025話 地下牢脱出!
「やだぁぁぁ! お願い、出してっ!」
「ちょっと出しなさいってば! 王女にこんな事してただじゃ済まないわよ!」
「黙れハーフエルフが! 奥様が遺された部屋を侮辱するとは……っ!」
髭のお爺さんが顔を真赤にして、鉄格子の向こうから私たちを怒鳴りつける。
ここは砦の地下牢、そのひとつに私とレティシアが放り込まれていた。
「良いか、伯爵様が戻るまで絶対にここから出すんじゃないぞ!」
「し、しかし……極めて丁重に、とのお言葉でしたが……」
「私の主であったご夫妻は既に亡くなられている。私が全ての責任を取れば問題なかろう! ハーフエルフや薄気味の悪い小娘に長年仕えた主を侮辱されて、黙っていたとあっては失われた家名にも傷がつく!」
吐き捨てるように言い残して、お爺さんが通路の先に立ち去ってしまう。
伯爵が言っていた、この砦を管理していた没落した家。
それがこの管理人の主人で、その奥さんだった人の部屋が私たちを軟禁していた部屋だった。
伯爵と没落した家に関係があったから協力してるらしいけど、お爺さんにはそれよりも大切な物があるみたいで――。
私とレティシアはそれを散々にけなして、もっと良い部屋に変えて! と言ったらこうなっちゃった。
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁっっ‼」
「ちょっとそこのあんた! 覚えてなさいよ! 伯爵が帰ってきたら、あんたにいやらしいことされたって言い付けてやるんだからっ!」
「じょ、冗談じゃない⁉ 俺は何も見なかったからな!」
石造りの地下室に反響する私たちの声から守るように両耳を塞ぎ、兵士の人がお爺さんの後を追うように逃げていく。
しばらくの間、地下室に私たちの泣き声だけが響く時間が過ぎる。
「……もう、大丈夫かな?」
「向こうで扉が閉まる音もしたしね。しっかしあんた嘘泣きが上手いわね、本当に泣いてるじゃない」
「嘘じゃないもん……」
お父様と離れて悲しいのは本当だし。
ここにさらわれた時に着ていた自分の服の袖で涙をぬぐいながら、牢屋の鉄格子を見る。
古いし、手入れもされてないこの錠前は……南京錠って言ったっけ?
私の手と同じくらいの大きさのそれを鉄格子ごしに手に取り、鍵穴を確認する。
「どうにか出来そう?」
「分かんない、一応タロに教えてもらった形に見えるけど……」
一緒に遊んでる時間が多いタロは、実は色んな事を知ってる。
足音を殺して歩く方法とか、足跡の消し方とか隠れ方も。
友達との鬼ごっこや隠れんぼで勝ちたくて、そういう物を教わったけど、それだけじゃない。
時々鍵が掛けられた倉庫にタロが隠れていたりもしたから、それもお願いして聞いてたんだ。
雨で外に出れない日は、パズルの代わりにタロがくれた鍵を開けたりもする。
でも本物の牢屋の鍵なんて試した事も、見たこともない。
最近はポニーテールを結んでいる事が多いからって、お父様がくれた髪留めを外して分解する。
お気に入りだし、大切な物だけど……。
「良いの? それ」
「お父様は危ない時は、使える物は何でも使いなさいって言ってるの。でも、帰ったらちゃんと謝らないと」
「その時は一緒に言ってあげるわよ、代わりをよこしなさい! ってね」
針金を曲げて、使いやすい形にして鍵穴に差し込む。
中にあるピンを押し込んで、シリンダーを回すって構造は同じはずだよね。
錠前の中を針金が擦る音だけがする牢屋、集中した方が良いんだろうけど、出来るかどうか分からない不安に手を動かしながら口を開く。
「そういえば、私が開けられなかったらどうするつもりだったの?」
「決まってるじゃない? 美女が捕まった時の脱出方法なんて色仕掛けよ!」
頭と腰に手を当てて、腰をひねるレティシアを見る。
かぶった布団の中で、お互いに何が出来るかは教え合ってる、けど。
……色仕掛け?
「今バカにしたわね⁉」
「し、してないよ⁉ ちょっと無理かなって思っただけで……あっ」
色仕掛け、そんな言葉からヘンなことを連想したせいかお腹の中がちょっとモゾモゾした。
朝に起きた時から気怠かったり、ちょっと口に出しにくい場所に違和感があったせいもあるかも?
そういえばお腹の中に何かあるみたいな感覚も――。
そこに意識を向けた瞬間、下半身を中心にゾワッと体が震えて……ひねった手がそれまでと違う感触を伝えてきた。
固い音に視線を向けると、錠前のU字が跳ね上がって外れてる?
「で、出来たよレティシア⁉」
「意外な特技ね~それじゃ外に……って何してんの?」
「魔法が使えないんだよ? 武器がいると思うの」
スカートの中に手を入れて、靴下を吊り下げている留め具を外す。
服もそうだけど、膝の上までくる長い靴下は、私が森で走り回っても大丈夫な様に丈夫な生地でミアが作ってくれてる。
その靴下を脱いで、外した錠前を中に入れて……もう少しいるかな?
牢屋の中を見回すと、崩れたり割れたりした石やこぼれた土があった。
それも靴下の中に詰め込んで……一応もう片方の靴下と合わせて二重にして、端を結ぶ。
持ち上げると、靴下の先端からずっしりした手応えがある、これで良いかな?
「出来たよ、レティシアはそこの石を拾っておいて。私が前に出て良いよね?」
「良いけど……もうちょっとこう、格好良い武器とかが良いわよね。出口に剣とか置いてないかな」
「冒険記ってそういう感じなの?」
「石とか土で戦うのはあんまり無いわね……」
そんな事言われても、他に無いからしょうがないもん。
牢屋の扉を開ける時、金属がきしんで擦れる音に2人で慌てつつ外に出る。
石造りの廊下に出来るだけ足音が響かないように歩いて、地下牢の出口の扉に耳を付けるけど――。
「……よく分かんない、誰もいなさそう?」
「そりゃこの向こうはすぐ階段だったし、誰かいるならその上でしょ」
「そっか、そうだね」
緊張しすぎて、考えがそこまでいってなかった……。
地下牢を見張る人の待機場所みたいなのは地下室にあるけど、そこにいられると困るから追い出したもんね。
「扉は開くね、鍵はかけなかったみたい」
「舐められてるわね、油断しすぎじゃない」
少しだけ開いて外を見ると当然下りてきた時に見た階段、それを上がった先の出入り口に――。
「いるね、椅子を置いて座ってる」
「1人? しかも寝てない? あれ」
ずっと地下室を見張ってるだけなんて、暇だとは思う。
でも仕事はちゃんとした方が良いと思うなあ……。
椅子に座って組まれた足は階段を塞ぐ様にしてて、起こさずに通るのは難しそう。
振り返って地下室にある待機場所を見るけど、役に立ちそうな物は見当たらない。
ロープでもあれば違う方法もあったのに。
レティシアに離れるように言って、手に持った靴下を回転させる。
重い感触に振り回されそうになりながら、空を切る音とタイミングを確認。
扉を開けて、静かに階段を上っていく。
たとえ敵や悪い人でも、感情のままに暴力を振るっちゃダメ。
でも必要な時は――容赦するな。
お父様の言うことはすごく難しい。
椅子に座って腕を組み、うつ向いた人の前で靴下を3回転。
すくい上げる様に、その先の石壁まで振り抜くつもりで――!
「ごめんな――さいっ!」
声の直後に初めての手応えが伝わって来て、赤い飛沫が階段に飛び散った。
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