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『俺には無理。』 ― 最後の砦 ―  作者: Alma.


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episode1. 「俺には無理。」

雨でもない。


もちろん土砂降りでもない。


そして晴れでもない。


空まで中途半端だった。


まるで、今の俺みたいに。



朝目が覚めても起きる理由がない。


働いていない。


恋人もいない。


趣味もない。


夢もない。


金もない。


予定もない。


スマホを開けば、必ず誰かが成功しているのが

いやでも目に入ってくる。


SNSにはリア充の集合写真。


友人がボーナスで買ったブランド物。


知り合いが納車された高級車。


友人同士の結婚。


友人の子供の誕生報告。


友人の会社での出世。


長年の夢を叶えました。


そんな投稿ばかり。


俺はそんなつまらない情報ばかりしか

出ないスマホの画面を閉じた。



「……クソが。」


その一言だけが部屋に響く。


無駄に広い一軒家の一室。


漫画やゴミで散らかった部屋。


夜食を買ったコンビニの袋。


タバコの吸い殻。


いつ買ったのかすら

覚えていない飲みかけのペットボトル。


鏡なんて風呂入ってる時も含めて

何週間も見ていない。


見たところで、変わるものなんてない。

もちろん変える気なんてものもない。



俺は天井を見つめる。


「無理。」


またその言葉が脳裏を過ぎる。


何回目だ。


百回か。


千回か。


もう数えてない。


数える気すら起きない。



小さい頃は違った。


消防士になりたかった。


レーサーにもなりたかった。


王子様にもなりたかった。


ヒーローにもなりたかった。


警察官にもなりたかった。


大人になるって、好きな時に何でもできるようになることだと思ってた。


でも違った。


周りの友人は落ち着き、定職に就き、

大学に行き、専門学校に行き、

そして恋人ができ、結婚をして、

子供ができ、マイホームを買い……


大人になるって、


何を諦めるかを覚えることだった。



「現実を見ろ。」


「夢なんか食えへん。」


「普通に生きろ。」


「こんなことは当たり前。」


その”普通”や“当たり前”で、


誰が幸せになった?


俺にはさっぱり分からなかった。



スマホが鳴る。


友達からのメッセージだった。


「今日遊びに行かへん?」


返信しない。


違う。


返信ができない。


遊ぶ金がない。


みっともない状態で会いたくない。


つまり


今の自分を見られたくなかった。



窓を開ける。


冷たい風が入ってくる。


街では人が歩いている。


会社へ向かう人。


学校へ向かう学生。


遊びに出かける家族。


友人と楽しそうに話す子供たち。


みんな、どこかへ向かっている。


俺だけが無駄に広い一軒家の1部屋に

止まっていた。



「俺の人生、終わったな。」


その言葉を口にした瞬間だった。


窓ガラスに映った自分と目が合う。


ボサボサの髪。


死んだ魚みたいな目。


覇気のない顔。


痩せこけた頬


生きているのに、生きていない。



数秒。


自分を見つめた。


そして。


なぜか笑った。


理由もなく笑った。


「……情けな。」


その笑いは、


自分をバカにする笑いだった。


つまり嘲笑というやつだ。


でも、その奥底で。


今まで一度も聞いたことのない声がした。



「このままで終わるんか?」



俺は黙った。


部屋も黙った。


雨も止んだ。


世界が静かになる。



無意識に鏡の前まで歩く。


震える手で、


数ヶ月ぶりに鏡の前に行き

ホコリが少し被った鏡の中の

モノをまっすぐ見る。


そこには、


世界一弱い男が立っていた。



俺は鏡の中のそいつに言ってやった。


「今日からお前は無敵や。」


沈黙。


数秒後。


自分で吹き出した。


「ははっ……。」


「無敵?」


「何言うてんねん。」


「アホちゃうか。」


誰よりも自分が信じていなかった。


バカバカしい、それだけだった。


それでも。


その日。


世界一弱い男は、


世界一大きな嘘を自分についた。



その嘘が、世界を変えることになるとは。


まだ、誰も知らなかった。

episode2.「仮面」に続く。

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