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5-3. 予想外の事態

 氷の壁はドォンッという鈍い音と共に、白い煙を撒き散らしながら砕け散った。

 同時に辺りを吹き飛ばしかねないほどの爆風が吹き、ロバートは咄嗟に地面に伏せた。


(ぐっ――! 初歩の魔法でこの威力かよ!?

 エイルの奴、どんだけ化け物じみた魔力を持ってんだ!?)


 視界は真っ白で、顔には勢いよく雪がバチバチと当たってすごく痛い。

 この状態では、エイルもアインツもどうなるか分かったもんじゃない。

 そう思いながらも、ロバートは飛ばされないように地面にしがみつくしかなかった。




 しばらくすると、辺りは静寂に包まれていた。

 ロバートがゆっくり体を起こすと、大慌てでエイルとアインツを探す。

 幸い彼らは、ほんの少し離れたところに転がっていた。


「おい! 大丈夫か!?」


 大声を出しながら駆け寄ると、2人はゆっくりと起き上がり始めた。

 吹き飛ばされた衝撃で軽く体を打ったみたいだが、怪我はなさそうだ。

 どうやらアインツがエイルを庇い、魔法を駆使して何とかしたみたいだ。


「ううっ……ここまでするつもりなかったのに……

 魔法ってこんなに危ないものなの?」


「確かに暴発して怪我をすることはなくないが……

 ここまでのものはあんまりないはずだ。

 だよな? アインツ」


 痛そうに頭を擦りながらエイルはその場に座り込むと、ロバートと一緒にアインツを見る。




 彼はゆっくりと起き上がり、地面の方を向いて動かなくなった。

 ロバートの質問に答えることなく、左手で顔を覆い隠している。

 どこか痛むのかと思いエイルが声をかけようとした時、アインツの肩が小刻みに震え始めた。


「く……くくっ……」


 エイルは驚いて伸ばそうとした手を引っ込めた。

 やがてアインツは体全体が痙攣したかのようになり始めた。

 ロバートとエイルが絶句して見守る中、とうとう堪えきれなくなったアインツの感情が一気に爆発する。


「あはははははははは!!!」


 アインツは空を仰ぎ見ながら、遥か遠くまで聞こえそうな声量で大爆笑し始めた。



 アインツがここまでハイテンションなのは見たことがない。

 魔物を一方的に屠っている時稀に不気味な笑みを浮かべていることはあった。

 だがこんなに狂ったような感じなのは初めてだ。

 

 エイルの魔法の威力が強すぎて興奮しているのか。

 またはエイルの潜在能力に満足しているのか。

 彼の頭の中はその場にいる2人には理解できず、ただ目を丸くしながらアインツを眺めていることしかできなかった。




 しばらくして、アインツは息を切らしながらも落ち着きを取り戻し始めた。


「ハァ……ハァ……

 いやぁすまない、つい楽しくなってな。

 ここまでお前の力が凄いとは、想像していなかった」


 アインツはそう言いながら、笑いすぎて出てきた涙を指で拭った。

 彼の声は少し荒れていて、呼吸が苦しいらしく時々せき込んでいた。

 それに対して、エイルとロバートは未だに呆気に取られていた。


「だが彼の言う通りだ。

 六番(ゼクス)の威力は常軌を逸している。

 かなり魔力を抑えたようだが、それでもここまでとは。

 くくっ……まずは魔力制限の練習をしないと駄目そうだな」


 アインツは再び笑い始めようとしたが、頑張って堪えていた。

 何がツボなのか分からないが、確かにエイルが今の状態で魔法を扱うのは危ない。

 しばらくは魔法の練習はお預けしておいた方がいいだろう。

 まずはもっと魔力操作の練習を積むべきだ。



 エイルが氷の壁を見てみると、そこにはもう氷の塊は無かった。

 あるのは立ち込める白い水蒸気だけ。

 放った炎があっという間に全て蒸発させてしまったらしい。

 我ながらとんでもない威力だ。



 白煙が晴れてくると、エイルはある違和感に気づいた。

 壁が合った先に、何かが横たわっている。

 シルエットから判断するに、岩とかではなさそうだ。

 やっとはっきりと視認できるようになった時、エイルの顔から一気に血の気が引いた。


「ひ、人!?」


 エイルは焦りながら駆け寄った。

 そして倒れている人物をまじまじと観察する。



 相手は額から二本の赤い角が生えた、鬼人の女性だった。

 さらさらとした長い黒髪を1つに束ね、両目には何故か黒い布が巻かれている。

 和服をモチーフにした装いで、腰には刀を差していた。


 だが一番の問題は、その女性が怪我をしていること。

 全身傷だらけで、口からは血があふれ出ている。

 ただ唸っている様子から察するに、意識も曖昧でかなり危ない状態だ。


(うそ……さっきの爆発に巻き込まれたんじゃ!?)


 氷の壁はとても分厚くて、反対側なんざ見えなかった。

 そのせいで人がいたことに気付かずに、あんな危ないことをしてしまったのではないか?

 だとしたら、自分のせいで彼女を怪我させてしまったことになる。

 エイルは慌てて治療をしようとしたが、どこから手をつければいいのか分からなかった。



 エイルがあたふたしていると、後ろからロバートとアインツも駆け寄ってきた。


「おいおい……! 反対側に人がいたのかよ!?」


「だが変だな。

 爆発に巻き込まれたような怪我じゃないぞ、これは。

 明らかに誰かに斬られた跡がある」


 アインツは冷静に女性の容態を調べていた。

 しかし頭が真っ白になっていたエイルには、何も届かなかった。

 そうこうしているうちに、ロバートが女性をゆっくりと担いだ。


「細かい話はあとだ!

 とにかくこの人を連れて外に出よう!

 かなりの重傷だから、早く病院で治療してもらわないと!」


 ロバートは彼女の傷が悪化しないように配慮しながらも、出口へと走り始めた。

 アインツもそれに続こうとするが、エイルが放心状態になっていて動く気配がない。

 思わず、アインツはため息を漏らして頭を掻いた。


「おい、しっかりしろ。

 とにかくあいつを病院に運ぶのが最優先だ。

 あのままだと血の匂いにおびき寄せられて、ロバートと一緒に魔物の餌食になるぞ」


「あ――」


 アインツはエイルの腕を無理やり引っ張り、ロバートの後を追った。

 

<<リコリスの一言メモ>>

そういえば、皆様に他の冒険者グループのご紹介をしたことありましたっけ?

有名な方は3組いらっしゃいまして、荒くれ者の集団のマリーガーネット・ファミリー、演劇活動を行っているストロベリークォーツ劇団……

そして、この都市の治安を守るアクアマリン騎士団ですね。

いつかお会いすることになるかと思いますので、是非頭の片隅にでも入れて頂ければと!

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