episode.6『敵』
俺は、常に誰かを恨んでいた。
そう思っていた。
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学生の頃。
笑われた。
社会に出ても笑われた。
夢を語れば笑われた。
失敗すれば笑われた。
何もしなくても笑われた。
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だから俺は、
「いつか全員見返す。」
そう思っていた。
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それが俺の魂の燃料だった。
怒り。
悔しさ。
屈辱。
全部燃やしてひたすら走っていた。
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だから働いた。
だから鍛えた。
だから寝る時間も削った。
だから誰よりも結果に執着した。
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「見返す。」
それだけだった。
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ある日のこと。
仕事帰りだった。
冬。
凍えるような寒さだった。
コンビニに寄る。
温かい缶コーヒーを買う。
外でタバコを吸いながら飲む。
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すると、
一人の男が地面に座っていた。
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スーツはボロボロ。
靴も泥だらけ。
髪もぐちゃぐちゃ。
酒臭い。
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俺を見る。
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「兄ちゃん。」
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「……はい。」
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「百円貸してくれ。」
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俺は財布を見る。
百円玉が二枚。
給料日前だからそれだけ。
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一瞬迷う。
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俺も給料日まで金はない。
明日の昼飯が危うい。
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でも、
気が付けば百円を渡した。
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男は笑った。
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「ありがとう。」
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歩いて行く。
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その背中を見た時だった。
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「あ。」
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そう思った。
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あの人。
昔の俺や。
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もし、
あの時の俺が、
今日の俺を見たら。
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どう思うやろ。
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家に帰る。
鏡を見る。
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昔の自分を思い出す。
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ニート。
金もない。
夢だけある。
みんなに笑われる。
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あの時、
俺が一番憎んでいたのは誰だった?
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笑った奴か?
違う。
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先生か?
違う。
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親か?
違う。
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社会か?
違う。
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鏡の前で、
俺は初めて答えを口にした。
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「敵なんか最初からおらんやん。」
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静かだった。
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人は敵じゃない。
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笑った奴も、
自分の価値観でただ生きてるだけ。
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「無理。」
と言った奴も、
本気でそう思っていただけ。
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もちろん悪意じゃない。
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じゃあ、
俺は今まで何と戦ってた?
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ノートを開く。
白紙。
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真ん中に、
一本線を引く。
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左に書く。
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人。
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右に書く。
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考え方。
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その紙を見つめ悩んだ。
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何十分も考えた。
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そして、
右側だけを丸で囲んだ。
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「こっちや。」
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敵は人じゃない。
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『夢を笑う空気。』
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『努力を馬鹿にする空気。』
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「どうせ無理。」
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「現実見ろ。」
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「身の程を知れ。」
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『その空気』。
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それが、
俺の敵だった。
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だから、
俺は人を殴らない。
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昔笑った奴も、
俺に助けを求めたら手を差し伸べる。
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なぜなら、
俺が倒したいのは、
そいつじゃない。
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そいつの中にある、
諦めの気持ちだから。
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その日。
俺は初めて、
昔笑っていた奴らを許した。
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許したというより、
興味がなくなった。
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俺はもう、
勝負する相手が変わっていた。
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世界だった。
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「無理。」
という言葉だった。
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夢を潰す『常識』だった。
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その夜。
ノートの最後に書く。
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敵は人じゃない。
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敵は『諦め』だ。
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そのページを閉じた時。
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俺は初めて、
怒りだけで走る男じゃなくなった。
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その代わりに、
一つだけ、
新しい目標が生まれた。
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「俺はみんなの希望になる。」
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その言葉を書いた瞬間。
部屋の空気が変わった気がした。
もちろん何も起きない。
急に神様が現れるわけでもない。
当然その瞬間奇跡が起きるわけでもない。
でも、その一行だけは、今までのどの言葉より重かった。
「最強になりたい。」
「無敵になりたい。」
その先に初めて、
「誰かのために強くなりたい。」
という理由が生まれたからだ。
episode7.『希望』に続く……




