押し売り契約婚
「はぁい? どなたぁ?」
寝ぼけたリクハルドが玄関を開けた先にいたのは、等身大人形だった。
陶磁器人形として飾られていたものとそっくりな白い肌。ゆるく巻いた金髪は毛先まで輝いている。硝子ではなく、宝石を嵌めたであろう青い目はキラキラしていた。少し古い型のドレスはむしろその雰囲気にあっていた。
あれ? 夢見てる? とリクハルドが唖然としている間にそれは首を傾げた。
「ご当主にお会いしたいのですけど、取り次いでいただけます?」
人形がしゃべった。
そのあたりで、リクハルドは目の前の物体がどうも人間らしいと気がつく。
人と言うには血色が悪すぎて白い顔とリクハルドの知る女性の誰よりも細くて薄い。中身が入っていないと思うほどにぺらっぺらだ。
「聞いてます?」
「ええと、僕は当主で、君は誰という話をしたい。
どうぞ、なか、……いや、だめだ。庭でお聞きします」
男一人暮らし。本人は耐えられても来客には耐えられない。リクハルドは昨日の洗濯をちゃんと畳んでおくべきだったと後悔している。
「庭? この雑草だらけが?」
「あ、はい。すみません」
そういうと彼女は冷ややかにリクハルドを見たあと、持っていた荷物からハンカチを取り出した。
「それで、どこがましなの?」
リクハルドは下僕のように案内した。本来はエスコートすべきだろうが、下草をそれなりに踏んでいくのは先導する必要がある。
ちらりと後ろを見れば彼女の無表情が怖い。リクハルドは一体何の用件で淑女がやってくるのかまったくわからない。
侯爵夫人のお使いというわけでもなさそうだな。内心そう呟く。
「こちらで、どうぞ」
「ありがとう」
ツンとした答えにおお、淑女、とリクハルドは感動した。この田舎にはいない希少種だ。
「本当にあなたが当主なの?
顔がよくわからないのだけど」
リクハルドはおおいに茂っているヒゲと伸びっぱなし髪の存在を思い出した。夏になる頃にはスッキリする予定だが、まだ寒いしとのびのびにしていた。
「違うとしたらノコノコついてきたお嬢さんはよほど純真ということ……いやいや、本物だって。
おっそろしいなぁ。
その手つきならどこにぶっ飛ぶかわかんないよ?」
リクハルドは慌てて冗談を中断した。彼女の手に試作品としてみたことのあるブツが握られている。女性の護身用なのよと侯爵夫人が開発したものだ。
それを手にしているということは彼女からの使いだろう。
「わたくし、パーシオ家の娘シヴィと申します。
契約婚の依頼に参りました」
「……は?」
「お金にお困りでしょう? わたくしと結婚すると遺産が手に入ります。一年ほど面倒を見てくれれば」
「ちょ、待った!」
「なんですの?」
不満顔のシヴィに不満を言いたいのはこちらだと告げたいがリクハルドは飲み込んだ。
遺産とは死んだあとの話だ。
年内に死ぬ予告されたのだろうか。
改めてシヴィを見れば白い顔はもう青ざめているようで、小刻みにふるえてもいるように見えた。
「わたくし、病弱ですの。
余命一年と言われて長いですわ。そろそろ死ぬと思うので、都合がよろしいでしょう?」
にこりと微笑む彼女は覚悟が決まりまくっているように見える。リクハルドは天を仰ぎたくなった。
嫁募集中、金欠、両方を解消してくれる女性が来た。
面倒事を連れて。
こういう感じの男主人公の需要は存在するのか。と思いつつよく書く感じです。
だって、相手役のほうが女の子一杯見て、可愛い表現をしてくれるじゃないか。君が微笑むから、嬉しいのだとかそういうの。
あと、美形が苦労する話が好きなのは、リジィオのせいです。きっとそうです。顔の良い不幸男が好きなのです。ええ、顔が良ければよいほど、不幸か性格破綻しているのがよいのです。
なお、一万字くらいと思って書いたら、あ、これ、二万字くらいと予感。その他もろもろを合わせるとまあ、三万字いかないくらい。書く前の予想の上振れがひどい。




