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6-1. 劇団での戦闘演習

 ストロベリークォーツ劇団は、大きな劇の稽古場を持っていた。

 しかも建物は孤児院と繋がっているため、外から見たらなおさら大きく見える。


 外観は歴史のある洋風の建造物で、特にこれといった目立つ特徴はない。

 しかし、中は違う。

 東側は大きさを問わず十数個ものスタジオ、西側は役者やスタッフが暮らす寮があり、頻繁に人が行き交っている。



 エイルが訪れた時、思わず感嘆の声を上げてしまった。

 エイルが広間をひとしきり見回して満足した頃を見計らって、隣にいたルドルフはニコニコと顔を覗かせてきた。


「どう? すごいでしょ?

 演習が終わったらゆっくり案内してあげる」


「えっ!? いいんですか!?」


「もっちろん! 特に見せられないものとかもないしねー」


 ルドルフはエイルの手を取ると、はしゃいでいる子供のように足早にある場所へ連れて行った。



 そこは戦闘訓練用の練習場だった。

 ルドルフ曰く、戦闘シーンの練習と冒険者活動の鍛錬のために用意されたところらしい。

 筋トレ用の機材はもちろん、模擬戦用の武器や藁人形まで置いてある。

 しかもかなり多くの人が、そこを利用している。

 あまりにも充実していて、羨ましくなってしまう。


「さてと、ここのスペースで訓練しよう。

 僕、君の戦闘力をあんまり知らないから、まずは簡単に手合わせしようよ」


「へっ!? あ、はい! 分かりました!」


 ルドルフは木剣をエイルに渡すと、敬語を使う必要はないと言った。

 言動は子供っぽいが、彼はエイルよりも6歳年上で戦闘経験も豊富だ。

 だから敬意を払うのは当然だとエイルは言うも、ルドルフはすごく不満そうに眉を歪ませた。

 しばらくすると、癇癪を起こしたように暴れそうな雰囲気を醸し出し始めた。

 エイルは仕方なく敬語を使うのをやめると、ルドルフは目をきらきらと輝かせ始めた。


「うんうん! やっぱり気楽でいなくちゃ!

 それじゃあ、始めるねー」


「うん、よろし——」


「いっくよー、どっかーん!!!」


「へっ!!??」


 ルドルフはエイルが話し終わる前に、急に高くジャンプし剣を大きく振りかざした。

 あまりにも突然のことでエイルは頭が真っ白になった。

 だが、何とか反射的に防御体勢を取ることができた。

 結果として何とか彼の攻撃は防げた。

 しかし全く加減をせずスキルを使ったようで、信じられないほどの威力で足の骨がミシミシときしんだ気がした。


「お、おっも……!!

 ——うわぁぁぁぁ!!!」


 結局エイルは踏ん張ることができず、そのまま後方に吹き飛ばされてしまった。

 模擬戦を始めてから、わずか10秒足らず。

 エイルは積まれていた機材の上で伸びてしまった。


「ありぇ? やり過ぎちゃった?」


 ルドルフは気まずそうに、目を泳がせながら人差し指で頭を掻き始めた。



 それでもその後何度も打ち合ったが、ルドルフの一撃でエイルが弾かれる展開がずっと続いた。


「うーん、まだエイルちゃんの実力が分からないなぁ……

 じゃ、もう1回」


「ち、ちょっと待って!?

 せめてスキルを使わな——ひゃぁぁぁぁ!!!」


 このような感じで、ルドルフは毎度本気で攻撃してきて手合わせの意味を全く成していなかった。

 何度も手加減してとお願いしているのに、聞く耳を持ってくれないというおまけ付きで。


 しかし、ルドルフに一切悪気はない様子。

 戦うのが楽しいらしく終始笑っているものの、すぐに決着がつくと申し訳なさそうな顔を見せた。

 彼なりにエイルのことを気遣っているが、加減することが思い浮かばず、どうすればいいのか分からないようだ。


 そのせいで、エイルは頭痛に悩まされた。


(どんなに頼んでも、言い終わる前に襲ってくるし……!

 ルドルフなりに困ってるし……!

 これじゃあ完全にいたちごっこだよ!)


 だがその間も、ルドルフは容赦なく攻撃してくる。

 エイルは再び構えたが、このままだとまたどこかに弾き飛ばされるのは目に見えていた。

 仕方なく、エイルは覚悟を決めてこの後の痛みに対して心構えをした。



 その時、突然2人の前に人が割り込んできた。

 相手はエイルに背中を見せ、戦闘用の斧を構えてルドルフの一撃を受け止めた。

 

 2人の武器がぶつかり合った際、突風が周囲に吹き荒れた。

 幸い体が吹き飛ばされることはなかったものの、目を開けることは叶わなかった。

 風が止んでエイルが前を見ようとすると、凛々しい女性の声が耳に入った。


「ルドルフ、それじゃあ模擬戦になってないわ。

 スキルは封印しないと。

 できれば慣れない武器に変えなさい」


 エイルの目の前にいたのは、身長の高い女性だった。

 うすい水色の髪を1つに束ね、腰のところで濃い青色の毛先が風で揺らめいている。

 服装は軍人を彷彿とさせるデザインだが、どこかお洒落で女性らしさがある。


「えー……それじゃあ意味ないと思うんだけどなぁ」


 ルドルフは不満そうに口先を尖らせた。

 女性は溜息を漏らしたかと思うと、軽く彼の頭にげんこつを落とした。

 見た目以上の威力だったらしく、ルドルフは小さな悲鳴を上げて蹲ってしまった。

 すると女性は、エイルの方に目鼻立ちがくっきりした顔を向けた。


「ごめんなさい、突然割り込んで。

 通りがかった際にここが騒がしくて気になって入ってみたら、この戦闘狂(ルドルフ)が本気で戦ってるんだもの。

 私はジェイド、この劇団のスタントマンよ」


「あ、いえ。むしろすごく助かりました……

 ありがとうございます」


 ジェイドは武器を肩に置くと、エイルに手を差し出し握手を求めた。

 少し躊躇しながらもエイルがそれに答えると、明るい笑顔を返してくれた。

 彼女はその後ルドルフのところに戻り、少しきつい口調で説教を始めた。


「団長から聞いているわ。

 この子を強くするんでしょ?

 だったら私に任せて頂戴、あなたはクビよ」


「ちょっと! それはないよ、ジェイド。

 僕は団長から直に頼まれたんだよ?」


「知ってるわ。

 だけどこのままじゃ意味ないでしょ?

 あなたと戦っても問題ないと判断したら、潔く引くから。

 それまで我慢しなさい」


「えー」


 ルドルフは明らかに気に入らない様子だった。

 そこでジェイドは、仕方なく彼に一騎討ちを申し込んだ。

 勝負内容はスキル使用不可の取っ組み合い、至ってシンプルなものだった。

 それを聞いたルドルフは、目を輝かせて二つ返事で了承してしまった。

 そして開戦の合図が下ろされる間もなく、2人は武器を捨て互いの拳を交え始めた。




 ……勝者は、ジェイドだった。


 割と互角な見事な戦いが繰り広げられたが、どんなにルドルフが攻撃してもジェイドはびくともしなかった。

 女性らしい華奢な体つきなのに、彼女は鋼の塊のよう。

 それに加え、彼女は周りに余波が行かないようずっと気遣いながら戦っているようだった。

 なのにルドルフはジェイドにコンマ数秒の隙を突かれ、一本背負いで地面に叩きつけられてしまったのだ。


「肉弾戦なら私に分があるのは知ってたでしょう?

 あなたって本当に戦うの好きね。

 負けたのに楽しそうにしているんだもん」


 起き上がったルドルフは、彼女の指摘通り愉快そうにしていた。

 そしてヘラヘラと照れ臭そうに笑いだす。

 どうやら図星のようだ。

 

「はぁ……それで、大人しく引いてくれるわよね?」


「もっちろん!

 久々にジェイドさんと手合わせして、すごく満足したしね!

 ……あ、見学くらいはいいでしょ?」


「ええ、構わないわ」


 スッキリしたような顔をしたルドルフは、さっき捨てた木剣を拾って壁の隅に座った。

 そして胡座をかき、これから繰り広げられる模擬戦に期待を寄せて体を左右に揺らせ始めた。

 さすがのエイルも、彼の戦い好きに顔を引きつらせるしかなかった。


「さてと、待たせちゃったわね。

 改めて、戦闘狂の代わりにしばらく私が稽古をつけてあげる。

 ちょうど時間も空いているところだったし、気にしないで頂戴」


「……へ? あ、はい!

 よろしくお願いします!」


 エイルが我に返って木剣を構えると、ジェイドは何も持たないまま手招きをした。

 最初エイルは流石に怪我をさせてしまうのではと戸惑ったが、ジェイドは防御系のスキルを持っているらしい。

 それに素手で相手した方が都合いいと訳の分からないことを言い出し始め、エイルは仕方なく戦闘を開始した。


「——はぁぁぁぁぁ!」


 エイルは剣を大きく振りかざし、渾身の一撃をジェイドに叩きつけた。

 しかし彼女はびくともせず、あろうことか片手で受け止めてしまった。


(え!? 嘘でしょ!?)


 予想外のことで、エイルの思考が混乱した。

 一方ジェイドは、楽しそうに口角を上げる。


「へぇ、なかなかいい振動じゃん。

 でも遅いし、剣が軽すぎる。

 もっと足を意識しなさい」


「は、はい!」


 ジェイドが剣から手を離すと、エイルは一旦距離を取った。

 そして言われた通り足に神経を集中させ、さっきよりも速いスピードで突進した。

 ジェイドはそんなエイルを、また片手で受け止め腕の感覚を確かめ始めた。


「んー、この響きは……逆に手の力が抜け過ぎちゃってる。

 剣に力を込めなさい」


「分かりました!」


 そうしてエイルは何度も攻撃をジェイドに叩き込み始めた。

 そのたびに彼女は左右の手で器用に迫りくる剣を掴み、その衝撃を確認した。


「もっと剣に体重をかけなさい」


「はいっ!」


「もっと」


「——こうですか!?」


「もっと!」


「うっ、こう……ですか!」


「もっと!!」


「は、はい……!」


「まだ足りない! これじゃあ満足できないわ!」


「はい! ……へ?」


 なんとジェイドは、攻撃を受け止めた際の衝撃が大好きなようだった。

 そして自分の納得できるものが来るまで、エイルに指示を出し微調整をしていた。

 しかし彼女の指摘は的を射ているため、何だか複雑な気持ちになってしまう。


(劇団の人達って……個性が強いんだなぁ)


 模擬戦をしながら、エイルはそう冷静に考えてしまった。


<<人物紹介>>

名前:ジェイド・オウエンズ

性別:女性

年齢:21歳

種族:人間

所属:ストロベリークォーツ劇団 スタントマン

特徴:凛々しいお姉さんだが、どこかずれている

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