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続きそうで続かない短編倉庫  作者: あかね


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我が友よ、それが形見分けとかひどくないか?

 ああ、わが友よ、ちょーっとこれはひどいんでないかい?

 それを見た時、そう心でつぶやいた。


 遺言にあった最愛の祭壇をどうか、どうか頼むとお願いされてやってきたが……。


「まじで、マジの祭壇……」


 亡くなった感傷をぶっ飛ばし崩れ落ちた私はおかしくないと思う。

 まっつん、ひでぇよ。なんでこんなの残してんのよっ!


 私の目の前にあったのはご立派な推しの祭壇である……。




 この部屋の主だったまっつんとは長い付き合いだ。同ジャンルの泥沼にハマって出会って、そこから十数年。推しは違えど、同じゲームを愛するものとして交流があった。

 そのまっつんが、病気が見つかったのと報告してきたのはたった半年前だ。入院するけど、手術してすぐに帰ってくるつもりと明るく言っていたが不安はあったのだろう。


「私に何かあったら、両親及び身内に押し入られる前にアレを引き取っていただきたい」


 合鍵と共にがしっと両手で握られて頼まれた、アレ。

 それがこんな御大層なものとは思っていなかった。


 今どき、通販サイトでも祭壇買えるのよねぇといっていたのは記憶にある。

 だからといってマジな祭壇買うと思わないじゃないっ!

 普通推しグッズをまとめている一角を祭壇っていうんだよっ!


 そうおもったところで、目の前にあるのは祭壇である。

 推しのグッズと本がお供えされ、おそらく私的流用と拡大解釈して印刷したであろう公式の推しのポスターが遺影の如く置いてあった。

 お線香をおくようなところもあって、本気な供養を感じる。


 おまえ、なにしてんのと問うべき相手はもういない。


「……グッズは回収。祭壇は、悪いけど廃品回収にして」


 そうぶつぶつと呟く。無言だと発狂しそうだ。この部屋に入っていられる時間は短い。ご両親の立会のもと部屋の片付けとなりそうなところをどうしてもと押し切った。

 そうまっつんの願いは叶えられず、ご両親はすでにこの部屋に入られている。そして、大変困惑したそうだ。それはそうだろう。いい年した娘が入れあげていた推しキャラの祭壇を目にした心理状態は想像できない。

 同じ沼にいる私ですら、おまえ、正気だったのか!? と疑うくらいだ。

 ご両親が困惑の末、見なかったことにして捨てなかったことと遺言にあった友人に任せるという話を半信半疑で連絡してきてとてもありがたい。


 しかしまあ、見れば見るほどに、ほんとうに、ほんとうに、大丈夫ですか? という念押しをされるようなブツである。

 ……ひとまず、作業前に写真でも残しておこう。押しに狂った誰かがいた記録。


「さて、やりますか……」


 私宛の遺言状を手に私は気合を入れる。それにしても遺言状に薄い本のいれてある場所とか書くなよ……。幸い個別の手紙を開けるようなタイプのご両親でなかったけどさぁ。


 ざっくり段ボール3つ分+祭壇。

 布系のグッズが少なかったのでほぼ、本。誰かの情熱が詰まった薄い本はこのまま売られる予定だ。

 どこかの同士に譲りたい、だが、時間もあるまい、二束三文は嫌だけど売って! そして、売上はどこかに寄付してという要望だ。


 全く。

 愛が深い。


 だから未婚なんだぞという話はブーメラン過ぎる。


「ほんとさ……」


 遺影のごとくあるポスターを見てため息をつく。

 ひとまずは、宅急便で配達してもらうことにした。一応ご両親にも段ボールの中身を確認するかという話はしたが、鬼気迫る勢いで見るなといわれたらしい。

 死ぬ直前にまでそんなことをいうなんて。明日は我が身だ。

 なお、PCのほうは先に処分という名の配送をされた。私の実家に。くっ、古の同人女、自宅書いてある本を出している。ぬかったわっ!


 うちの両親にあれなに? といわれているが、帰省までまってと箱を開けないよう懇願している。きっとあっちは致死量のなにかが詰まっている。親に見せたくない。


 帰宅して、他に頼まれたことを行う。

 SNSで皆にまっつんが亡くなったことを伝えること。気が重いが、しばらく音信不通で心配している人もいる。私も病気でということは直接伝えられただけで、他の人は知らないだろう。


 淡々と事実だけを書いておしまいにした。遺品として祭壇をもらったという写真だけ出した。


 ……そしたら、なんか、バズった。

 ごく狭い界隈の有名人ではあったからな。まっつん。

 例えば、即売会などに行くと推しが出ているならと端から端まで買う。端役でも買う。初めて本出しましたという人でも買う。

 そういう狂人である。


 自作はできないからねぇ……という。確かにまっつんは死んだ画力なのでそっとしておいた。残念ながら創造性がない。

 どこにおいてきたんだろうとたそがれていた。たぶん、そのアグレッシブさの代償だよ……とは言わないでおいた。


 それはともかく、祭壇を見たいという奇特な方が結構いて処分前にどこか借りて公開するかと軽く話をした。


 なぜか、まっつんを偲ぶ会、推しの祭壇を添えて、という謎の会が開催されることになった。


 主催に祭り上げられた私、なにも企画してないのに企画書がやってきて、会場は抑えられて、日程を開けていてくださいね、と言われる。

 え、なに!?

 と思っているうちに友人代表としてのスピーチまで任されていた。


 うそぉ。この陰キャの人見知りに!? と思ったが、集まるのはみんな陰キャの人見知りである(偏見)。少々の失態はああ、私もあるわぁという同情の目で見られるだろう。たぶん。


 そして、ある春の日にまっつんを偲ぶ会、推しの祭壇を添えてという謎の会が開催された。

 各自の正装とドレスコードにあったので、私は私の推しの概念コーデをした。コスプレまではいけない。参列者はわりとそんな感じだった。一部、用意した部屋の衝立の向こうで着替えて、本人連れてきた? というくらいのコスプレを披露してくれたけど。


 私のしどろもどろの挨拶から始まった会は、まっつんが、変人であり、狂人であり、狂信者である、という話で盛り上がった。

 こういうの、あの人はいい人だったとかじゃないんだぁ……と遠い目をしてしまった。いや、異存ないけど。


 そこから、あのゲームはさぁという話になり、部屋にあったホワイトボードにそれぞれ自説を解説しだした。もはやなんの会かわからない。

 部屋を見渡せば推しの祭壇は皆が持ち込んだ花でいっぱいだし、お一人2册までとした段ボールのものはそろそろ空だし、お賽銭箱には札が突っ込まれているし。

 ほんと、なんだろうな。


 ここに君もいればよかったのにな。


 そう思っても意味はない。


 こうしてカオスな時間は過ぎ去り、時間制限ぎりっぎりで撤収し……。

 結局、祭壇は我が家にやってきた。粗大ごみで出していいらしいけど。


 邪魔だしなと思いながらもまだしばらくはあるだろう。

 しんみりと思っていたのは、実家に帰る前までだった。


 実家に届いていたPCの中に嫌なメモが挟まっていた。


「レンタル倉庫のものも処分して!?」


 あんなに買い漁っていた本が、あれっぽっちというわけではなかったのである……。

 遺産を処分する作業はまだまだ続きそうだった。

 本当に君さぁ……。

そのまっつんは、異世界で推しがもう死んでるんですけどっ! と嘆きながら狂信者をやっており……。

あなたを見送るための

https://ncode.syosetu.com/n8257ke/

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― 新着の感想 ―
ああ、あの人なら仕方ない…という気持ちになりました。何故か。そう何故か。身に覚えがあるわいなぁ…いましたよそういう人。イベントでいつも本を端から端まで買っていく読み専の方…毎回差し入れと手紙をくださる…
途中で色々思ったのですが、あとがきで全部吹っ飛んだわ(笑) ゲーム世界の隠しボスに転生しても、絵心は死んだままだったのか、まっつん……(笑)
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