、俺が建てたのは、八年前だ。」


 部屋に、沈黙が落ちた。


「十年前には……この建物は、まだ、無かった。」


「そんな……。」


 美優が、声を、震わせる。


「存在しない場所の、存在しない時間の写真ってこと……?」


 誰も、答えられなかった。


***六人目のはずが***


 その日の午後、隼人たちは、集落へ、買い出しに出ていた。


 昨日、雨戸を早々に閉めていた店の女性が、今日は、店先に、座っていた。


「あら、お兄ちゃんたち。」


 女性は、五人を見て、にこりと笑った。


「昨日は、六人だったのに、今日は五人なのね。」


「え……?」


 隼人が、思わず、聞き返す。


「六人、ですか。」


「そうよ。昨日、灯台の方で見かけたわ。」


 女性は、当然のように、続けた。


「背の高い子が一人、増えてたじゃない。」


 五人は、顔を見合わせた。


 誰も、そんな人物に、心当たりはなかった。


「すみません、俺たち、ずっと五人なんですけど……。」


 隼人が、慎重に、言う。


 女性は、きょとんとした顔をした。


「あら、そうだったかしら。」


 そう言うと、女性は、少し、首を傾げて、それ以上は、気にする様子もなく、また、店の奥へと戻っていった。


「……今の、何だったんだ。」


 秀が、青ざめた顔で、呟いた。


***島民たちの記憶***


 集落を歩く間、他にも、何人かの島民に、声を掛けられた。


「灯台で写真、撮らせてもらったよ。六人揃って、いい笑顔だったね。」


 と、老人が、懐かしそうに、言う。


「昨日は、賑やかだったなぁ。六人組さんは。」


 と、別の店の主人が、笑いながら、言う。


 誰もが、当然のように、「六人」だったと、口にした。


 そして、誰もが、その六人目について、具体的なことは、何も、覚えていなかった。


「背が高かった」


「静かな子だった」


「あまり、喋らなかった」


 その程度の、曖昧な印象しか、残っていなかった。


「……これ、まずいわ。」


 夕子が、低い声で、言った。


「島の記憶そのものに、何かが、入り込んでる。」


「記憶に……?」


「私たちの記録は、五人のまま。でも、島の人たちの記憶の中では、もう、六人になってる。」


 夕子は、静かに、続けた。


「もし、これが、少しずつ、進んでいるとしたら――。」


 その先を、夕子は、言わなかった。


 だが、全員が、同じことを、考えていた。


 いつか、自分たち自身の記憶も、書き換えられてしまうのではないか、と。


***健一の告白***


 夕方、ペンションに戻ると、健一が、深刻な表情で、待っていた。


「実は、一つ、話してないことがある。」


「何ですか。」


「祖母の日記、あの続きを、今日、思い出して、探してみたんだ。」


 健一は、一枚の、古びた紙を、テーブルに置いた。


 日記帳から、切り離されたと思しき、一ページだった。


「これは……。」


「日記の最後のページだ。今まで、見つけられなかった。」


 健一の声は、震えていた。


「祖母は、こう、書き残していた。」


 健一は、その紙を、読み上げた。


 ――迎え火は、数を数える。


 ――一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。


 ――五つ揃った時、迎えは、完成する。


 ――そして、五つ目に選ばれた者だけが、山から、戻ってこられない。


 部屋の空気が、凍りついた。


「五つ目……。」


 隼人が、掠れた声で、呟く。


「今、俺たちは、五人だ。」


 健一は、震える声で、続けた。


「もし、あの写真が、本当に『六人目』を、示しているとしたら……。」


「六人目が現れた時、初めて、五つ目が、選ばれる、ってこと……?」


 美優の声が、震えていた。


 誰も、それに、答えられなかった。


 窓の外、山の稜線の向こうから、太陽が、傾き始めていた。


 午後五時――その刻限は、今日もまた、確実に、近づいていた。


 そして、今夜もまた、鐘は、鳴るはずだった。


 五つ、鳴るのか。


 それとも――。


*** 山を見るな***


 夕方、健一が、五人の部屋を、訪れた。


「今日は……。」


 健一の顔は、これまでで、一番、青ざめていた。


「今日だけは、絶対に、山を見ないでくれ。」


「見ない方が、いいんですか。」


 隼人が、尋ねる。


「灯りが見えても、鐘が鳴っても、窓の外を、見るな。」


 健一は、カーテンを、きつく、閉め切った。


「頼む。約束してくれ。」


 全員が、頷いた。


 健一は、それだけ言うと、逃げるように、部屋を、後にした。


***それぞれの夢***


 夜、隼人たちは、五人で、同じ部屋に、布団を並べて、横になっていた。


 誰も、すぐには、眠れなかった。


 だが、いつの間にか、一人、また一人と、うとうとし始めていた。


 隼人は、夢を、見た。


 夢の中で、隼人は、一人、暗い参道を、歩いていた。


 誰かが、後ろから、呼んでいる気がした。


 振り返っても、誰もいない。


 だが、確かに、自分の名前を、呼ぶ声が、聞こえていた。


 ――ハヤト。


 目を覚ますと、隣で、美優が、うなされていた。


「……美優?」


 揺すって起こすと、美優は、はっと、目を開けた。


「……誰かに、手を、引かれる夢を、見た。」


 美優の声は、震えていた。


「振りほどこうとしたけど、できなくて……。」


 同じ頃、秀もまた、目を覚ましていた。


「俺も、変な夢……見た気がする。」


 秀は、珍しく、弱々しい声で、言った。


「誰かが、俺の名前を、呼んでた。」


 夕子と隆も、目を覚ましていた。


 誰も、それ以上は、口にしなかった。


 だが、五人全員が、同じような夢を、見ていたことは、確かだった。


***六人目の場所***


「……写真、もう一度、見てみない?」


 隆が、震える声で、提案した。


 誰も、反対しなかった。


 昨夜の、あの写真を、もう一度、開く。


 窓際に、立っていたはずの人影は――。


「……動いてる。」


 夕子が、掠れた声で、言った。


 その人影は、今度は、部屋の入り口の方に、立っていた。


 昨夜とは、明らかに、位置が、違っていた。


「これ、時間が経つごとに、動いてるってこと……?」


 美優の声が、震える。


「近づいて……きてる、のか。」


 隼人が、呟いた。


 誰も、それを、否定できなかった。


***五つ目の音***


 時計の針が、午後五時に、近づいていた。


 健一の忠告通り、カーテンは、固く、閉め切られている。


 誰も、窓の外を、見なかった。


 だが、全員が、息を殺して、外の気配を、探っていた。


 ゴォーン……。


 一つ目の鐘が、遠くから、響いた。


 誰も、声を出さなかった。


 ゴォーン……。


 二つ目。


 美優が、隣の隼人の袖を、無意識に、握りしめた。


 ゴォーン……。


 三つ目。


 秀の額に、汗が、伝う。


 ゴォーン……。


 四つ目。


 全員が、息を、止めた。


 ――ここで、いつもなら、五つ目が、鳴る。


 だが。


 鳴らなかった。


 静寂が、部屋を、満たした。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


「……終わった、のか……?」


 秀が、掠れた声で、呟いた、その瞬間だった。


 ゴォーン……。


 五つ目の鐘が、鳴った。


 だが、その音は――。


 窓の外からではなかった。


 この、部屋の中から、聞こえていた。


 五人は、同時に、凍りついた。


 誰も、動けなかった。


 部屋の隅、暗がりに沈んだ、そこに――。


 何かが、立っている、気配がした。

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