4-15. 家族との再会
ロバートは結局ダンジョンを出た後、ギルドの医療班によってグッタス医院に担ぎこまれた。
エイルとディックも同様だ。
残りのヤンソン達も一応問診をすることになり、みんなで一緒に病院へと向かうことになった。
ギルドの外に出たところで、エドワードが部下を連れて待ち構えていた。
だが重傷のロバート達3人を見て、逮捕に踏み切るのをやめた。
その代わりパナサーの了承を取って、3人に見張りを置くことになった。
問診後のヤンソンやアインツ、学生達は先に事情聴取を受けたみたいだった。
結果、ディックは窃盗犯として逮捕。
エイルとロバートはダンジョン内での出来事の話をさせられた後に、厳重注意を受けた。
「ロバート・モーガン、本来であれば貴様は複数の罪で逮捕可能だ。
しかし、工房に仕掛けられた罠の安全性が確認されたこと、逃亡により人の命を救ったことは考慮しなければならない。
よって団長の命により、今回は見逃してやる。
だが一度、貴様に法律の勉強をしてもらう必要があるとボクは判断した。
退院するまでに、この法文を全部暗記しろ。
それが貴様を無罪とする条件だ」
病院のベッドで横になっているロバートの前に、エドワードは紙の束を置いた。
それは辞書のように分厚く、文字も細かくびっしりと敷き詰められている。
眺めているだけで目が回りそうだった。
思わず全身の毛が逆立ったが、どうやらこれはエドワードなりの最大限の譲歩のようだ。
彼は相変わらず無表情で機械的だが、心が残っているなら相当苛立っているはず。
だからロバートは、渋々目と頭を痛ませながらも彼に従うことにした。
……もっとも、退院後には全て覚えたことは抜けてしまったが。
退院した時には、先に病院を出ていたエイルが迎えに来てくれた。
エイルは病室で荷造りも手伝ってくれて、かなり元気そうだった。
「なぁエイル、後遺症とか大丈夫か?
どこか麻痺しているとか、体が動かしづらいとか……」
「ううん、全然。
起きた時は少し感覚が鈍っていたけど、今は元通りだよ!
まぁ流石に無茶しすぎて、アインツとルイにすごく怒られたけど。
あはは……」
そう言ってエイルは目を逸らしながら苦笑いを浮かべた。
まあ、当然だろう。
ロバート自身も、エイルを叱りたい気持ちだった。
だがかなり2人に絞られたようなので、その気持ちを飲み込んでおいた。
あまり責め立てても、かえって逆効果になるだろうから。
2人はそのまま、看護師に見送られるように病院を出た。
そして魔法店に戻ろうとした矢先、ロバートが何かを思い出したかのように急に立ち止まった。
エイルが気になって彼を観察していると、ロバートは少し申し訳なさそうな顔をし始めた。
「エイル、その……悪いんだが、先に荷物だけ持って行ってくれないか?」
「えっ? いいけど……急にどうしたの?」
ロバートは少し黙り込んだ。
しかし彼はある方向を向いて、空を見上げた。
「おじさんに、会いに行こうと思って」
「あ……」
以前、ロバートが一時的にパーティーから脱退していた時のことだ。
彼に会いたくてどうしようかと悩んでいた時に、クライドがロバートの工房の場所を教えてくれた。
その時クライドは、甥であるロバートに「全部終わったら顔を出せ」ってエイルに伝言を頼んでいたのだ。
モササウルスは完成し、ヤンソンとのいざこざも終止符が打たれた。
そして事件も解決し、体調も元通り。
であれば、今が絶好の機会だ。
エイルはそれを理解して、首を縦に振った。
ロバートは荷物を全てエイルに託し、魔法店とは違う方向へと歩いて行った。
向かう先は勿論、アメトリン酒場だ。
ロバートはしばらく、懐かしい店の前で佇んでいた。
扉には「Close」と書かれているものの、人の気配がある。
大方今日の夜の仕込みをしているのだろう。
(おじさん、絶対怒ってるよな?
少し手加減してくれればいいんだけどなぁ……)
ロバートは深呼吸と共に、覚悟を決めた。
そしてゆっくりとドアノブに手を掛けて、ドアベルを鳴らしながら中に入った。
店内は誰もいなかった。
どうやらシルヴィ達はどこかに出かけているらしい。
そんなことを考えていると、見覚えのある巨体が奥のキッチンから姿を現した。
「おい、外の立て札が見えなかったのか?
まだ準備ちゅ――――」
ロバートを視界に捉えた途端、クライドは固まってしまった。
しばらく気まずくてピリピリした空気が流れた。
ロバートは勇気を出して、無理やり笑みを作って右手を挙げた。
その瞬間、クライドが突然消えた。
「え、お、おじさ…………
ゴブッ!!!」
クライドはいきなりロバートの目の前に現れた。
そしてロバートが反応する前に、全力で拳を彼の頭に叩きつける。
クライドはそのまま、床にめり込む勢いで甥に拳骨を落としてしまった。
ロバートは白目をむいて、ピクリとも動かなくなってしまった。
気がつくと、ロバートは店の席に座らされていた。
机に突っ伏した状態から起き上がろうとすると、頭がずきずきと痛んだ。
「いっったぁ…………
あの人、ほんっとうに容赦ないな……」
頭を触ってみると、大きなたんこぶができていた。
まだ視界も歪んでいて、少しぼうっとする。
全く、気持ちは分かるが限度というものがある。
ロバートは座ったまま、クライドに文句を言ってやろうと周りを見回した。
しかし、彼の姿はなかった。
入ったときには聞こえていた、鍋の煮込む音もない。
完全にロバート一人が取り残された状態だった。
彼はクライドを探そうと席を立とうとした。
しかしその寸前に、再びキッチンからエプロン姿のクライドが現れる。
「大人しく座ってろ」
冷たい声と強烈な威圧感で、ロバートのしっぽが思わず立ち上がった。
小鹿のように震えながら、その場で待機せざるを得なかった。
そんな中、クライドの重い足取りが店内に鳴り響いた。
やがて止まったかと思うと、俯いて大汗をかいているロバートの目の前に一枚の皿が荒々しく置かれる。
「……え?」
その上には、大盛りのサンドイッチが置かれていた。
カツサンドやタマゴサンド、種類が豊富で見た目と匂いで食欲が掻き立てられる。
そんな中、一種類だけ量が多くて目立っているものがあった。
……ハムレタスサンド。
新鮮なレタスに薄いスライスチーズ、分厚いハムが挟まれたサンドイッチだ。
ロバートはこれが大好物で、小さい頃よくクライドにおねだりしていた。
とても簡単なできあわせのようなものだが、ロバートの目には豪勢な料理に見えた。
「……食え」
そう吐き捨てたクライドを見ると、なぜかそっぽを向かれてしまった。
ロバートはゆっくりと向きなおって、しばらく目の前の料理をまじまじと見つめていた。
やがて恐る恐る手を伸ばし、1つのハムレタスサンドを掴む。
それをゆっくりと口に運んで、一口だけ齧った。
――おいしい。
レタスのシャキシャキ感、ハムの弾力、パンの甘み。
味は素朴だが、懐かしい感じがする。
同時に心が温まって、胸が締め付けられる。
無意識に二口目、三口目と口に含む度に、その感覚は強くなっていった。
そして一個食べ終わったときには、目から涙が零れ落ちそうになっていた。
「……うっ……ひぐっ……っ――――」
ロバートは泣きながら、次のサンドイッチを食べ始めた。
その頃には涙で顔が崩れ、しゃっくりをあげていた。
クライドはそんな甥を見て、別の方向を向きながら彼の頭を乱雑に撫でた。
「ぐすっ……痛い……」
「あ?」
「な、何でもないです!!」
ロバート編、これにて完結。




