不可能であることの証明
そこは色のない場所だった。
ああ、またこの夢。
私はため息をつきたかった。実際は、ソレの動きに付き合わされているだけだ。
かすかな抵抗から水のようなものにいるのはわかる。それは気ままに動いているが、何かの壁にあたってそこでくるりと回転して別の方向に漂っていく。
かすかな笑い声のようなものをあげているが、なにが楽しいのかわかりもしない。
そもそも水の中にずっといて平気な生き物ってなんなのか。魚というには、手足という感覚があるのが……。
まあ、夢だし。理不尽でも仕方ないだろう。
諦念と共に時間経過を待つ。
暗くなければ楽しめるかもしれないけれど、いつまでもずっと真っ暗だ。正直、退屈である。
いつも通りの、退屈。
それが今日は違った。
ぼんやりとした明かりがあった。瞼越しに見るおひさまみたいに。
あ、これは目を開けてない? と気がつくと同時にぼやけた景色が見えた。
気泡が下から上へと流れていく。透明な壁とその向こう側にぼんやりとした金色。
コツコツと水槽を叩かれるたびに伝わる振動。それは面白いのか笑った。それに驚いたように金色のものは揺れた。
次は、叩くのではなかった。おそらく手のようなものを当ててどうやってか水を震えさせた。それは音のように聞こえたけれど、意味は分からない。
それもわからないようだけど、同じ音を返した。似たようでちょっと違うと思ったのは最初だけだ。繰り返されるうちにそれは完璧に模倣していく。
音も大きく、その分の衝撃も強く。
そんなことをするとダメではないか、と思う間もなく水槽にヒビが入った。亀裂はすぐに広がり、壁が砕け散る。
振動を叩いて伝えられるくらいだからそれなりに薄い素材だったんだろう……。そりゃ、割れる。
水をなくして地面らしき場所に投げ出されても痛くはなかった。
自分の下に金色のものがあったから。
「すまないね。
少しやりすぎてしまったようだ」
金色の髪が水にぬれぺたりとはりついていた。みずのむこうに揺れる金色は髪の毛だったのか……。
金色!?
「今目覚めているのは君だけなんだ。
あとはまだ時間がかかりそうだから、先に行こうか」
ぎゅっと抱きしめて、大丈夫だよという声は。
どぉんと音を立てて、ベッドから落ちた。
落ちた音と衝撃、どちらの方で目が覚めたのかわからない。
「なにあれなにあれ!」
が、今はそれどころではない。
推しの! 声がした!
あの穏やかでちょっと甘い柔らかい至上の声!
夢の中でもいい声だった。とても不審な夢だったけど、それは棚上げだ。それだけじゃなく、ぎゅっだ。死んでもいい。
「音がしたが……大丈夫か?」
「わぅ」
心配されたのか扉が勝手に開けられ、同居人と犬が顔を出してきた。
「大丈夫じゃない」
きりっとした顔で答えた。床に転がったまま。
「……帰ろうか」
「わう!」
秒で出て行かれた。放置したほうがいいと呆れられた。落下事故はこの数か月3回ほどあったが、毎回律儀に確認しに来てくれることを感謝したほうがいいかもしれない。
他にも夜中に悲鳴を上げたこともあるらしいし……。起こされて部屋に人がいたことにはびびったけど。
痛む腰をさすりつつ私は立つことにした。
それにしても変な夢だった。想像の具現化という感じでもない。なにせ、想像力がないと言われている身の上だ。妄想はあるのにな、と残念な生き物のように見られることはよくあった。違いはどこだよ! と喧嘩したのも懐かしい。
想像でないなら、と首を傾げてしまう。
そんな水に詰められた記憶はないはずだ。たぶん、きっと、おそらく……。そう思ってみたいのだが、無駄にある前世1個分のゲームや物語のお約束が脳裏をよぎる。
幼少期の記憶。
私が私になる前のこと。
そうだとしたら、それはどんな意味を持ってしまうのか。
…………。
ま、まあ、とりあえずはご尊顔を拝見した我が推しの似顔絵を描くべだろう。今なら! きっと! できる!
唸れ、私の腕! すべてを描ききってしまうのだ!
………………。
残念ながら、砂粒ほども似てない、金色の物体に成り果て床に転がるのは少し先このとだった。
ゆるふわウェーブ、糸目のぼんやりさん、な魔道の王に最終決定しました。
やる気出した時だけ、目を開けるタイプ。裏切りはしないが裏ボスはやる。
そんな魔道の王がすでに死んでいる話はこちら。
あなたを見送るための
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定期的にアピールしていく所存です。作者の趣味が詰まってます。




