episode9.『無敵』
人は変われる。
その言葉を少しづつ信じ始めていた。
でも、
一つだけ俺は信じられないものがあった。
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何を隠そう
自分だった。
そう、自分自身だった。
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「お前は変わった。」
「すごいな。」
「尊敬する。」
「昔と別人や。」
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そう言われる度に、
心のどこかで嘲笑ていた。
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違う。
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お前らが見てるのは、
今の俺だけや。
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昔の俺を見たら、
絶対そんなこと言わへん。
そんなこと口が裂けても言えるはずがない。
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家に帰る。
鏡の前に立つ。
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毎日続けた習慣。
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「俺は無敵。」
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かれこれ数年。
毎日言ってきた。
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でも、
今日は違った。
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鏡の中の男が、
初めて問い返してきた気がした。
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「ほんまに?」
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……
……
……
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俺は黙る。
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ほんまに無敵か。
その時俺は鏡の前で考えた。
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傷付く。
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落ち込む。
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悔しい。
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怒る。
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悲しい。
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全部ある。
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全然無敵ちゃうやん。
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鏡の前で笑って答える。
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「やっぱ見栄か。」
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その時だった。
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スマホが鳴る。
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知らない番号。
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だが、何故かこの時は
応答してしまった。
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「もしもし。」
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「あの……。」
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聞き覚えのある声だった。
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あの時辞めた新人だった。
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「覚えてますか。」
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「当たり前や。」
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向こうは泣いていた。
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「俺…」
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「もう一回挑戦したいです。」
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……
……
……
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俺は何も言えなかった。
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「『 』さんが言ってた。」
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「立ち上がる理由。」
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「あれ。」
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「ずっと頭から離れなくて。」
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「逃げても。」
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「何してても。」
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「ずっと残ってたんです。」
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「だから。」
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「もう一回走ります。」
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そう言い残して
電話が切れる。
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とても静かだった。
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俺は、
しばらく動けなかった。
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そしておもむろに窓を開ける。
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心地の良い風が吹く。
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空を見る。
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何も変わらない。
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世界はいつも通りだった。
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でも、
俺の中で何かが変わった。
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あいつは、
俺が引っ張ったんじゃない。
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俺が背負ったんでもない。
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俺は、
ただ、
立ち上がる理由を置いてきただけだった。
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そして、
立ち上がったのは、
あいつ自身だ。
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その瞬間だった。
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そして、
答えが出なかった問いに、
初めて答えが見えた。
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「無敵って……。」
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拳を握る。
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違う。
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腕力じゃない。
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地位じゃない。
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金じゃない。
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誰より強いことでもない。
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何度倒れても。
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何度笑われても。
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何度否定されても。
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また立ち上がれること。
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それが。
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『無敵』
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涙が出た。
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嬉しかった。
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やっと答えを見つけた。
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何年も探した。
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人生全部使って探した。
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『無敵』の意味を。
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鏡の前へ行く。
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昔と同じ場所。
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昔と同じ男。
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でも、
目だけは違った。
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俺は笑う。
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そして、
数年ぶりに、
言葉の意味を理解して言った。
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「俺は『無敵』や。」
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今度は、
見栄じゃない。
仮面でもない。
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覚悟だった。
誓いだった。
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その日。
主人公は、
最強にはなっていない。
神にもなっていない。
世界も救っていない。
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でも、
初めて。
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自分にだけは、嘘をつかなくなった。
なぜなら自分に吐いた嘘を『現実』にして、大切なものを手に入れたから……
episode10.『神』に続く……




