episode7.『希望』
「希望って何ですか?」
突然だった。
仕事帰り。
夕焼け。
コンビニの駐車場。
缶コーヒーを飲んでいた時だった。
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振り返る。
そこには、
あの新人が立っていた。
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初めて会った頃より、
少しだけ姿勢が良くなっていた。
目もあの時と比べて
少しだけ光が戻っている。
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「希望?」
俺は夕焼けに染まった空をを見つめながら笑った。
「難しいこと聞くな……」
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新人も笑う。
でも、その笑顔はあの時の純粋な笑顔ではなく
どこか不安そうな笑顔だった。
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「俺、最近考えるんです。」
「何を?」
「頑張る理由です。」
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風が吹く。
夕焼けがトラックのボディに反射する。
俺は更に上を見上げた。
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俺は問いかけた。
「何で頑張るんやと思う?」
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新人は黙る。
答えが出ない……
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「家族のためですか?」
「違う。」
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「お金?」
「違う。」
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「夢?」
「半分正解。」
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俺は少し笑う。
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「頑張る理由なんか、人それぞれや。」
「でもな……」
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缶コーヒーを飲み干して
新人の目を見た。
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「希望ってのはな……」
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「立ち上がる理由や。」
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新人は首を傾げる。
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「理由?」
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「ああ。」
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「人ってな。」
「何回も倒れる。」
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「仕事。」
「恋愛。」
「家族。」
「金。」
「夢。」
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「全部で必ず倒れる。」
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「でも。」
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「理由がある奴だけは立ち上がる。」
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「理由がない奴は、そのままや。」
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新人は何も言わない。
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俺は続ける。
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「だから希望ってのは」
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「光じゃない。」
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「奇跡でもない。」
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「誰かに助けてもらうことでもない。」
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「立ち上がる理由。」
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「それが希望や。」
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静かだった。
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新人は下を向く。
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「じゃあ……」
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「『 』さんは。」
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「誰が希望やったんですか?」
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……
……
……
……
……
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長い沈黙。
そんな中俺はひたすら考える。
そこでたどり着いたのが……
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「おらん。」
これが答えだった。
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新人は驚く。
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「え?」
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「一人もおらん。」
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「じゃあ何で……。」
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俺は笑う。
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「せやから俺は苦労した。」
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「誰も助けてくれへん。」
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「誰も信じてくれへん。」
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「誰も期待してくれへん。」
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「だからな。」
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「俺が希望になるしかなかった。」
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その言葉を口にした瞬間。
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俺自身が一番驚いていた。
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「……あ。」
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初めて気付いた。
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俺は、
ずっと誰かを探していた。
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『最後の砦』
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『希望』
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『神』
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全部、
誰かになってほしかった。
そして助けて欲しかった。
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でも、現実は残酷で
誰も来なかった。
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だから。
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俺がなるしかなかった。
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その瞬間だった。
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新人が何故か涙を静かに流した。
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「俺……」
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「まだ間に合いますか?」
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俺は笑う。
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「もちろん。まだ間に合う。」
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「でも。」
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「楽ちゃうぞ。」
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「苦しい。」
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「辛い。」
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「何回も逃げたくなる。」
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「何回も負ける。」
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「何回も自分を嫌いになる。」
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「それでも。」
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俺は立ち上がる。
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もう一度新人を見る。
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「一緒に走るか?」
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新人は、
涙を拭いて笑った。
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「はい!」
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たった二文字。
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でも、
その二文字で。
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俺は、
初めて救われた。
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「ありがとうございます!」
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新人がそう言った。
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ありがとう?
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違う。
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礼を言うのは、
俺の方だった。
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「立ち上がってくれて。」
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「本当にありがとう。」
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その夜。
いつも通りノートを開く。
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今日のページ。
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一番下に書く。
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希望とは……
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人が絶望から立ち上がる理由、そのもの。
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ペンを置く。
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そっとページを閉じる。
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部屋の電気を消す。
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暗闇の中で、
一人笑った。
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「少しだけ。」
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「俺は神に近付いたかもしれんな。」
そう呟き、窓から夜空を見上げた。
episode8.『敗北』へ続く……




