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新霊体験隊  作者: waku


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19/56

帰ってきた人

隼人たちは、島の謎を探るため、調査を行っていた。

***再び、健一へ***


 朝食を終えると、五人は、健一の元へ向かった。


 健一は、ペンションの裏手で、漁具の手入れをしていた。


「健一さん。」


 隼人が、声を掛ける。


「ん、どうした。」


 健一が、顔を上げた。


「昨日の話、もう少し、詳しく聞かせてもらえませんか。」


「昨日の話……。」


「祖母さんから聞いたっていう、島の外から来た人の話です。」


 健一の手が、一瞬、止まった。


「……そこまで、知りたいのか。」


「はい。」


 隼人は、はっきりと頷いた。


「瑞希姉さんにも、頼まれたんです。その人が、帰ってきた後、どうなったのか。それが、重要な手がかりになるかもしれないって。」


 健一は、しばらく、隼人を見つめていた。


 やがて、漁具を置き、深く、息を吐いた。


「……分かった。もう一度、話そう。」


***蔵の中***


 健一は、五人を、ペンションの裏にある、古い蔵へと案内した。


「ここに、祖母の遺品が、少し残ってるんだ。」


 埃っぽい蔵の中には、古い家具や、木箱が積まれていた。


 健一は、その中から、一つの木箱を取り出す。


「これは……。」


 箱の中には、色あせた写真と、古い日記帳が、収められていた。


「祖母がつけていた、日記だ。」


 健一は、その日記帳を、丁寧に開いた。


「この辺りに、確か……。」


 ページをめくる手が、止まる。


「あった。」


 健一は、その部分を、隼人たちに見せた。


 達筆だが、かすれた文字で、こう書かれていた。


 ――昭和のある年、若い男が一人、島を訪れた。


 ――男は、島の伝承に強い興味を示し、禁を破って、山へ入った。


 ――三日後、男は、一人で、山を下りてきた。


「三日……。」


 夕子が、小さく呟く。


「普通なら、一晩か二晩で、戻ってこられる距離のはずなんだが。」


 健一が、補足するように言った。


***日記の続き***


「その先も、書いてあるんですか。」


 美優が、尋ねる。


 健一は、頷き、ページをめくった。


 ――男は、戻ってきた後、以前とは、様子が違っていた。


 ――口数が少なくなり、いつも、山の方角を、見つめていた。


 ――島の者たちは、次第に、男を、避けるようになった。


「避けられた……?」


 隼人が、聞き返す。


「ああ。祖母は、こう書いている。」


 健一は、続きを読み上げた。


「――『あの人は、帰ってきたはずなのに、何かを、山に置いてきたようだった』と。」


 部屋に、重い沈黙が落ちた。


「その人は、それから、どうなったんですか。」


 隼人が、尋ねる。


 健一は、ページをめくり続けた。


 だが、途中で、手が止まった。


「……ここで、終わってる。」


「終わってる、って……。」


「日記が、途切れてるんだ。この日以降、何も、書かれていない。」


 健一は、日記帳を、静かに閉じた。


「祖母に聞いても、それ以上は、話してくれなかった。」


***写真***


「この写真は……。」


 隆が、木箱の中の、古い写真を、手に取った。


 白黒の写真には、若い男が一人、神社の鳥居の前で、写っていた。


 男の表情は、どこか、不安げだった。


「これが、その人ですか。」


「多分な。」


 健一が、頷いた。


「名前は……祖母は、決して、口にしなかった。」


 その時だった。


 夕子が、写真の隅を、じっと見つめていた。


「……この写真、おかしいわ。」


「え?」


「よく見て。」


 夕子が、写真を、皆に見せる。


 男の背後、鳥居の奥――暗い参道の入り口に、何か、白いものが、写り込んでいた。


 ぼんやりとしていて、はっきりとは分からない。


 だが、それは、まるで――。


 人の、輪郭のように見えた。


「これ、まさか……。」


 美優が、声を、震わせる。


「誰かが、写り込んでる……?」


 健一が、写真を、覗き込んだ。


「……こんなもの、今まで、気づかなかった。」


 健一の顔から、みるみる、血の気が引いていった。


 隼人は、その白い輪郭を、じっと見つめた。


 胸の奥が、不自然に、ざわついた。


 その瞬間、昨夜、通話が切れる直前に聞こえた、あの声が、頭をよぎった。


 ――『……まだ、五つじゃない。』


 理由は、分からない。


 だが、あの声と、この写真の奥に立つ「何か」が、同じもののように、思えてならなかった。


 隆は、とっさに、その写真を、スマートフォンで撮影した。


 その時は、誰も、気づかなかった。


 本当の異変は、写真を拡大した時に、初めて現れることを――。


 窓の外、山の方角から、風に乗って、かすかに、鐘の余韻のような音が、聞こえた気がした。


 まだ、午後五時には、早い時間だった。


***拡大された影***


 その夜、部屋に戻った隆は、パソコンを開いていた。


「隆、まだ起きてるのか?」


 秀が、欠伸をしながら、声を掛ける。


「ちょっと、待ってくれ。」


 隆は、真剣な表情で、画面を見つめていた。


「今日、健一さんの蔵で見た写真、撮っておいたんだ。」


「え、いつの間に。」


「無意識にな。何か、記録しておかなきゃって、体が勝手に動いた。」


 隆は、スマートフォンから、パソコンへ、写真データを転送する。


 画面いっぱいに、あの白黒写真が、映し出された。


「これを、拡大してみる。」


 隆が、鳥居の奥――白い輪郭が写り込んでいた部分を、少しずつ、拡大していく。


「隆、何やってるんだ?」


 隼人と美優、夕子も、部屋に集まってきた。


「あの、白いものを、もっとよく見てみたくて。」


 画面が、ゆっくりと、拡大されていく。


 粒子が、荒くなり、輪郭が、少しずつ、はっきりとしてきた。


「……あ。」


 美優が、小さく、声を漏らした。


*** 拡大された姿***


 拡大された画面には、白い輪郭が、より鮮明に、映し出されていた。


 それは、大人の男の輪郭では、なかった。


 もっと、小さい。


 子どもほどの、大きさだった。


「子ども……?」


 隼人が、思わず、呟く。


「顔は、見えない。」


 夕子が、画面を、じっと見つめた。


「でも、この体勢……。」


 その白い輪郭は、まるで、誰かに、手を引かれているような、姿勢をしていた。


 だが、その隣には、誰の姿も、写っていない。


 まるで、見えない誰かに、手を引かれるようにして、参道の奥へ、連れて行かれているようだった。


「これ……。」


 美優の声が、震えていた。


「あの日記に書いてあった、島の外から来た人と、一緒に写ってるってこと……?」


「時期は、合ってる。」


 夕子が、冷静に、答えた。


「でも、日記には、男が『一人で』山へ入った、としか書かれていなかった。」


「じゃあ、この子どもは……。」


 誰も、その先を、言葉にできなかった。


***もう一つの発見***


「待って。」


 隆が、画面を、さらに操作した。


「これ、見てくれ。」


 写真の、別の部分――鳥居の柱の陰に、もう一つ、小さな影が、写り込んでいた。


 それは、先ほどの白い輪郭よりも、さらに、輪郭が薄い。


 目を凝らさなければ、気づかないほどだった。


「これも、人……?」


「多分。」


 隆が、頷いた。


「よく見ると、他にも、あるかもしれない。」


 全員が、息を呑んで、画面を見つめた。


 鳥居の奥、参道の途中、木々の間――。


 注意深く探すと、写真の中に、うっすらとした人影が、次々と、浮かび上がってきた。


「一つ。」


 隆が、画面を指しながら、呟く。


「二つ……三つ、か。」


 夕子の声も、次第に、緊張を帯びていく。


 三つ目の影は、木の幹に、半分隠れるようにして、写っていた。


 隆は、画面を、さらに拡大しようとした。


「……駄目だ。」


 隆は、小さく、首を振った。


「これ以上は、輪郭そのものが、崩れる。」


 画面の奥では、黒い粒子だけが、不気味に、揺れていた。


「まだ、他にもいるかもしれない、ってこと?」


 美優が、不安そうに、尋ねる。


 隆は、答えられなかった。


 少なくとも、確認できたのは、三つ。


 だが、写真の暗がりの奥には、まだ、何かが、潜んでいるように見えてならなかった。


「瑞希姉さんが言ってた、『まだ、五つじゃない』って……。」


 美優が、震える声で、続けた。


「この写真の数と、何か関係が、あるのかな……。」


 誰も、はっきりとは、答えられなかった。


 だが、隼人には、それが、単なる偶然とは、思えなかった。


***隼人の決意***


「明日、もう一度、健一さんに、この写真を見せよう。」


 隼人が、静かに、言った。


「それから、瑞希姉さんにも、この画像を送る。」


「うん。」


 夕子が、頷いた。


「私たちだけで判断するのは、危険だわ。」


 隆は、写真データを、丁寧に保存した。


「保存した。」


 その瞬間だった。


 画面に映っていた写真が、一瞬だけ、勝手に拡大された。


 誰も、マウスには、触れていない。


「……え?」


 隆が、思わず、身を引く。


 鳥居の奥、暗がりの中に――。


 さっきまで見えなかった、顔のようなものが、一瞬だけ、映った気がした。


 次の瞬間には、画面は、元の写真へと、戻っていた。


「今の、見たか……?」


 秀の声が、掠れていた。


 誰も、答えられなかった。


 隆が、パソコンを閉じようとした、その時だった。


「……あれ?」


 隆の声に、全員が、画面を覗き込む。


 ファイル名が、いつの間にか、変わっていた。


 IMG_0875.jpg


 だったはずの文字が、


 『六人目.jpg』


 に、変わっていた。


「誰か、ファイル名、変えたか……?」


「いや、触ってない。」


 秀が、首を横に振る。


 誰も、答えられなかった。


 次の瞬間――。


 画面が、一瞬だけ、真っ暗になった。


 すぐに、いつもの画面へ戻る。


 だが、その一瞬の暗転が、全員の背筋を、冷たくさせた。


 窓の外は、すでに、真っ暗になっている。


 波の音だけが、規則正しく、聞こえていた。


 隼人は、ふと、時計を見た。


 午後十時を、少し過ぎていた。


 午後五時の刻限は、すでに、過ぎている。


 だが、なぜか、安堵する気持ちには、なれなかった。


 まるで、この島では、時間そのものが、まだ何かを、待ち続けているような――。


 そんな、落ち着かない予感が、隼人の胸から、離れなかった。

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