政争敗北王子、田舎に送られる
悪女ではなく、王子が婿にやってきたのなら……。
例えば、
「よーこそー、こんな辺鄙なところにほんと来ましたね」
呆れたように迎えられるとは思ったことがない。
「まあ、一度結婚せよということなので婿殿よろしく。
あ、即時離婚すんなとも言われてないので、即離婚でも構いませんよ。できれば次の夫を斡旋していただけると」
流れるように離婚をすすめられるとも。
「離婚はしない」
「その気になったら事前告知をしていただけると準備できるのでよろしくお願いします」
全く、興味もないように彼女は婚姻の書類に署名した。
僕は、第三王子という微妙な立ち位置に生まれた。半端に野心のある母の実家、ちょっとどうかしらねと腰の引けている母、野心溢れまくっている第四王子、上の二人は同母のため仲良しだった。
兄二人に勝つのは難しいなと傍観しているつもりが、第四王子とつるめと言われ断ったがなし崩しに同陣営に巻き込まれ、一緒に敗北。
あまり積極的ではなかったし、と温情を与えられたのか田舎に婿に出された。
なお第四王子はがっつり幽閉されたので、そこまで害のないと思われたのだろう。
そしてやってきた田舎。
本当に、田舎。人間より羊が多いと言われていたが、牛も多そうだ。ヤギもいるらしい。山地が領土の半分を占め、平地もあまり肥沃とも言えない。
産業と言えば、温泉と旅館経営くらいらしい。湯治客が長逗留してお金を落としてくれるおかげでなんとか成り立っているという。
この地の領主は女性だった。女性が領主をするというのは少し珍しかったが、伝統的に女性しか継がない家もある。ここは他に後継者がいないせいであるらしいが。
「殿下をお迎えするような家ないんで、旅館で療養してください。
ほんと、目の下のクマすごいです。
ああ、それと、別にバカにしているわけでもないということを心に留めて、あちらをご覧ください」
あちら? と思って視線を上げると横断幕があった。
『ようこそいらっしゃいませ! ゆっくりしていってね!』
達筆な文字。
幼児が書いたような花の絵と誰かの似顔絵っぽいもの。
「一応、止めたんですけどね。王子様がくるっ!ってはしゃいじゃって」
少しばつが悪そうに彼女は言った。
「不敬罪とかないですよね?」
「そんなことはしないよ」
そう言った途端、彼女はぱあっと憂いが晴れたように笑顔になった。
「よかった! すっごい心配だったんです。こんななれなれしいとかいわれないかなって!
あらためて、ようこそ! 旦那様!」
全く裏のない態度だ。つまり先ほどまでは怒られちゃうかな?どうかな?と様子をうかがっていただけということで。とてもかわいく見えてしまった。
「ああ、よろしく頼む」
どうにか、王子らしく言えただろうか。かっこつけるのは難しいが、印象を崩さないようになんとか……。
と思っていたが、一か月もしないうちに、殿下ってかわいいよねと噂されるとは思わなかったのである。
この王子、きっと一か月後くらいには畑仕事してる。




