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4-11. 恐怖の助け舟

 ヤンソンは、気が遠くなりそうだった。

 あの竜巻から助かったのには、とても安堵している。


 だが目の前にあるのは、破門した学生と完成を恐れていた魔導人形だ。

 しかもその人形は巨大で、悍ましい恐竜の化石の様な姿だ。

 その恐ろしい兵器の口に今、自分が咥えられている。


 それは彼にとって、一番見たくない光景だった。

 最悪の事態が、目の前に迫っている。

 そう実感せざるを得なくて、ただ絶望するしかなかった。


「先生、言いたいことは山ほどあると思います。

 ですが、今はあの魔導具の暴走を止めるのに専念させてください!

 その後、どんな仕打ちでも甘んじて受けますから!」


 ヤンソンは口を開けたまま、下を向いた。

 自分の手が、小刻みに震えているのがとてもよくわかる。

 怖くて仕方がない。

 だからすぐに首を縦に振ることなんてできなかった。



 しかし、今の優先順位くらいは分かる。

 ここで暴走した魔導具をなんとかしないと、今ここで誰かが死にかねない。

 ヤンソンは理性で必死に恐怖を制圧しようとした。


「…………分かり、ました……

 今は、あれに……専念、しましょう……」


 ロバートは不器用な笑みをこぼした。

 怯えている様子に心が傷んだが、一時的でも受け入れてくれたことが嬉しかった。

 彼はそのままモササウルスを学生達のいる岩場まで運転し、ヤンソンを下ろした。




 その後すぐに、エイルがこちらに向かって走ってきた。


「ロバート!

 先生は大丈夫そう!?」


 最初、こちらに向かう時エイルはモササウルスの口に咥えられていた。

 だが遠くから竜巻が生じたのを見た途端、ロバートは急に近くの岩場にエイルを降ろしたのだった。

 幸いそこには学生達が避難していて、大方の事情を聞くことができた。

 直後、ロバートはヤンソンを助けに行ったというわけだ。


「何とか無事だ。

 それよりエイル、あの魔道具のことを聞いてくれたか?」

 

「うん、持ち主のディックが教えてくれたよ!

 正確にはブリッタが無理やり吐かせた、だけど……」


 よく見ると、エイルの背後に2人の姿があった。

 顔面に青あざができたディックと、彼の胸倉を掴んでいるブリッタだった。

 ゴーグルを外しながらロバートはその光景を見て、一体何があったのかおおよそ把握した。



 彼の魔道具は、ヘマタイトの収集に特化したものだ。

 ヘマタイトは別名”魔力石”とも呼ばれていて、微量ながら魔力が含まれている。

 それを利用して、魔力の含むものを中心に引き寄せるように作ったようだ。


 暴走状況を見れば、今魔力の有無問わず何もかもを巻き上げている。

 恐らく、出力と引き寄せるものを絞るフィルターが壊れているかもしれない。

 そう本人は、推測していた。



 ロバートはその話を聞いて、少し納得した表情を見せた。

 どうやら彼の中で、今の状況と推測が合致したらしい。


「……だったら、オレの全力をぶち込んでみよう」


 そう言うと彼は、モササウルスを竜巻の中心に向けた。

 そして大きな口を広げ、中の機械を露わにする。


「轟く雷鳴よ、我が怒りに呼応せよ。

 我は悪しきものを断罪する者。

 愚かな罪を嫌い、罪人に相応しき罰を願わん。

 故に汝の粛清をもって、この世界に秩序を与えたまえ……!」


 彼の詠唱とともに、モササウルスの口からまばゆい光が生じた。

 それは徐々に大きくなってき、魔道人形の口に収まり切れないほど大きくなる。


(ロバートの詠唱……今まで聞いてきた魔法より長い。

 もしかして、高度な魔法を使う気じゃ……!)


 エイルがそう思った矢先、光の弾はとうとう飽和を迎える。


「――断罪の霹靂(コンビクト・ボルト)!!!」


 モササウルスからは、巨大なビームのような稲妻が放たれた。

 それは空気をバキバキ割るような音と共に竜巻の中心に届き、大きな穴が開く。

 エイルを含めその場にいた人達は、圧倒的な威力に固まるしかなかった。



 ビームが掠った砂は黒く焼け焦げている。

 しかし、竜巻の威力は収まらなかった。

 相変わらず周囲のあらゆるものを巻き上げ続けている。

 全く効いていない。


「高度な雷魔法の上に、魔道人形による威力の上乗せ……

 それでも、あれは壊れないのですか……」


 ヤンソンはか細い声を漏らした。

 どうやら魔法に長けている彼でも、あそこまでの威力の魔法は見たことが無い様子。

 だとしたら、たとえアインツの全力でも壊れることが無いのかもしれない。


「オレの魔法……吸いやがったな……

 くそ……あれじゃ魔法で壊すのは、無理だ……」


 ロバートも力なく呟いた。

 よく見ると彼の顔には、悔しさと共に疲弊が見える。

 どうやら魔力が枯渇寸前のようだ。

 モササウルスを扱うのに、かなりの魔力を消費してしまったらしい。



 そんな中、突然後ろが騒がしくなった。


「おい、ブリッタ! またディックを殴ったのかよ!

 流石にやりすぎだ!!」

「ち、違う! 何もしてない!

 これは自然に流れ始めたんだよ!!」


 振り返ると、学生達が円を描いて固まっていた。

 その中心には、鼻から血をだらだらと流しているディックがいる。

 その量は明らかに異常で、貧血を起こしているのか顔が真っ白だ。

 会話の内容から、何もしていないでその状態になったようだ。


「まずいですね……

 ディック君の魔力が根こそぎ吸い取られて、体に大きな負荷がかかり始めています」


 エイルの顔は真っ青になった。

 ヤンソンの話が本当なら、早くしないとディックが死んでしまう。

 でも、魔法による破壊はできそうにもない。



 だったら、方法は1つ。

 物理的に魔道具を破壊するしかない。


「私がこの剣で壊します! 手遅れになる前に!!」


 エイルは吐き捨てるように言い放つと、竜巻に向かって走り出してしまった。


「エイル君! それは無謀すぎます!!

 戻りなさい!!」


 ヤンソンは必死に声を上げたが、本人には全く届いていない。

 いやもしかすると、聞こえているのに無視しているかもしれない。

 とにかく、エイルを止められそうになかった。


 このままではエイルは竜巻にのまれ飛ばされるだけだ。

 だが、モササウルスにはあらゆるものの干渉を防ぐ魔術的な障壁を張ることができる。

 それでエイルを守れば、飛ばされることはない。


 ロバートは残りの魔力を絞り出した。

 そして傍に待機させていたモササウルスをエイルの真横に沿わせ、風を相殺する。

 おかげでエイルは、竜巻の影響を受けずに全力で走ることができるようになった。


(ロバート……ありがとう!)


 お礼を言うにも、もう声が届きそうな距離ではない。

 だからエイルは心の中で感謝の言葉を呟いた。




 だが、ロバートの限界は近かった。

 風が強すぎて、外からの干渉を遮断する力を限界まで引き出さざるを得なかった。

 ただでも残りの魔力が少ないのに、出力を上げるのはかなりきつい。


「エイル……っ!!

 早くしてくれ……! これ以上は、無理だ……っ!!」


 もしエイルが魔道具を破壊する前に魔力が尽きれば、竜巻に巻き込まれる。

 それだけは何がなんでも避けないと。


「ろ、ロバート君……」


 ヤンソンが、強張った顔でロバートを見ていた。

 辛そうにしている彼を心配しているらしい。

 だがどうすればいいのかわからない様子。

 もしかすると、自分がロバートの代わりにモササウルスを扱おうかと考えいてもおかしくなかった。

 それがヤンソンにとって、どれほどの苦痛なのか想像に難くない。


 だからロバートは、無理やり笑顔を作った。


「大丈夫、です……!

 先生に無理をさせずとも……なんとかしてみせます……!

 それに……モササウルスは、オレ以外の人が扱えば……自爆する仕組みになっています……!

 だから……オレが、操るしかないんです……!」

 

「あ、あなた……そこまでして…………」


 ロバートがモササウルスの設計図を持ってきたときには、そんな仕様はなかった。

 大方ヤンソンに突っぱねられた後に、組み込んだのだろう。

 例えモササウルスが盗まれたとしても、誰にも扱えないように。

 もしかすると、それ以上の盗用の防止策を講じているかもしれない。



 そんな代償を払ってまで、どうして開発にこだわれたのかヤンソンには理解できなかった。


(貴方は……あれを完成させるのに、一体どれほどの覚悟を決めたというのですか?

 自分の全てを代償にしてでも、全責任を背負うなんて……

 愚かとしか、言いようがありませんね……)


 あまりにも馬鹿馬鹿しくて、言葉にできなかった。

 でもそんな信念の強さが、ロバートという人物なのだろう。

 好奇心のために、全てを投げ捨てる。

 そんなことは、誰にでもできる芸当ではない。

 ……本当に、愚かな教え子だ。




 しかしどんなに努力しても、ロバートの疲労の色は濃くなるばかりだ。

 エイルは全速力で竜巻の中心に向かっているが、まだたどり着く気配がない。

 下手すると、ロバートは限界を超えている可能性だってある。


 そのせいか、彼は急に咳き込み始めた。

 咳は止まることなく、やがて水気のある音が混ざり始める。

 そしてやっと、エイルが暴走した魔道具の目の前にたどり着いた時だ。


「ゲホッ、ゲホッゲホッ…………ゴブッ!!」


 突然、ロバートが口から大量の血を吐き出した。

 そして糸が切れたかのように、地面に倒れ込む。

 彼の体の下には、赤い血だまりができていた。

 お腹にできた傷口が、開いてしまったのだ。


「ロバート君!!」


 ヤンソンは大慌てで彼の体を起こした。

 そして傷を確認し、できる限りの応急処置を試みようとする。



 だが、一番の問題はそれではない。

 吐血したせいで、集中力と一緒にモササウルスに送る魔力が途切れてしまった。

 そのため、今一番危険なのはエイルだ。


(ま……まずい……!!)


 竜巻の中を見てみると、モササウルスはぐったりと地面に蹲っていた。

 かなりの重量があるため、飛ばされずに済んでいるようだ。

 そんな中、エイルはもろに突風の影響を受けている。

 何とか自力で飛ばされないように蹲っているが、少しずつ体が風に押されて動いている。


 ロバートは咄嗟に魔力を送ろうとした。

 だが、もうすでに力は枯渇していた。

 どんなに踏ん張っても、少しも出てこない。


「ゴボッ……! く……そ……っ!!」


 やがてエイルは竜巻にのみ込まれ、体が浮かび上がった。

 どこに飛ばされても大丈夫なように受け身を取っているようだが、成す術がない様子。

 瞬く間にエイルは、上空に舞い上がり猛スピードでこちらに飛ばされてきた。

 そして、背中から思いっきり岩場に打ち付けられる。


 ――ゴキッ!!!


エイルは鈍い音と共に、ロバートの横に落ちた。


 ……動く気配がない。

 出血はないし、息はあるようだ。

 でも、起き上がるような素振りは一切見られない。



 近くにいた学生の一人、イェリンがエイルに駆け寄った。

 そして脈を確認したりと、簡単な診察を行ってくれた。


「ええと……気絶しているだけ、みたいです。

 でもさっき打ち付けられた時の音……骨が……

 背骨が折れていても、おかしくないです……」


 ロバートはその場で、ただ唇を噛み締めるしかなかった。

 ただ言うことの効かない体と、自分の非力さを嘆きながら。


<<ルイの一言メモ>>

Concentratio (コンセントラティオ)は実態のある物質以外にも、魔力の集約に長けている。

そのため一時期にこの遺物は、魔法攻撃の防御方法としても使われていた歴史がある。

弱点を挙げれば、効果範囲が大きすぎて仲間の魔法も吸い込んでしまうところだろう。

……それにしても、3人とも帰りが遅い。

大丈夫だろうか?

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