episode2.『仮面』
ある日俺は夢を見た。
いや。
悪夢だった。
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気付けば、小学校の教室にいた。
先生が笑っている。
友達が笑っている。
親も笑っている。
みんな笑っている。
知らない奴まで笑っている。
全員が俺を指差して笑っている。
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「お前には絶対無理。」
「また夢見てる。」
「現実見ろ。」
「お前が主人公になれるわけないやろ。」
「鏡見てこい。」
「笑わせんな。」
「バカじゃないのか?」
「情けなくないのか?」
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笑い声だけが大きくなる。
俺は耳を塞ぐ。
それでも声は止まらない。
だから俺は逃げた。
だが嫌がらせのごとく
声は俺のことを追い掛けてくる。
走る。
ひたすら走る。
ただただ、必死に
がむしゃらに走る。
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ドンッ。
行き着いた先は壁だった。
もう俺に逃げ道はない。
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追いついてきた全員が近付いてくる。
一歩。
また一歩。
そして、
誰かが俺の胸を指差して言った。
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「お前、空っぽやな。」
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……
……
……
目が覚めた。
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「はぁっ……!」
全身汗だく。
息が苦しい。
時計を見る。
午前3時半過ぎ。
外は真っ暗。
虫の音だけが響いている。
部屋も真っ暗。
心も真っ暗。
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「……夢か。」
ベッドから起き上がる。
冷蔵庫を開ける。
水を一気に飲む。
震えが止まらない。
嫌な汗が背中をつたい、
ベタベタしている。
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間違いなく夢なのに。
全部、
俺に投げつけるように言われた言葉だった。
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「空っぽ。」
その言葉だけが頭から離れない。
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鏡を見る。
そこには、
昨日と同じ男がいた。
もちろん強くもなく弱い。
ただただ情けない。
そして何者でもない。
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俺は鏡に向かって言う。
「俺は無敵。」
……
静かだった。
当たり前だが何も起きない。
当然だ。
魔法の呪文じゃない。
奇跡でもない。
ただ、
馬鹿が急に独り言を言ってるだけだ。
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でも、
もう一度鏡の自分に向けて言った。
「俺は無敵。」
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三回。
四回。
五回。
十回。
二十回。
五十回……
俺が自己暗示という名の『仮面』を
被った瞬間だ。
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その日からだった。
朝目が覚めたら必ず
最初に鏡に向かって言う。
「俺は無敵。」
だが現実の俺は
仕事もない。
金もない。
恋人もない。
未来もない。
夢もない。
でも、
この言葉だけは風邪をひこうが
どんな時でも毎日言った。
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一週間。
何も変わらない。
一か月。
何も変わらない。
半年。
何も変わらない。
一年。
まだ何も変わらない。
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周りはこう言って笑うだろう。
「また言ってる。」
「無敵らしいで。」
「ニートの現実逃避や。」
「ただの痛い奴。」
もちろん全部聞こえていた。
もちろん全部覚えていた。
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でも、
もう否定しなかった。
なぜなら、
一番分かっていた(笑っていた)のは、
昔の俺だったから。
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ある日、
日常の自己暗示をかけるために
鏡に向かったが
その鏡の前でふと思う。
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「……無敵って何や?」
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腕力か?
金か?
地位か?
名誉か?
勲章か?
権力か?
違う。
そんな物油断をしたらすぐ
簡単に全部奪われる。
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じゃあ、
奪われないものは何だ。
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鏡の中の俺が、
初めて笑った気がした。
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「知らん。」
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俺も笑った。
「そらそうや。」
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「知らんから探すんや。」
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その瞬間。
“無敵”は見栄ではなくなった。
答えのない問いになった。のだ。
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俺は決めた。
誰に笑われてもいい。
誰に否定されてもいい。
無敵が何か分かるまで、
人生全部使って探そう。
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その日、
世界は何も変わらなかった。
でも、
たった一人だけ、
昨日とは違う人間がいた。
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それは、
世界で一番弱い男だった。
episode3. 『地獄の門』に続く。




