024話 わるいやつがあらわれた!
「お初にお目にかかりますレティシア王女。私の名はエティエンヌ・ド・ブロスと申します。ミノー王国にて、もったいなくも伯爵位を賜り――」
「それでそのナントカ伯爵が、なんで私たちを誘拐したのよ?」
「レティシア! 伯爵様だよ⁉」
「いや、あんたはまず王女様の私に気を使いなさいよ。大体こいつ悪い奴でしょ」
お風呂からあがった私たちは用意された服に着替えて、私たちを捕まえた悪い人達の中で偉い人に会わされていた。
服装は立派だけど、少しお腹の出た50代くらいのおじさんは伯爵様らしい。
でも悪い人ってこんなに堂々と名乗る物なのかな?
おじさんの着てる服に比べれば、内装が少し落ちる気がする部屋でソファを進められて2人で座る。
今は2人で暴れても、どうしようもなさそうだし。
「何やら誤解があるようですが、我が伯爵家は姫様方を攫った者達から、偶然救出したのですよ。レティシア様はその様子をご覧になったのでは?」
「あぁ……馬車の外でなんか戦ってたわね。それなら声をかけてくれても良さそうなんだけど」
私はその間、ずっと眠ってたから知らない。
あれは多分相手を眠らせる魔法だと思うけど、レティシアはそれに抵抗できたみたい。
連れ去られる私にしがみついてたのはうっすら覚えてるけど、眠ってる間ずっと守っててくれた――とは言わなかったけど、そうなんじゃないかな。
レティシアだけが抵抗できた理由は、お風呂に入る前に胸元から青い宝石のついたペンダントを見せて「これのおかげじゃない?」と言ってた。
精神系の魔法への抵抗と、私の持ってるスワローストーンみたいに幸運を呼ぶ効果があるんだそうだけど。
スワローストーンが効果を取り戻すのは、もう少しかかるからなあ……。
「失礼ながら急ぐ必要がありましたので。不埒者共の手勢が他にもいないとは限りません、すぐにこの砦にお連れせねばと考えたのです」
「ふ~ん、じゃすぐに王宮に連絡を取ってくれる? 夜中でも迎えくらいくるでしょ」
ブロス伯爵っていう人が、レティシアの言葉に困ったように首を振る。
「レティシア様が拉致されたなどと万が一にでも漏れては、陛下がどの様な反応をされるか……先程の様に我が伯爵家が、あらぬ疑いをかけられる恐れもあるのです。ここは慎重に行動したいのですよ」
「そう、じゃこっちのミュリエルだけでも帰してあげてくれない?」
「それも出来かねます。どこから情報が漏れるか分かりませんからな」
私はずっと眠ってたし、王様とレティシアの事情も知らない。
でも、私たちを自由にさせてくれないこの人は、やっぱり怪しいんじゃないかな?
「ともかく我々も予想外の事態の連続で、戸惑っておるのですよ。姫様とご友人には不自由かと思われますが、もうしばらくご滞在願いたいのです」
「はあ……分かったわよ。ところでここ何か変じゃない? 魔法が使えないんだけど?」
私とレティシアは2人とも魔法が使える。
でも目が覚めてから何度も試したけど、一度も魔法は発動しなかった。
広さは分からないけど、この砦の中では魔力が死んでいる様に感じる。
私の中から放出した魔力も、すぐに同じ状態になるせいでどうにもならない。
「どの国にも魔法が働かない場所というのは、必ずひとつは存在します。魔法を使う犯罪者や、危険な魔道具を保管する用途に使うのですが、ここはそういった場所のひとつなのですよ。管理していた家は没落しておりますがね」
「外には出してもらえない、連絡もとれない、魔法も使えないってわけ? 不便なんてもんじゃないわね」
「外は危険なのです、どうかご自重ください。これも予定外ではあるのですが、明日私が交渉に出る必要ができまして、その結果次第では良い返事も出来ようかと思います」
レティシアに対して、何度も頭を下げる伯爵。
ニコニコと笑いかけてるけど……この人、私は嫌いだな。
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「やれやれだわ、いつまでここに居なきゃいけないのよ」
伯爵との話の後、部屋に戻された私たちは寝間着に着替えて――いつもは下着姿で寝てるから初めて――さっきの愚痴をレティシアにこぼされてる。
「仕方ないよ、危ないらしいし大人しくしてよう?」
「……ま、そうね。仕方ない……か」
部屋を見回すと、女性が住んでたんだろうなって分かる内装や調度品の部屋に、ベッドがふたつ。
ひとつは部屋の趣味に合ってると思うけど、もうひとつは趣味も配置も、この部屋に合ってない様に見える。
「ねぇレティシア、一緒に寝ていい?」
「ふふんっ知らない部屋じゃ寝られないの? 特別に許可してあげるわ!」
目配せをして一緒にベッドに入って、2人で布団を頭からかぶる。
私の髪だけが光源の暗い中で顔を近づけて――。
「あいつニコニコしてたけど、ミュリエルに1回も笑いかけなかったわよ」
「うん、レティシアと話してる時も、どこか馬鹿にしてる気がしたよ?」
「名前は知らなかったけど、前にハーフエルフなんて事故で死ねば良いって言ってたのを聞いたのよ。私を助けるなんて絶対おかしいわ」
「たぶん私も嫌われてると思う、この髪のせいじゃないかな?」
外に聞こえない様に、小声で相談を始める。
魔法が使えない建物なら、こうしてればまずバレないと思う。
「あんた寝てたけど、私たちを攫った連中が殺される時に、約束がどうとか裏切ったとか言ってたわ。私たちの証言なんて、どうとでも出来るつもりなんでしょうね」
「レティシアは王女様なのに、私と部屋が同じなのは監視したいからだと思うの。やっぱりあの人は悪い人達の仲間だよね? 伯爵ならボス?」
「でしょうね……とにかくここから出ないと」
目が覚めた後に色々調べて、伯爵に会いに行く時に見た事を思い出す。
この部屋は警備の厳しい区画にあると思う、伯爵もいる場所だもんね。
だったら――。
「あの管理人が狙い目だと思うのよ」
「ここは奥様の部屋だったのにって言ってたよね。それに伯爵よりも、私たちを見る目が嫌そうだった」
レティシアとの脱出作戦会議。
伯爵は明日出かけるって言ってたし、きっと護衛がついて警備も薄くなる。
だから、動くなら明日!
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レティシアは書きやすい良い子




