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新霊体験隊  作者: waku


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17/56

島の散策

 翌朝、平穏で静かな朝を迎え、隼人たちは島の散策へと向かって行った。

*** 朝の集落***


 翌朝、隼人たちは、朝食を済ませてから、ペンションを出た。


 空は、昨日にも増して青く澄んでいる。


「今日は、どこから回る?」


 隼人が尋ねると、夕子が地図を広げた。


「まずは灯台。それから、神社まで歩いてみましょう。」


「賛成!」


 秀が、真っ先に歩き出す。


「新聞部らしく、ちゃんと写真も撮らないとな。」


 隆が、カメラを構え直した。


 集落の細い路地を歩いていくと、白壁の家々が、朝日を受けて輝いていた。


 庭先で洗濯物を干している老婆と、目が合う。


「おはようございます。」


 美優が、明るく挨拶をした。


 老婆は、一瞬、驚いたような顔をした後、小さく会釈を返した。


 だが、その視線は、すぐに五人の後ろ――彼らが歩いてきた方角へと逸れた。


 まるで、何かを確かめるように。


「……何だったんだろう、今の。」


 美優が、小声で呟く。


「気にしすぎだよ。」


 秀が、軽く笑い飛ばした。


***灯台にて***


 集落を抜けると、海沿いの道が続いていた。


 白い灯台が、丘の上に建っている。


「わぁ、絶景……!」


 灯台に登ると、青い海が、どこまでも広がっていた。


「写真、撮っておくか。」


 隆が、シャッターを切る。


 その時、隆のカメラの液晶画面に、一瞬、何かが映り込んだ気がした。


「……あれ?」


「どうした?」


 隼人が覗き込む。


 だが、画面には、青い海と空しか写っていない。


「いや、何でもない。見間違いかな。」


 隆は、首を傾げながら、カメラを下ろした。


 誰も、それ以上、深くは考えなかった。


 風が、心地よく吹き抜けていた。


***神社への道***


 灯台を後にした一行は、地図を頼りに、山の方へと向かった。


 舗装された道は、次第に、木々に覆われた細い山道へと変わっていく。


「涼しくなってきたな。」


 秀が、額の汗をぬぐいながら言う。


「木陰だからね。」


 夕子が、答える。


 しばらく歩くと、古びた鳥居が見えてきた。


「あれが、神社か。」


 隼人が、足を止める。


 鳥居をくぐると、苔むした石段が、山の中へと続いていた。


 石段を上りきった先に、小さな社があった。


 思っていたより、小さく、静かな神社だった。


「意外と、普通だね。」


 美優が、少しほっとしたように言う。


「観光客も来る場所だって、健一さんも言ってたし。」


 夕子が、社の前で、静かに手を合わせた。


 隼人も、それに倣う。


 その時、隆が、社の裏手を指さした。


「あれ、見て。」


 社の裏、木々の間に、細い道が続いているのが見えた。


 健一が言っていた、「古い参道」だろう。


 道の入り口には、朽ちかけたロープが、申し訳程度に張られていた。


「……これが、あの奥に続く道か。」


 隼人が、呟く。


 昼間の明るい日差しの中でも、その道の先だけは、不自然なほど、暗く見えた。


***島の人々***


「今日は、これくらいにしておこう。」


 隼人が、腕時計を見ながら言った。


 午後三時を過ぎたところだった。


「もう帰るの?」


 秀が、少し残念そうに言う。


「明るいうちに戻った方がいい。健一さんも、そう言ってたし。」


 夕子が、冷静に答える。


 集落へ戻る道すがら、五人は、何度か、島の人々とすれ違った。


 だが、その誰もが、どこか、そわそわとした様子だった。


 畑仕事をしていた老人が、空を見上げ、それから、少し急ぐように道具を片付け始める。


 店先に座っていた女性が、時計を確認し、店の看板を早々にしまい込む。


「みんな、帰り支度、早くない?」


 美優が、不思議そうに言った。


「そういえば。」


 隆も、周囲を見渡す。


 午後四時を過ぎる頃には、集落の通りから、人の姿が、ほとんど消えていた。


 昨日の夕方は、こんなに静かではなかった。


 商店のシャッターも、次々と下ろされていく。


 まるで、何かの合図があったかのように。


「……なんか、変じゃないか?」


 秀が、珍しく、真剣な声で言った。


 誰も、それに答えられなかった。


 その時だった。


 一人の老人が、五人の横を、足早に通り過ぎていく。


 老人は、何度も山の方を振り返りながら、小さく呟いた。


「……今日は、早いな。」


「え?」


 隼人が、思わず聞き返した。


 老人は、一瞬だけ足を止めた。


 振り返ろうとして――やめた。


「……早く、帰りな。」


 それだけ言い残すと、老人は家へ駆け込み、勢いよく雨戸を閉めた。


 ガラガラガラ……。


 乾いた音を立てて、雨戸が閉められる。


 その音は、まるで合図のように、次の家、また次の家へと連なっていった。


 静まり返った集落を、五人は、少し早足で通り抜けた。


 ペンションの明かりが見えた時、隼人は、無意識に、安堵の息を漏らしていた。


 その時だった。


 港の方からも、同じように雨戸の閉まる音が、一軒、また一軒と響き始めた。


 気が付けば、集落の窓という窓から、明かりが消え始めていた。


 そして、気が付けば――。


 さっきまで賑やかだった蝉の声が、ぴたりと止んでいた。


 音という音が島から消えた。


 誰一人、外にはいない。


 ただ、波だけが規則正しく岸を打っている。


 まるで島全体が、見えない誰かの帰りを待っているかのようだった。


 だが、その安堵の裏で、一つの疑問が、頭から離れなかった。


 ――島の人たちは、何から、あんなに急いで、身を隠しているんだろう。


 誰も、その答えを口にしようとはしなかった。



***鐘の鳴る刻***


 ペンションに戻った五人は、夕食の席についていた。


 だが、いつもの賑やかさは、どこか、鳴りを潜めていた。


「……なあ。」


 秀が、箸を止めて口を開く。


「今日の集落、絶対おかしかったよな。」


「うん。」


 美優が、小さく頷いた。


「あの老人も、『早く帰りな』って……。」


「誰かに、聞いてみる?」


 隆が、提案する。


「健一さんなら、何か知ってるんじゃ……。」


 その時、厨房から、健一が料理を運んできた。


 いつもと変わらない、明るい笑顔だった。


「今日は、島を回ってきたんだって?」


「はい。」


 隼人が、頷く。


「健一さん、聞きたいことがあるんですけど。」


「ん?」


「集落の人たち、みんな、午後四時を過ぎたら、急いで家に帰るんです。」


 健一の表情が、一瞬、動いた。


 だが、すぐに、いつもの笑顔に戻す。


「ああ、それは……島の昔からの習慣、みたいなものだよ。」


「習慣?」


「日が傾くと、涼しい家の中で過ごす、っていうだけさ。」


 その説明は、明らかに、今日見た光景とは釣り合っていなかった。


 誰も、それ以上、追及はしなかった。


 だが、隼人は、健一の目の奥に、微かな怯えのようなものを見た気がした。


*** 灯りが消える時間***


 夕食を終え、五人は、それぞれの部屋へ戻った。


 窓の外は、夕暮れに染まり始めていた。


 西日に照らされた海が、赤く輝いている。


「なあ、今何時?」


 秀が、隣のベッドに寝転がりながら、隆に尋ねた。


「四時、五十分過ぎ。」


 隆が、スマートフォンを確認しながら答える。


 夏のこの時間なら、まだ日は高いはずだった。


 だが、部屋の中に、静かな緊張が満ちた。


 誰も口を開かなかった。


 秒針だけが、静かに時を刻んでいく。


 部屋の空気が、じわじわと重く沈んでいくようだった。


 誰も、口には出さなかったが、全員が、時計の針を意識していた。


 隼人は、窓際に立ち、外を見つめていた。


 さっきまで赤く輝いていた海が、みるみるうちに、色を失っていく。


 まだ日が沈むには早いはずなのに、空は、誰かが光を吸い取っていくように、急速に暗さを増していった。


 集落の明かりは、今日もまた、一つ、また一つと消えていく。


 港の方角も、山の方角も、闇に沈んでいく。


 だが、一つだけ――。


 山の中腹、木々の隙間から、小さな灯りが、ぽつんと見えた。


 揺れながら、ゆっくりと、動いている。


「……あれ。」


 隼人の声に、他の四人も、窓際に集まってきた。


「灯り……?」


 美優が、目を凝らす。


「誰か、いるのか?」


 隆が、カメラを構えた。


 その灯りは、山の斜面を、ゆっくりと、上へ上へと登っていくように見えた。


「まさか、あそこ……。」


 夕子が、地図を思い浮かべるように、目を細める。


「神社の、奥の参道の方角だわ。」


***五時の鐘***


 その時だった。


 部屋の窓の外、遠くから――。


 ゴォーン……。


 鐘の音が、響いた。


「……来た。」


 秀が、掠れた声で呟く。


 五人は、無言のまま、山の灯りを見つめ続けた。


 ゴォーン……。


 二つ目の鐘。


 山の灯りが、一瞬、止まった。


 まるで、鐘の音に応えるように。


 ゴォーン……。


 三つ目。


 灯りが、再び動き出す。


 だが、その動きは、先ほどより、明らかに速くなっていた。


 ゴォーン……。


 四つ目。


 灯りは、参道の奥――木々の深いところへと、吸い込まれるように、消えていった。


 ゴォーン……。


 五つ目の鐘が鳴り終わると、島は、完全な静寂に包まれた。


 誰も、言葉を発せなかった。


「今の……誰か、山に入ったってこと……?」


 美優が、震える声で言う。


「多分。」


 隼人は、窓の外を見つめたまま、頷いた。


「でも、誰が、こんな時間に――。」


 言いかけて、隼人は、はっとした。


 健一の言葉が、頭をよぎる。


 ――港にも、木札があっただろ? 午後五時以降、山道立入禁止。


 その禁止事項を、たった今、誰かが破った。


 いや――。


 破ったのではなく。


 呼ばれて、応じたのかもしれない。


***消えた灯り***


「追いかけなくていいのか?」


 秀が、腰を浮かせる。


「駄目だ。」


 隼人が、鋭く制した。


「健一さんも言ってた。夜になったら、山には近づくなって。」


「でも、誰かが……。」


「今、俺たちが行っても、何もできない。」


 隼人の声には、抑えきれない緊張が滲んでいた。


 夕子が、静かに言う。


「健一さんに、報告しましょう。今、確実に言えるのは、誰かが山へ入った、ということだけ。」


 全員が、頷いた。


 五人は、部屋を飛び出し、階下の健一の元へと駆けた。


 だが――。


 食堂の明かりは、すでに消えていた。


「健一さん?」


 隼人が、声を掛ける。


 返事はなかった。


 厨房の奥、健一の私室と思われる扉の隙間から、かすかな灯りが漏れている。


 隼人が、そっと扉を叩いた。


「健一さん、いますか。」


 しばらくして、扉が、細く開いた。


 健一の顔は、夕食の時とは、別人のように、青ざめていた。


「……見たのか。」


 その声は、震えていた。


「山の、灯りを。」


 隼人は、頷くことしかできなかった。


 健一は、深く、長い、ため息をついた。


「……今夜だけは、部屋から出るな。」


「健一さん、あれは、一体――。」


「今は、話せない。」


 健一は、扉を閉めようとした。


 だが、その手を、隼人が、思わず止めた。


「教えてください。」


 隼人の声は、真剣だった。


「俺たちは、逃げるつもりはありません。でも、何も知らないまま、怖がることしかできないのは、もっと嫌なんです。」


 健一は、しばらく、隼人を見つめていた。


 やがて、諦めたように、小さく息を吐いた。


「……明日の朝、話す。今夜は、もう遅い。」


 それだけ言うと、健一は、静かに扉を閉めた。


 廊下に取り残された五人は、しばらく、動けなかった。


 窓の外、山の方角は、もう、何の灯りも見えなかった。


 ただ、暗闇だけが、そこにあった。

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