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5-13. トップクラスの戦闘

 今のカエデは、憤怒に囚われ冷静な判断ができていない。

 ルドルフの話を一切聞こうとしないのがその証拠だ。


 一方のルドルフは、周囲を気遣う余裕がある。

 表情と戦い方から、できればカエデと和解したいと思っているのも容易に想像できる。


 アインツは即座にそう判断し、一番平和的解決を望めそうなルドルフに肩入れすることに決めた。

 カエデはそれが気に入らないらしく、キリキリと歯ぎしりしている。


「カエデのスキルは強力だけど、負の感情を増進させちゃうんだ。

 そのせいで、どんどんまともな判断ができなくなっちゃうのが弱点だよ。

 僕も狙った所に当てないとスキルが不発するし、万が一カエデに命中したら彼女の体が爆散しかねない」


「そうか、分かった。

 悪いが手加減するつもりはないから、あいつを半殺しにしても責めるなよ?」


 ルドルフは渋々頷いた。

 彼の左肩には洞窟の崩壊前には無かった新しいかすり傷があり、そこから黒い炎が轟々と燃え上がっている。

 今の彼は恐らく本来の力を全然発揮できないのだろう。

 それを物語るように、ルドルフの顔に疲弊の色が見え始めている。

 

 アインツは野獣の如く睨んでくるカエデを見据え、戦闘態勢を敷いた。


「邪魔を……するなぁぁぁぁぁぁ!!!」


 カエデは綱が切れたように、アインツに向かって走り出した。

 その間に、ルドルフが割り込む。

 そしてアインツを斬ろうとした攻撃を大剣で受け止めた。


(うっ……体がさっきよりも重い……!)


 武器から火花が散る中、ルドルフは顔しかめだした。

 我を忘れかけているカエデの本気の一撃を受け止めるので、もう手一杯になってしまっている。

 彼の後にいたアインツは、カエデに向かって何本もの氷柱を飛ばした。


 カエデはその空を切る音を拾い、咄嗟に距離を取った。

 そして華麗な刀さばきで全部払いのける。


「――!?」


 直後、カエデの足元から巨大な氷が出現した。

 そのせいで彼女は空中に投げ飛ばされる。

 だが体を上手くくねらせて、その氷を足場にして走り始めた。

 ルドルフはそれを見て咄嗟に走り出し、氷を駆け上る。

 そしてそのまま、激しくしのぎを削り合い始めた。




 遠くにいたエイルとロバートは、その様子を度肝を抜かしながら見ていた。


「これって……人間同士の戦いなの……?」


「だと、思うが……」


 カエデとルドルフは、互いにハンデを負いながらも目にも留まらない速さでやり合っている。

 対してアインツは地上で佇んではいる。

 でも大きな氷の塊を変幻自在に形を変えかせ、カエデの足場を奪ったり攻撃したりしている。

 しかもルドルフに全く影響を及ぼさないようにだ。

 その様子はまるで、神話に出てくる神々の戦いのようだった。




 そうしてカエデに余裕がなくなってきた。

 正面からルドルフが何度も迫ってくる。

 最悪彼の一撃で勝敗がついてしまうため、絶対にかすり傷でも受けることはできない。


 ルドルフを跳ね返せば、周囲から氷が降ってくる。

 一撃自体は大したことないが、気が緩むところを的確についてくるためいやらしい。

 しかも方向もバラバラなため、事前に構えることもできなかった。



 そのせいでカエデは疲れ始めていた。

 ただでも治療された傷が開いてきついのに、休む暇がない。

 彼女の苛立ちは、限界に達しようとしていた。


「――ぢっ!!」


 カエデは強く刀を握り、纏う黒炎を大きくさせた。

 そして今まで以上に体に力を籠めると、空中からルドルフを襲おうとした。



 それに気付いたルドルフは、受けの構えを取った。

 直後2人の武器は衝突し、ガーンという音が周囲に響き渡った。


「――うっ!?」


 ルドルフはその重圧に耐えられなくなり、バランスを崩した。

 同時に足元の氷も限界を迎え、崩れるとともに落ちていく。

 そのまま彼は、何メートルもの下の地面に直撃した。


 その隙を、カエデは見逃さなかった。

 彼女はルドルフが起き上がる前に、刀を突きたてながら急降下を始める。

 狙いは、彼の心臓だ。


(まずっ!?)


 ルドルフが気付いた時には、カエデの顔が目の前にあった。



 その時、ルドルフの前に氷の壁が生じた。

 カエデはそれに気付くも、成すすべなく刀が弾かれる。

 その衝動で、ルドルフの横に転がるように着地する羽目になった。


「――あ゙ぁぁぁぁぁ!!」


 カエデの矛先がアインツに切り替わった。

 彼女は立ち上がるとすぐに、雄叫びを上げながら走り出した。

 そして、アインツを両断しようと試みる。



 それを、アインツは瞬時に理解した。

 彼は攻撃が来るであろう方向にだけ、密度の高い氷を盾代わりに形成した。


 ――ガキィィィィィン!


 刀が氷に命中した。

 だが氷が固すぎるせいで、ヒビすら入らない。

 カエデは大きな舌打ちをし、四方八方から猛攻を降らせ始める。



 アインツはそれを全て見切ってしまった。

 いや、彼が予想した攻撃の軌道が全て当たったという方が正しいだろう。

 カエデの刀は、全て瞬時に作られた氷によって弾かれてしまっていた。


「全然ダメだな……

 やっぱり密度の高い氷を作るのは神経を使う。

 もっと練習しないと」


 そんなアインツの呟きが、カエデの逆鱗に触れた。


「ふざけるぁ!!」


 カエデは更に刀に力を込め、力技でアインツの防御を破ろうとした。

 その時、彼女の耳に遠くから高速で何かが飛んでくる音を拾った。

 回避は……間に合わない。


「ぐぅっ!?」


 刀で何とか防いだが、その物体と一緒に彼女は吹き飛ばされた。

 そして後方にあった氷の塊に激突し、白煙が立ち上った。

 アインツは考え込むように上を見上げた。


「数十メートル離れた場所で氷を作るのは簡単なんだが。

 小石並に小さくて硬いものとなると、思ったよりも難しいんだな。

 ……おい、そろそろ動けるか?

 厳しいなら俺一人であいつを止めるが」


 ルドルフは大剣を地面に突き刺し、ゆっくりと立ち上がった。

 彼は息切れをしており、かなり疲れているように見える。


「ハァ……ハァ……気遣い、感謝するよ。

 でも、僕はまだ、戦える!」


 アインツは鼻で笑った。

 彼は気持ち後退し、ルドルフに前衛を譲った。

 ルドルフは軽く笑顔を作り、剣を引きずるように1歩ずつ前へ向かう。


「まだ僕の言葉が届かないと思うけど……

 カエデ、1つだけ言わせて。

 僕はまだ、君を大切な仲間だと思っているよ」


「…………っ!」


 カエデは一瞬戸惑いを見せたかと思うと、血を吐いて膝をついてしまった。

 さっきの衝撃で一番深い傷が開いてしまったようだ。

 激痛が酷く、彼女にはもう戦う余裕がなかった。


「――うわあ゙ぁぁぁぁぁ!!!」


 カエデは悲鳴のような声を出すと、地面に向かって刀を振り回し始めた。

 それによって積もった雪が舞い、視界が白くなっていく。


「あいつ、逃げる気だぞ?」


「っ!? カエデ、待って!!」


 ルドルフは慌てて彼女がいた場所に駆けつけた。

 でも、遅かった。

 彼が着いたときには、影も気配もなかった。

 焦りを必死に抑えながら懸命に探すも、舞った大量の雪が積もり始めたせいで足跡が見つからなかった。


「――」


 ルドルフは脱力し、その場にしゃがみこんだ。

 その時にはすでに、彼の傷口から燃え上がっていた炎は鎮火していた。



 

 ……カエデは、どこかに消えてしまった。


<<ルイの一言メモ>>

魔法は本来、生活を便利にするために生み出されたものだ。

いつの間にか、戦闘などの魔法使いのニーズに合うように使われることが多くなったが。

アインツの場合、魔法は自分を証明するための手段に過ぎない。

彼が魔法を使うのは、たまたま僕が専門書を持っていて詳しかったからだ。

もし僕が魔法以外に詳しかったら、アインツは今とは別の道を歩んでいただろう。

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