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6-9. 散り散りになった仲間達

 エイルとカレアムの想像以上に、事態は深刻だった。

 

 割れた地面の上に残されたのは、僅か20人ほど。

 world Cに潜入した当初の約半分だ。

 彼らの前には、離れたところに大きな穴1つと複数小さな穴があった。


 小さな穴は、この場のいたる所に点在している。

 エイルとカレアムが落下してしまった穴はそのうちの1つで、他の穴に落ちてしまった人達もいる。

 大きさは1メートルほどで、全力でジャンプすれば飛び越えられる。

 しかしその奥はどこに繋がっているのか分からないし、エイル達を助けるために飛び込むのは自殺行為だ。

 そう思わされるほど、穴は深かった。



 もう1つの大きな穴は、前衛がいた場所にぽっかりと空いていた。

 あまりにも大きすぎて、飛び越えることも避けて通ることもできない。

 おまけにこの穴も、底が見えない。

 この場に残っているメンバーから推測するに、残りの半分は全員この中に落ちたのだろう。

 その中には、ジェイドとロバート、ルドルフも含まれる。


「カレアムさんもジェイドさんも……強い人達、みんな落ちちゃった……

 みんな……生きてる?

 もしかして、生き残ったのは私達だけ……?

 どうしよ……どうすればいいんでしょう……?

 こういう時、何を優先して、何をすればいいんでしょうか……?

 ううっ……」


 残されたレイラは、頼りにしてきた先輩達が突如いなくなったことでパニックになりかけていた。

 最悪なことに、このメンバーの中で冒険者としての経験が一番豊富なのは彼女だった。

 そのため本来ならレイラが指揮を取らないといけないが、しゃがんで頭を抱えている本人はそれどころではない。

 今にも泣き出しそうだ。


「……はぁ」


 レイラの様子を眺めていたアインツは、思わず大きなため息を漏らした。

 こうなってしまえば、もう傍観していられない。

 なるべく面倒事に関わりたくない彼でも、重い腰を上げる他なかった。


「落ち着け、劇団員がそんなにやすやすと死ぬとは思えない。

 特に幹部は尚更だ。

 幸い、他にも奥に行く道はありそうだ。

 俺達はこのまま進み、散り散りになったメンバーを集めるべきじゃないのか?」


「ぐすっ……えっ……?」


 レイラが涙目で顔を上げると、アインツはやれやれと右側を指差した。

 そこには奥へと続く道が伸びており、先程の魔物のようなものの気配はない。

 アインツは続ける。


「ここにいる奴は、普段後方に回る魔法使いだ。

 あの動く氷の彫刻が相手である以上、俺達でも十分戦えるだろう。

 それにここに来た目的は仲間の捜索だ、探す相手が増えたところで変わりないだろう」


「……」


 レイラは自分の頬を叩き、しっかりしないとと己の心に言い聞かせた。

 カレアムやジェイドでも、アインツと同じ判断を下すはず。

 なら自分ができることは、皆で一緒に探し回ることだ。

 この未踏の地に来ると聞いたときに、ある程度の覚悟はできていたはず。

 それに、自分には奥(・)の(・)手(・)があるのだ。


「——は、はい。

 足を引っ張らないように、頑張ります……!」


 レイラがアインツにそう宣言すると、劇団員の一人がレイに手を差し伸べた。

 突然のことで彼女は一瞬あたふたしたが、やがてその手を掴んで立ち上がった。

 そしてみんなと一緒に、氷窟の奥へと進み始めた。

 それを見届けたアインツは、列の最後尾に加わり静かに笑っていた。


「くくっ、あの氷彫刻を作り上げる魔法と手腕……

 ぜひこの目で見てみたいものだ」




***




 その頃、エイルとは別の地点に落下したジェイドは状況確認に追われていた。


「ロバート、今この場に何人いる?」


「多分10人ほどだ。

 前衛にいた人がここに落ちてきたみてぇだな」


「怪我人は?」


「軽傷者は多いが、全員戦えるはずだ」


「そう……」


 そこでやっと、ジェイドは肩を落とした。



 人数と顔ぶれから推測するに、前衛と後衛との間で真っ二つにされたようだった。

 後方にいるべきはずのロバートが紛れ込んでいるのは、彼がモササウルスを用いてみんなの盾になっていたからだろう。

 逆に、ここにいるべきはずのカレアムとエイルの姿がどこにもない。

 ジェイドは2人が上にいることを願うしかなかった。


「ねぇ、これからどうするの?

 流石にこの状況、不味いよね?」


 珍しく、ルドルフの笑顔が引きつっていた。

 流石の彼でも、突然のことで平常心を保てていない。

 だがこうなってしまった以上、やるべきことをやらなければ。


「上に行くルートを探しましょ。

 何としてでも、皆と合流しないと。

 それと一緒に、カエデを探すわよ」


 ジェイドがそう言うと、みんなの目に光が戻り始めた。




 しかし、ジェイドの頭の中では幾つもの疑問が湧いていた。


(カエデ、どうしてこんなところに辿り着いたの?

 偶然? それとも誰かに誘導された?

 それにさっきの魔物と地震……

 一体ここに、何があるというの?)


 ここにカレアムかアインツがいれば、何かしらの推測が出ただろう。

 だがジェイドの頭では、その片鱗すら思い浮かばなかった。

 そうして深く考え込んでいると、ロバートが近くによって来た。

 ジェイドの顔色を見て何を考えていたのかある程度わかったらしく、彼は自分の憶測を話してくれた。


「さっきアインツが言いかけていたことだが……

 多分『こんな代物を作れる奴となると、ノスフェル以外ありえない』って言おうとしていたんじゃないか?

 あんなものを作り出すなんて、人間には不可能だからな」


「——!」


 辻褄は合う。

 ノスフェルは最強の生物と謳われている。

 彼らが奇跡と呼べる芸当を行ってもおかしくはない。

 もしかすると、この氷窟もそれが作り出したものかもしれない。

 だとしたらここは、ノスフェルの住処ということになる。

 思わず、ジェイドの背筋が凍った。


「カエデは……なんで、この場所に来たのかしら?」


「んー……流石にそこまでは分からねぇな。

 本人に直接聞いてみるしかないんじゃねぇか?」


「……」


 ジェイドは小さく頷いた。

 カレアムが任務成功率は20%くらいと言った理由が理解できた。

 彼はきっと、このような最悪の事態を想定していたのだろう。


 だとしても、カエデを助け出すという目的は変わらない。

 一刻も早く、皆と合流しなければ。

 運が悪ければ、ノスフェルと戦う羽目になるかも知れないから。




 そうして移動しようとしていた矢先、前方にいる誰かが急に声を張り上げた。


「——敵襲!! さっきの魔物だ!」


 皆は咄嗟に武器を構えた。

 どうして不運なことはこんなにも連続するのだろう?

 そんなことが頭をよぎったせいで、さっきの声に全く聞き覚えがないことに気付くのが遅れた。

 ジェイドがはっと我に返った時には、ルドルフが前方に飛び出していた。


「!? 待ってルドルフ!!」


「——!」


 ルドルフが振り返って止まろうとした。

 その時、突然大きな音が鳴り響いた。


 ——ドォォォォン!!!


 爆発音だ。

 ルドルフとジェイド達の間の天井から、黒い煙が立ち上った。

 同時に天井がガラガラと崩れ、瓦礫が道を塞いでいった。


「ルドルフっ!!」


 ジェイドの隣にいたロバートが声を張り上げるも、一人になった副団長から返事はない。

 気が付けば、氷の塊は互いの姿を完全に隠してしまっていた。

 通れそうな隙間もない。



 その場にいる人達があたふたしている中、どこからか手をゆっくりと叩く音が聞こえてきた。


「……素晴らしい。

 お前らの友情には毎度感動するよ。

 反吐が出るほどな」


 さっき敵襲と叫んだ声と同じ声色だ。

 ジェイドがその声の主の方に歩み寄り武器を構えると、長身の男性が出てきた。

 喪服のようなスーツに、灰色の髪から生えた角のような羽毛。

 目は異様に細く、自然な笑みが不気味に見える。

 劇団員ではない。

 だがジェイドはその姿に、見覚えがあった。


「…………デニス」


 そう呟いた彼女の声は、ひどく低かった。

 当然だ。

 彼は今回の事件の黒幕かもしれないマリーガーネット・ファミリーの幹部だからだ。

 そんな彼がここにいる理由なんざ、1つしかない。


「あなたが全部、仕組んだのね」


「んー、半分正解半分外れって言ったところかな。

 確かに俺はお前さんの仲間を殺して、仲間割れを引き起こし、ここに誘導して、お前らをバラバラにした。

 でもこれを企ててお前らを全滅させようとしてるのは我らがお頭であって、俺じゃない。

 あえて言うなら、そうだな……作戦を立てて実行しただけさ」


「……」


 デニスはとてもフレンドリーな雰囲気を漂わせている。

 もしバーで顔を合わせれば、初対面でも気前よく奢ってくれそうな感じだ。

 

 しかし言葉の節々から、相手に対する嫌味を感じる。

 まるでお前らは馬鹿だから俺が1から教えてやると言わんばかりに。

 言い方を変えれば、口調と本心が真逆なのだ。



 ロバートは自分のポシェットに手を突っ込み、モササウルスが入っている遺物を握った。

 そしてとうとう姿を表した黒幕に向かって、威圧をかける。


「随分余裕そうだな。

 そんなにベラベラ喋っていいのか?

 見た感じ、ここにいるのはオマエ一人だけみたいだが」


 デニスはロバートを見ると、知らない顔が混ざっていることに少々驚いていた。

 だがそれもつかの間。

 彼はすぐにわざとらしくため息を漏らし、面倒くさそうに返答をした。


「はぁーあ、いちいち全部説明しなきゃ駄目か?

 俺が単独で行動するのは、他人がいると鬱陶しいからだ。

 これくらいの仕込みなら俺一人でできるし、ちょっとした拍子に同胞をぶっ殺したくなっちまう。

 一応お頭の許可は取ってるし、今までそうやって生きてきたからな。

 俺がこうやってお前達に色々教えているのは、まぁそのほうが面白いからってところだ」


「コイツ……」


 狂っている。

 仲間を気軽に殺したくなる人なんて、聞いたことがない。

 それに彼は終始余裕そうな態度を崩さない。

 ロバートは、デニスが話はできても対話が通じない人間だと察した。


「あ、そうそう。

 1ついいことを教えてやる。

 ここに住むノスフェルはな、かなり温厚で手を出さない限り襲ってこない。

 だがこうやって奴の根城をメチャクチャにすると……ブチ切れる」


 その時、遠くから何かの遠吠えが聞こえた。

 加えて、ロバートの耳には何かがこちらに向かって駆けてくる音まで入ってきた。

 今度こそ、さっきのノスフェルの手下だろう。


「それじゃあご武運を。

 せいぜい俺が用意した舞台を楽しんでくれよ、役者共」


「——!? 待ちなさい!!」


 ジェイドが彼に向かって武器を振り下ろした頃には、デニスの姿は消えていた。

 恐らく透明化か何かのスキルで姿をくらましたのだろう。

 残された劇団員とロバートは、デニスの思惑通り踊らされるしかなかった。


<<人物紹介>>

名前:デニス・ウラレンシス

性別:男性

年齢:31歳

種族:獣人(アフリカオオコノハズク)

所属:マリーガーネット・ファミリー 参謀役

特徴:ギャンブル好きのイカレ暗殺者

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