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6-8.  突然の大乱闘

 迫ってくるものの姿が、どんどん鮮明になっていく。

 高さは1メートルくらいで、氷で全体が覆われている。

 四足歩行の生き物で、見た目は狼に近い。

 数は恐らく10体くらい。

 エイル達でも十分対処できる数だ。


「ルドルフ、待機!!

 これまで通り、私達で対処する!」


 状況を判断したジェイドは、即座に命令を下した。

 するとルドルフはあっけなく武器を持ったまま後方に下がり、戦場を譲った。

 とりあえず様子を見たほうがいいと判断したのだろう。

 魔物があと数十メートルまで近づくと、再びジェイドが声を張り上げた。


「——突撃ぃ!」


 エイル達は武器を持ったまま、迫りくる群団に向かって走り出した。




 相手の動きは早い。

 だが野生動物とあまり変わらなかった。

 攻撃も普通の物理的なもので、これといった特徴はない。

 幾度もの戦闘演習をこなしたエイルにとって、大した敵ではなさそうだった。

 エイルは簡単に相手の隙をつき、コアがあるはずの首を突き刺した。


「——えっ!?」


 コアがない。

 証拠に、魔物が灰にならない。

 動物の姿をした魔物は、大抵首にあるはずなのに。


 エイルは咄嗟に距離を取った。

 やはり魔物は生きており、こちらを睨んでいる。


 相手は自分が知らない魔物だ。

 きっとコアが違う場所にあるはず。

 そう思い、今度は他のタイプの魔物のコアの位置を参考に心臓を狙うことにした。

 だがエイルが駆け出す寸前、カレアムの大きな声が耳に入った。


「は!? こいつら、コアがないぞ!?

 一体どうなっている!?」


「——!」


 カレアムは状況を判断して冷静に分析できる人だ。

 彼がそういう以上、本当にコアがないのだろう。

 そんなこと、相手が魔物である以上ありえない。


 エイルの頭が真っ白になっていると、ジェイドがすぐに後方に待機している仲間達を呼んだ。


「ルドルフ!」


「うん!」


 ルドルフは真剣な顔つきで、戦闘態勢に入った。

 彼は猛スピードで戦闘に乱入し、目の前にいた敵に全力で大剣を叩き込んだ。

 多分、スキル込みの攻撃だろう。


「はぁぁぁぁぁ!!!」


 ——バリンッ!


 彼の大剣が触れた瞬間、魔物は大きな音を立てて砕け散った。

 そしてバラバラと小さな氷の破片が地面に積み上がっていった。


「灰にならない……まるで氷の彫刻が砕けたみたい」


 もし魔物が氷に覆われているだけなら、肉や骨が見えるはず。

 なのにその片鱗すら見当たらなかった。

 エイルはますます、自分が何と戦っているのかわからなくなった。



 それでも、仲間達は戦いを続ける。


「レイラ! 炎魔法で敵を溶かして!」


「へっ!? は、はひぃ、ジェイドひゃん!!」


「魔法が使える人も、彼女と一緒に炎を駆使して敵を殲滅して!

 アインツ、あなたも炎魔法使えるわよね!?」


「当然だ」


「なら傍観していないで、戦闘に加わりなさい!

 武器を扱う人達は、魔物の戦闘力を物理的に削いで!

 相手を殺すことは考えず、動きを封じることに専念するの!!」


 ジェイドの的確な指示のおかげで、エイルの頭の中が一気に整理された。

 魔術師が敵を溶かし、ルドルフが粉砕する中、エイルは敵の四肢を切り落とすことに専念した。

 相手は氷でできているものの、幸い刃が通った。

 周りの人達も魔物の足と頭を切り落とし始め、予想以上の乱闘がその場で繰り広げられた。



 

 予想外の激闘は、思いのほかあっという間に終わった。

 ジェイドの指示通り、ルドルフと魔術使い達が尽力することで全て魔物らしきものは砕け、水となった。

 そうしてやっと静かになったことを確認すると、エイルは思わずその場に座り込んでしまった。


「はぁ……はぁ……

 一体、何だったの……?」


 エイルの独り言に誰も反応しなかった。

 しかし皆同じことを考えているようで、頭の回る2人がさっそく残骸の調査を始めた。

 その際の会話が、無意識に耳に入ってくる。


「——ただの氷だな」


「そう見えるのか? 捜索隊の隊長とやら。

 これは魔術で作られた氷だ。

 自然で作られた氷では、これほどの密度のものは作れないからな」


「流石は天才魔術師だな。

 俺は魔術にそこまで疎くないから、見分けがつかなかった。

 だとしたら、俺達を妨害しようとしている輩がいるということか?」


「それはありうる。

 だが……これだけ精巧で自らの意思で動く氷の彫刻は、俺でも作れない。

 こんな代物を作れる奴となると——」


 アインツが何かを言いかけた時だった。



 突然、地面が揺れ始めた。

 最初の振動はとても小さく、まるで大きな魔物が近くを通ったような感じだった。

 しかし揺れはどんどん大きくなり、エイルは思わず地面に倒れこんでしまった。

 他の人達も、立つのが困難になっている。

 それでも、地震は更に激しくなっていく。

 

 流石のジェイドでも、戸惑いを隠せないでいた。


「っ——な、なにが起きているの!?」


「おいおい……このまんまだと崩れかねないぞ!」


 ロバートの一声と同時に、天井から氷の破片が降り始めた。

 やがて地面にも小さな亀裂が生じ始め、徐々に成長していく。

 本能的にまずいと思い、エイルは地面に這いつくばいながら避難し始めた。


 しかし、亀裂が大きくなる方が早かった。

 それは仲間達の間を縫いながら走っていき、小さな亀裂も生み出していく。

 そしてとうとう、轟音とともに地面が崩れ落ちた。


「えっ!? うわぁぁぁぁ——!!!」


 エイルは成すすべなく、暗くはないのに底が見えない地面の中に飲まれていった。

 視界の隅には、上にある地面から慌てて顔を覗かせる仲間の姿が見える。

 彼らはエイルが落ちていくのが見えたのか、こちらに向かって手を差し伸べようとしていた。

 エイルは無意識に、仲間の方へ手を伸ばした。

 だが届くことはなくそのまま仲間達の姿は小さくなり、とうとう見えなくなってしまった。




***




「…………おい、生きているか?」


 低い男性の声が、エイルの意識を暗闇から引き戻した。

 頭と背中から感じる痛みで顔をしかめながら、エイルは目を開けた。

 すると目の前には、上から覗き込んでいる長いベージュ髪のエルフの男性が見えた。

 彼はエイルの瞳を見ると、ゆっくりと立ち上がった。

 彼はエイルが目覚めるまで、しゃがんで様子を見ていたらしい。


「カレアム、さん……?

 う……ここは?」


「わからん。

 だがあそこから落ちてきたのは間違いない。

 見事に逸れたみたいだな」


 周囲を見渡すと、カレアム以外の人影がない。

 どうやら一緒に落ちてきたのは、彼だけのようだ。

 こんな危険な場所で2人きりとは、最悪の事態だ。



 エイルが起き上がろうとすると、服が地面の氷に張り付いて離れなかった。

 そのせいで頭は持ち上がるものの、微動だにできない。

 どうやっても、自力で立ち上がれそうになかった。


「あの、すみません……」


 エイルが申し訳なさそうに声をかけると、カレアムは不愛想に振り返った。

 エイルの様子を見て、どういう状況か全部把握したようだ。

 彼は大きなため息を漏らすと、エイルの手を掴んで体を引っ張ってくれた。

 そのおかげで、エイルはバリバリと大きな音を立てながら立ち上がることに成功した。

 

「ありがとうございます」


「……ふん」


 カレアムはお礼の言葉を鼻で笑い飛ばしてしまった。

 そして一緒に落ちてきたらしい、近くに積もった大きな氷の塊の方に歩いて行った。

 それは先の道を塞いでおり、小動物が通れそうな隙間すら空いていなかった。

 彼はその目の前で立ち止まると、座り込んで観察を始めた。


「……退かすのは無理だな。

 もう片方の道を進むしかない」


 それだけ言うと彼は立ち上がり、再びエイルの方を向いた。


「お前は魔法を使えるのか?」


「えっと、使えなくはないんですが……

 魔力の制御が下手で、最悪爆発するかもです」


「ちっ」


 カレアムはエイルにも聞こえるような、あからさまな舌打ちをした。

 そのせいですごく申し訳なく感じたが、以前の試し撃ちで実際に爆発したことを思うと何も言えなかった。

 苦虫を噛み潰したような顔をしたカレアムは、頭を掻きながらエイルの横を通り過ぎた。


「俺もあまり魔法は得意ではないんだかなぁ……

 だからといってこのメンツで魔法を使わず戦えば、あの訳のわからん奴を倒せない。

 ここは俺がメインで炎魔法を駆使しながら敵を屠り、エイルを補助に回すのが得策か。

 それでも不利な状況なのは変わりない、戦闘は極力避けた方がいいな。

 はぁ……せめて魔法使いが一人いれば楽なんだが」


 彼はエイルでも内容が聞き取れる声量で、ぼそぼそと独り言を呟いていた。

 本人は意図していないようだが、それはエイルへの指示出しとなった。

 エイル自身も特に不満を感じずに、頷いたからだ。

 

 カレアムはエイルの返事を確認することなく、自分の武器を手に取った。


「何している? さっさと行くぞ」


「へっ? 行くって、どこに?」


 エイルがきょとんとしていると、カレアムは呆れたように肩を落とした。

 少し申し訳なくなったが、彼は渋々ながらもやるべきことを口にしてくれた。


「仲間達と合流する。

 もちろん、カエデも探す。

 どのみち立ち止まっていれば、魔物か何かに襲われかねない。

 ここにある道がこっちにしかない以上、この先を進むしかないしな。

 それに——」


 カレアムは一瞬言葉を飲み込んだ。

 そしてそのまま前を向き、歩き始める。

 エイルは大慌てで彼の後についていった。

 その時、カレアムはボソッとエイルに聞こえる声量で自身の憶測を言葉にした。


「…………ここにはやはり、ノスフェルがいる」


<<???の一言メモ>>

……キタ。

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