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6-2. 演習の成果

 あれからほぼ毎日、ジェイドはエイルに戦い方を教えてくれた。

 足の運び方、重心の置き方、剣の構え方など。

 基礎的なところから少しテクニック的なことまで、彼女が知っていることを全て伝授してくれた。


 今まで見様見真似で技術を身に付けていたエイルにとって、ジェイドから教わったことはとても新鮮だった。

 仲間や他の冒険者を観察しただけでは知りえなかったことが、こんなにあるとは思わなかった。

 さらに間違って覚えてしまっていたこともかなり多く、毎日エイルは目から鱗を落としていた。


「逆に誰にも教わらないで、ここまで良い衝撃……コホン、強くなったのに驚いたわ。

 けど言い換えれば、間違った癖が身に付いたことにもなる。

 結構大変かもしれないけど、全部それを直さないといけないわね」


「はいっ! 分かりました!」


 ジェイドはこれからもっと厳しく指導すると宣言し、訓練用の斧を構えてエイルと交戦するようになった。

 その時の衝撃を都度確認し、少し複雑そうな顔をすると的確なアドバイスをする。

 そうして何度も彼女とやり合い、気が付けばエイルは1カ月の間ずっと指導を受けていた。



 その頃になると、ジェイドとエイルは割と普通の模擬戦を繰り広げられるようになっていた。

 もちろんまだ彼女の本気には及ばないし、そもそもジェイドは手加減をしてくれていた。

 それでも訓練の初日と比べて、エイルの実力がかなり向上していたのは明白だった。


「へぇ、これも受け止められるようになったのね」


 ある日エイルは何とかギリギリで、ジェイドの重い一撃を食い止めることに成功した。

 ジェイドがはじき返すとエイルはふらふらと後退してしまったが、それでもすぐに体勢を立て直し剣を構えた。

 これまでは、地面に投げ飛ばされるだけだったにも関わらず。


 近くで見学していたルドルフは、にこにこしながらエイルに向かって拍手をした。


「ブラボー! よくここまで成長したね!

 これでもう僕が指導しても問題ないよね? ジェイド」


「うーん、そうねぇ……

 まだ少し不安だけれど、試しにやりあってもいいんじゃない?

 でも、スキルは使用禁止よ?

 エイルが怪我しちゃうかもしれないから」


「えー」


 ルドルフが明らかに不服そうにすると、ジェイドは笑いながら拳をちらつかせた。

 エイルが劇団内で聞いた噂話では、彼女はルドルフの次に戦闘が得意なのだそうだ。

 だからルドルフが暴走気味になると、すかさずジェイドが止めに入るらしい。

 むしろ、彼女以外に正面から止められる人がいないのだとか。


「ちぇっ、分かったよ。

 もうこれ以上お預けを食らいたくないし」


 ルドルフがそう言うと、彼とジェイドは各々の位置を入れ替えた。

 ジェイドは近くの床に座り込み、ルドルフは訓練用の大剣を構える。

 ついにこの時が来たかと、エイルは唾を飲み込んで臨戦態勢に入った。


「……よろしくお願いします」


「あー、敬語は使わなくていいって言ったでしょ?

 ほら、力を抜いた抜いた」


「すぅーっ……うん!」


 エイルは何度か深呼吸をして緊張をほぐすと、彼に向かって駆け出した。




 ルドルフは、エイルの攻撃を何度も簡単に受け止めた。

 時には平気で素手を使うことだってある。

 だがジェイドも同じようなことをしていたので、エイルは特に驚かなかった。


 しばらくすると、ルドルフは攻撃態勢に入った。

 そして気が向くままに大剣を振り回し、エイルが全て捌ききれるかを見始めた。

 ジェイドとの約束通りスキルは使っていないが、割と本気な顔をしていた。

 だからエイルは彼の気持ちに答えるよう、回避と防御に専念し始めた。



 以前刃を交えたので分かっていたことではあるが、ルドルフの一撃は受け止めた時に体が悲鳴を上げるほど重い。

 スピードはジェイドに劣るが、攻撃の威力が桁違いだった。

 それでいつもはスキルでさらに攻撃力を上乗せしているのだから、劇団トップの実力を持っているのもわかる。


 エイルは反撃する余力すらなく、ただ一方的な猛撃で苦戦していた。

 傍から見たら、おそらく戦いにすらなっていないだろう。

 しかしジェイドが割って入ってこないことから察するに、一応はルドルフにしがみついていけているはず。

 だからエイルはとにかく、彼の攻撃を全力で受け止めることに力を注いだ。


「あはっ、あはははは!

 いいね! すっごく楽しいよ!!

 ちょーっとくらいスキル使っていいかな!? いいよね!?」


 エイルが期待以上に奮闘しているからか、ルドルフのテンションはお気に入りの玩具を見つけた子供みたいに上がっていた。

 そのせいか、エイルが返答する時間を一切与えずに彼はジェイドの約束を破って本気で戦い始めた。

 これでも、エイルのことを思って彼なりに手加減をしていたみたいだ。


(うぐっ!? 重すぎる……!

 ルドルフって、大型のイノシシか何かなの!?

 こんなの、捌ききれない……!)


 エイルは何とか調子に乗ったルドルフに食らいついていたが、とうとう体力の限界を迎えた。

 横から大きく大剣を叩きこまれた時、その勢いで壁に叩きつけられてエイルの戦いは終わった。


「あ、えっとぉ……生きてる?」


 やり過ぎたことを自覚したのか、ルドルフは申し訳なさそうに目線を泳がせていた。

 幸いエイルは怪我をしていないし、意識もはっきりしていた。

 しかし打ち付けられた背中がとても痛く、しばらく動けそうにもない。


「ううっ、大丈夫……多分……」


 エイルが無理やり笑顔を作ると、ジェイドが手を差し伸べてくれた。

 そして立ち上がるのを手伝った後、ルドルフの頬をつねりながら説教をしていた。

 最初彼は何か言い訳をしていたが、次第にジェイドの圧に負けて枯れた花のようにしぼみ始めた。

 まるでやんちゃな我が子を注意する母親のようだった。


「——いい、分かった?

 しばらくあなたは戦闘禁止。

 しっかり反省しなさい」


「……はい、すみませんでした」


 ジェイドはルドルフの武器を取り上げ、そこでしばらく正座するように命令した。

 そのまま彼女はエイルと一緒に部屋を出て、念のため医療室に向かった。


 

 医者はあざになるかもしれないと言っていたが、特に問題はないと診断した。

 その際、エイルはさっきから気になっていたことをジェイドにぶつけた。


「私、カミル団長の期待に応えられているんでしょうか?

 1か月経ったのに、ルドルフとちゃんと戦えていませんし……」


「……」


 医者が診察する中、ジェイドは複雑な顔をしながら窓の外に目を向けた。

 外はとてもきれいな青空が広がっており、木々が心地よく揺られている。

 彼女はしばらくそれを眺めた後、優しい目でエイルを見た。


「完璧に、とは言わないけどちゃんと期待に応えられていると思うわ。

 だって今日、互いにちゃんと攻防を繰り広げてたじゃない。

 それにルドルフは、ハイになっちゃうほどあなたとの戦闘を楽しんでいたのよ?

 彼をあんな風にすることができる人は、割と限られているわ」


 確かに、初日は一方的にやられていたし話になっていなかった。

 しかし今回は、後半は防御を強いられたが戦いらしいことができた気がする。

 まだ目標にたどり着いたわけではないが、この調子で頑張ればいいのだ。

 そう考えると、肩が軽くなった気がした。




 医務室から出ると、急に建物が揺れ始めた。

 最初は地震が来たのかと思ったが、何かが違う。

 揺れては止まり、また揺れての繰り返しなのだ。


「えっ!? な、何が起きてるの!?」


 エイルはわけが分からずキョロキョロ見回したが、原因となるものは見つからない。

 そんな中ジェイドは、頭を抱えて溜息を漏らしていた。


「はぁ……あの子ったら、また屋内で本気を出したわね」


 そう彼女が言った先、突然大きな爆発音が響きわたった。

 同時に目の前の壁が崩れ、とても大きな物が吹き飛ばさた。

 そして、土煙とともに壁に激突した。


 幸いその物体はエイルの目の前を通り過ぎただけで済んだが、一歩間違えれば巻き込まれていた。

 エイルが思わず青ざめていると、聞き慣れた声が煙の奥から聞こえてきた。


「いっづ……

 こっちからお願いしたとはいえ、建物の中で隕石を降らせるとかないだろ……

 まる焦げになる寸前だったぞ……」


 姿を現したのは、自身の発明品であるモササウルスを顕現させた、埃まみれのロバートだった。


<<同時刻ブルーレース魔法店にて>>

ルイ「……いらっしゃい。君がここに来るなんて想像していなかった」

カミル「ふふっ、そうかしら? 私だって魔法店に出入りすることはあるわよ」

ルイ「だが今日は買い物に来たような感じではないようだが」

カミル「あら? 察しがいいのね。実は黒幕探しでお手伝いしてほしいことがあるんだけど、話を聞いてくれるかしら?」

ルイ「……もちろん。それでエイルのためになるのなら」

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