6-4. 皆で探そう
その日の夕方、ストロベリークォーツ劇団では緊急会議が開かれた。
参加者は21名——ルドルフやジェイドを含む幹部の団員と、捜索隊のメンバーだ。
もちろん、知らせを聞いて飛んできたカミルも含まれている。
そしてエイルやロバートも無関係ではないため、今回の会議では特別に参加を認められた。
「あれ? ロバート、アインツはどこ?」
「『面倒だから後で情報共有してくれ』だとさ。
説得するのも疲れるし、放っておこう」
やはり、アインツは最低限の関わりしか持ちたくないようだった。
どうしてそこまでして面倒事に巻き込まれたくないのか、エイルには理解ができなかった。
だがこういう時に限って彼は頑なになるので、ロバートの言う通り無理強いは難しい。
これがアインツという人物なのはわかっているが、やはり気に入らない。
でも、エイルは無理矢理もやもやした感じを奥にしまい込む他なかった。
午後4時半頃、司会を務めるジェイドが会議の開始を宣言した。
「まずは捜索隊、今回の発見について詳しく教えてちょうだい」
いくつものテーブルが並べられた会議室の壇上で彼女がそう言うと、参加者の中からエルフの男性が返事をした。
捜索隊の隊長、カレアムだ。
彼は席を立ち上がると、腰くらいまである長いベージュ色の髪を揺らしながらゆっくりと登壇した。
そして驚くほど低い声で、事実を淡々と述べ始める。
「我が隊は1ヶ月前よりworldCの探索を行ってきた。
此度散策したのは、未踏の地と呼ばれるエリアの入口付近——入り口から数キロ北に進んだ場所だ」
「未踏の地……?」
エイルが無意識に首を傾げると、カレアムは刺すような冷たい目線を送ってきた。
何も言わないが、私語は慎めと恐ろしい雰囲気で訴えかけてきている。
エイルはぎょっとして悪寒が走り、体が硬直し謝罪の言葉を言うことができなかった。
そこでジェイドが咳払いすると、カレアムはわざとらしい溜息を吐いた。
「そもそもダンジョン内は広く地図すらないが、worldC以上になると別格だ。
魔物の凶暴さ、環境の厳しさなど様々な理由で人間が立ち入った記録の存在しないエリアがある。
そこをまとめてギルドは『未踏の地』と呼んでいるのだ。
これで理解したか?」
「は、はい……十分です……」
必要最低限のことだけを言えと言わんばかりの圧のせいで、完全に謝る機会を逃してしまった。
しかしカレアムは満足したようで、鼻を鳴らして腕を組んだ。
そして一息置いたあとに、細い目が見開かれることなく話を再開した。
「……今回の捜索で、我々は記録にない洞窟を発見した。
しかしヒートポーションの効果が切れるまで時間がなかったため、仕方なく入口付近だけ調査をした。
すると我々のものではない足跡を発見。
大きさや靴の特徴を分析したところ、カエデのものである可能性が高いと結論付けられた」
彼の話では、カエデは音で周りの状態を把握するため、大きな音がする特注の下駄を履いているそうだ。
だから他の人の足跡の可能性はあまりないのだとか。
ここで静まり返っていた会議室は、少しだけざわついた。
エイルの隣にロバートも、何かを考え込むように手で自分の顎を触っていた。
カレアムは室内が落ち着くのを辛抱強く待って、ようやく落ち着いたところで自分の見解を述べ始めた。
足跡は洞窟の内部に続いていて、向かった方向は確実にわかっている。
しかし、彼女が向かった先は誰もが知らない未知の領域。
何があるのか全くわからない。
しかもカレアムは、ノスフェルと遭遇する可能性にまで言及していた。
worldCのノスフェルは、他の場所とは違い姿を確認できていないそうだ。
理由は諸説あるが、一番有力なのは未踏の地に潜んでいるというものだ。
もしカエデが逃げた場所がソレの住処だったら……激戦を強いられるのは、間違いない。
明らかに、呼吸が苦しくなるほど空気が重くなった。
エイルも今の状況に言葉を失っている人物の一人だ。
それでも、カレアムの推察は止まらない。
頭がクラクラし始めた頃、ようやく彼は説明の締めくくりに入った。
「——団員カエデ・ツキシロを連れ戻すには、以上の危険を承知でそこに入る他ない。
よって、捜索隊長として劇団の精鋭を集めた大規模な部隊を形成することを提案する。
意見および質問があれば応じよう」
誰も手を挙げない。
彼の話が分かりやすかったのもある。
カレアムの推測がとても客観的かつ論理的で、突っ込むべき所が見つからなかったのもある。
だが1番の原因は、この状況をどう飲み込めばいいのか誰にもわからなかったからだ。
そんな中、最初に声を上げたのはロバートだった。
「1つ質問していいか?」
「何だ?」
「仮にカエデを見つけたとして、どうやって連れ戻すつもりだ?」
それはエイルも気になっていた。
周囲を見渡すと皆互いの顔を見ていることから察するに、全員エイルと同じ気持ちのようだった。
カレアムはそんなことを見透かしていたかのように、即答した。
「そこは幹部が話し合って決めるべき事柄だ、明確には答えられん。
だが俺個人の意見を聞きたいと言うなら、話してやろう」
そう言うとカレアムは一旦全体を見渡して、ひと呼吸置いてから話を再開する。
「1番の理想は説得だが、そこはお前達ブルーレースのメンバー次第だ。
まともに会話できるくらい落ち着かせるだけでもいい。
カエデの性格上俺達の話を聞いてくれる可能性は現状低いため、お前達に頼る他ない。
もしそれが失敗したら……
最悪、殺し合いになるだろう」
「……なるほどな」
ロバートは眉間にしわを寄せながら、どこか納得できない様子で黙り込んでしまった。
エイルも、カエデの説得に関して何度も一人で考えた。
でも、必ず同じ結論にたどり着く。
カレアムの意見と同じく、エイル達が説得できなければ最悪の結末になるというものだ。
だからこそ、カエデと再会した際になんて語り掛ければいいのだろう?
いくら考えても、これだけは分からなかった。
そのせいでカレアムの返答が責任として重くのしかかり、どんどん思考が鈍ってくる。
すると、女性の口調をした太い声が会場に響きわたった。
「私からいいかしら?」
「もちろんです、カミル団長」
カレアムは軽く会釈をし、姿勢を正した。
口調はきついが、礼儀は重んじるタイプのようだ。
そんな彼を温かい目で見たカミルは、ゆっくりと立ち上がりその場で質問を投げかけた。
「率直に答えて頂戴。
あなたはカエデを連れ戻せると思っている?」
「……」
カレアムの顔は、とても複雑だった。
事実を言うべきか迷っているのか?
または難しい問題で答えが出せないのか?
彼の悩んでいる理由は分からなかったが、長い沈黙の後やっと彼は重い口を開いた。
「あくまで俺の予想ですが……
20%くらいかと」
低い数字だ。
どんな基準でそう算出したのかは分からないが、それだけ可能性が低いのは確かなのだろう。
気のせいかもしれないが、さらに部屋の中がどんよりしたように感じる。
先程から感じている重圧感とも相まって、エイルの心臓がはち切れそうだった。
しかし急にその雰囲気と全く違う明るい声が、エイルの耳を刺激した。
「えっ!? 20%もあるの!?
じゃあ楽勝じゃーん!」
誰が予想したことだろう。
ルドルフはエイルとは真逆に希望に満ちた顔をして、椅子に座ったままはしゃぎだした。
エイルやロバートはともかく、彼の性格を熟知している団員達でも鳩が豆鉄砲を食らったようになっていた。
「だったらとっととカエデちゃんを連れ帰って、皆でパーティーしようよ!
……へっ? なんで皆こんなに暗いの?
だって0%じゃないんだよ?
カエデちゃんが帰ってくるかもしれないんだよ?
だから皆で喜ぼうよ、ね!」
そう言いながら彼は偶然隣に座っていたレイラの頬をつまみ、引っ張って笑顔を作らせた。
レイラは痛いのかびっくりしているのか、「はわわ」しか言えずに固まってしまった。
それでもまだ空気が重たいのを感じ取ったらしく、彼はレイラから離れるとエイルに近づいた。
「ほらほら、リラックスリラックス!
確かに僕達は君に重要な役をお願いするしかないんだけどさ、そう固くならないでよ。
それじゃあせっかくの明るくて可愛い顔が台無しだよ。
はーい、笑ってー! 1+1はぁ——」
「えっ? へ?
…………2?」
エイルが口角を上げた途端、突如どっと笑いが起きた。
あの堅物っぽいカレアムでさえ笑いを堪えきれていない。
どうやら頭が追いつかない状態で無理に笑わされたせいか、すごく変な顔になってしまったらしい。
それに気づくとエイルは顔を真っ赤にして蹲り、頭を上げることができなくなってしまった。
……でも、ルドルフはやはりすごい。
副団長になったのも納得できる。
確かに子供っぽくて頼りないところはある。
でも、雰囲気をいい意味で壊すのがとても得意なのだ。
本人が意図してやっているのかは分からないが、だからこそ皆から頼りにされているのだろう。
恥ずかしさでどうにかなりそうになりながらも、エイルはふとそんなことを考えてしまった。
「——じゃあ、皆でカエデちゃんを迎えに行くわよ!」
「おー!!!」
カミルの掛け声に対して、皆同時に声を上げた。
<<人物紹介>>
名前:カレアム・キャンベル
性別:男性
年齢:21歳
種族:エルフ
所属:ストロベリークォーツ劇団 給仕担当
特徴:極度の潔癖症で病的なほど几帳面




