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5-9. 劇団副団長の実力

 ルドルフを先頭にして、アインツとロバートはギルドへ向かった。

 グッタス医院はギルドのすぐ近くにあるため、5分も歩いていない。

 にもかかわらず、アインツとロバートはどっと疲れてしまった。


 当然だ。

 行き交う人達が全員、ルドルフに釘付けになっていたのだから。

 女性はキャーキャー叫び、男性も頬を赤らめるのが当たり前。

 そして極めつけは、ファンの期待に応えるようにルドルフがウィンクを大衆に投げたことだ。

 その瞬間皆の興奮が最高潮に達し、大勢の人が詰め寄ってきた。


「ごめん、みんな。

 今は急ぎの用事があるんだ。

 サインも後でしてあげるよ。

 だからここを通してもらえるかい?」


 そう言って再びウィンクをすると、さらに大きな甘い声が飛び交った。

 しばらくするとファンの人達は人一人分が通れる道を作ってくれた。

 ルドルフが愛想を振りまきながら通る中、アインツ達も渋々ついていく。

 その時の空気が、すごく居心地悪かった。




 ギルドに入った後は、外ほどではなくとも自然と周囲の目線がこちらに向く。

 そんな中、アインツは逃げるように受付嬢の方に行ってしまった。


「お、素早いね!

 助かるよ、僕が動く前に潜入手続きをしてくれるなんて。

 天才魔術師の名は伊達じゃないね!」


 調子よくルドルフが振り返ると、そこには憔悴したロバートがいた。

 彼のいつもぴんと立っている耳は、だらんと垂れさがり明らかに元気がない。

 それを見たルドルフは、きょとんとして首を傾げた。


「どうしたの、ロバートくん?」


「……なんでも、ない」


 少しだけ自己紹介をした際に、ルドルフの人となりはある程度分かった。

 彼は天然で、素がこのような感じなのだ。

 嘘は一切つかず、悪気というものを知らない。

 いわば純粋無垢な子供が、そのまま大人になってしまったようなものだ。

 そのせいでどこをどのように突っ込めばいいのか、ロバートには分からなかった。



 やがて耐えられなくなって逃げ出したアインツが戻ってきた。


「world Cへ入る許可は貰って来た。

 後でサインが欲しいって伝言付きでな」


 アインツが呆れながら指さす方向を見た。

 そこには、さっき彼の対応した受付嬢が恥ずかしそうに手を振っている。

 ルドルフがさわやかな笑顔で返すと、受付嬢は顔を真っ赤にしてしまった。


「それ、やめてくれ。

 お前のノリについていけない」


「ほへ?」


 ルドルフは何のことか分からない様子で、アインツを見た。

 アインツはわざとらしく頭を抱えると、そそくさとダンジョンの入り口に向かってしまった。


「あ、待ってくれよ!」


 ルドルフは無邪気な子供のように彼を追いかけた。

 残されたロバートも、ため息を吐きながらついていった。




***




 world Cに入った後も、ルドルフはルンルンで前を歩き出した。

 重傷を負いながら無関係の人を誘拐した仲間を探しに来た感じには全く見えない。

 まるで子供のピクニックだ。


「ねぇねぇ、カエデはどこで見つけたんだい?

 早く行こうよ!」


「はぁ……教えるから俺達の後ろを歩いてくれ」


 しかし大はしゃぎなルドルフは決して後ろに回ろうとしなかった。

 そのうえ、頻繁にまだ着かないのと聞いてくる始末。

 アインツの苛立ちは、明らかにふつふつと溜まってきていた。



 そんな中、ロバートの耳が不穏な音を捕らえた。


「おい、2人とも!

 魔物の群れが向かってきているぞ!」


「っ!? 避けられそうか?」


 ロバートは「無理」とだけ言った。

 彼が見ている方向を見ると、既に雪が舞い上がって煙になっているのが見える。

 確かに距離が近すぎる。

 戦闘を覚悟した方が良さそうだった。


「あっ! 敵はっけーん!

 片付けてくるね!」


 そう言うや否や、ルドルフは背負った大剣を手に持つと群れの方へと走り出してしまった。


「おい! 馬鹿か!?」


 ロバートは大慌てで彼を追いかけようとした。

 しかしそれを、アインツに止められた。


「よせ、やめておいた方がいい。

 俺の予想が正しければ、お前巻き込まれるぞ?」


「は? 言っている意味がよくわからな――」


 その時、魔物の群れと衝突したルドルフから大きな声が発せられた。

 同時に、大剣が思いっきり振り下ろされる。


「――ドッカーン!!!」


 彼の剣が群れにぶつかったと同時に、大きな爆発が生じた。


 それは大きな雪の煙と共に、魔物を空高くに打ち上げた。

 同時に強い突風が発生し、ロバート達に向かって押し寄せてくる。

 アインツは反射的に、分厚い氷の壁を瞬時に形成した。


「ぐっ――!」


 それでもロバートは立っているのがやっとだった。

 爆発の衝撃が地面から伝わってきて、小さな地震が起きていたのだ。

 それは数十秒続き、周囲の視界が開けるのにもさらに時間を要した。




 落ち着いた頃に爆心地を見ると、大剣を持ったルドルフが不満そうに空を眺めていた。

 彼は大きくて白いクレーターの中心に佇んでいる。


「ありゃ、やりすぎちゃった……

 魔物、どこに飛んでいったんだろう?」


「――」


 ロバートは絶句せざるを得なかった。


 あの威力、恐らくアインツの攻撃と引けを取らないだろう。

 しかも本人は余裕そうだから、多分本気ではない。

 カミルが彼一人だけを助っ人として派遣したのも納得だ。

 十分すぎるほど、強い。


「あの攻撃……多分威力向上系のスキルを使ったんだろうな。

 いわゆる、クリティカルヒットというものだ」


 アインツは氷の壁をバリバリと砕きながら、ルドルフを見ていた。

 その顔はいたって真剣で、少し睨みつけているまでもある。


 ストロベリークォーツ劇団のパーティーは、冒険者の三強のうちに数えられている。

 そのためある程度の実力は予想していたが、その何倍も上をいっていた。

 今は味方とはいえ、警戒するのも当然だろう。


「アインツ……絶対に、劇団を敵に回さないようにしような」


「当たり前だ」


 そうこうしているうちに、アインツ達に気付いたルドルフが笑顔で駆け寄ってきた。






 少し気まずい雰囲気の中、3人はいとも簡単にカエデの発見地にたどり着いた。

 そこは静まり返っており、人の気配も全くない。


「あれ? 僕達の方が早く着いたのかな?」


 ルドルフの疑問に、ロバートも賛同しかけた。

 しかしアインツは洞窟の入り口に入ると、その場にしゃがみこんで何かを探り始めた。

 少しの間地面をじっと観察していると、ボソッと囁くように言った。


「……足跡だ、しかも2人分。

 1つは下駄で、もう1つはエイルがいつも履いているブーツみたいだな」


「じ、じゃあもう2人は中に入っているってことか!?」


「そうなるな。だが問題は1つ……

 どっちに進んだかまではわからないことだ」


 アインツが眺める先には、二手に分かれた道があった。

 どちらも固い土でできているらしく、足跡は残っていない。

 予測は不可能だ。


 ルドルフは唸りながら、首を少し傾けた。


「うーん……じゃあ、二手に分かれる?」


「それが現実的だろうが、この後も道が分かれている可能性がある。

 それに俺達には互いに連絡しあう手段がない。

 万が一見つかったとしても、他の道に行った奴が奥に進んでしまえば元も子もない。

 ここは、そうだな……」


 そう言ってアインツが手を顎に添えた時、3人の背後から声が聞こえた。


「ヒヒッ、だったらアタシが手を貸しましょうかぁ?」


 アインツは咄嗟に振り返った。



 そこにいたのは、謎多きダンジョンの商人――

 ラトーだった。

<<人物紹介>>

名前:ルドルフ・ユルゲンス

性別:男性

年齢:22歳

種族:ヒューマン

所属:ストロベリークォーツ劇団 副団長

特徴:天然で純粋すぎるイケメン

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