episode3.『地獄の門』
人生は、この世界は平等じゃない。
そんなことは、とっくに分かっていた(しっていた)。
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努力は必ず報われる。
夢は絶対に叶う。
信じれば道は開ける。
某先生の名言「諦めたらそこで試合終了ですよ。」
……
全部、綺麗事だった。
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現実は違う。
働いても働いても金は足りない。
どんなに頑張っても誰にも認められない。
評価もされない。
信じても結局裏切られる。
夢を語れば笑われる。
諦めなくても試合が終われば全て終わる。
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ある朝。
いつもの鏡の前で俺は笑っていた。
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「今日も無敵や。」
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もう日常になっていた。
毎朝起きたら、鏡を見る。
毎朝、そう言う。
最初は見栄だった。
今は違う。
呪文だった。
何よりも大切な『仮面』だった。
折れないための。
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玄関を開ける。
冷たい風が頬を叩く。
昔大切な人に貰った
無駄にでかい長財布には小銭しかない。
当然財布は軽い。
心はもっと軽かった。
空っぽだから。
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心機一転して仕事を探す。
面接を受ける。
圧迫面接でも、リモート面接でもとにかく受ける。
落ちる。
また面接。
落ちる。
また面接。
落ちる。
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「今回はご縁が……」
「今回は……」
「今回は……」
「今回は……」
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馬鹿の一つ覚えのように
「今回は」しか言わない世界だった。
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帰り道。
スーパーで安くなった
賞味期限間近のパンを買う。
レジに向かう。
レジを担当する店員は笑顔だった。
俺も情けなくて笑った。
百円しか使えない自分を。
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夜も更けて
まだ冷たい布団の中。
ふと天井を見る。
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「無敵って何やねん。」
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初めて、
その言葉が俺自身の心を刺した。
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無敵?
笑わせるな。
現実を見ろ。
今のお前は、
ただの負け犬や。
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心の中で、
もう一人の俺が笑っていた。
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「無敵ちゃうやん。」
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……
……
返せなかった。
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その夜。
俺は初めて思った。
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「もうやめようかな。」
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夢を。
努力を。
無敵を。
人生を。
全部。
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その方が楽だった。
誰にも期待されない。
取り繕う必要もなくなる。
誰にも笑われない。
バカにされるのも疲れた。
誰にも否定されない。
否定されたらもちろん傷つくからだ。
ただ、
静かに生きるだけ。
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その時だった。
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ふと、
子供の頃の記憶が蘇る。
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小さな俺が、
段ボールで作った剣を振り回していた。
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「俺、最強になる!」
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父も母も笑っていた。
友達も笑っていた。
俺も全力で心の底から笑っていた。
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何も持ってなかった。
でも、
あの頃だけは、
何でもなれると信じていた。
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布団の中で、
俺は泣いた。
何年ぶりだろう。
声も出さず、
ただ静かに熱い涙だけが流れた。
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「どこで……。」
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「どこで俺は死んだ。」
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部屋は静かだった。
時計の針だけが進む。
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午前0時過ぎ
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俺は起き上がる。
鏡の前へ行く。
目は真っ赤だった。
顔はぐちゃぐちゃだった。
世界一情けない男の更に情けない顔だった。
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俺は鏡の中の男を見つめる。
長い沈黙。
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そして、
人生で一番小さな震える声で言った。
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「……た、助けてくれ。」
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当然、
誰も助けに来ない。
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鏡の中の男だけが、
黙って俺を見ていた。
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その瞬間だった。
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俺は気付いた。
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助けに来る奴なんか、
最初からおらん。
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それなら。
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俺が俺を助けるしかない。
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腕で涙を拭く。
落ち着くために大きく深呼吸する。
そして無意識に鏡を拳で叩こうとして、
直前で止めた。
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違う。
壊すのは鏡じゃない。
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壊すのは、
今までの俺や。
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鏡に映る男を睨みながら、
ゆっくり笑う。
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「……この世界は地獄か。」
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少し間を置いて、
歯を食いしばる。
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「なら、門ごと蹴破って帰ったる。」
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その日。
何も変わらなかった。
金もない。
仕事もない。
未来もない。
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でも、
地獄の門の前で、
笑った人間が一人だけいた。
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その男は、
まだ自分でも知らない。
この日が、
伝説の一日目になることを。
episode3.5.『動き出す者』へ続く…




