053話 アトラスVS頭
「イーヴ! 生きてるな⁉」
「どう……にか!」
声と一緒に細身の人が手に持った剣を、鞘に入れたまま後ろに向けて大振りする。
折れた穂先だけが武器のタロが慌てて下がる、その後ろにはアトラスと――。
「ミア!」
「もうちょっと待っててね、すぐに救けてあげるから」
アトラスの上で飛ぶミアが怒った顔で、私を抱えるおじさんを睨みつける。
足音を響かせながら近づいてくるアトラス、ミアが命令を出してくれたんだ。
「その良い役代わってくれますか……ね!」
「仕方ねぇな、先に行ってろ」
私を抱えたまま、細身の人が投げた剣の柄を取って鞘を振り払うおじさん。
下ろされてイーヴと呼ばれた細身の人に捕まった私を背に、おじさんがアトラスと向かい合う。
暴れてみたけれど、手を抑えられて魔法が使えない私は見た目通りの力しかない。
怪我をした人も振りほどけ無いなんて!
「やっちゃえアトラス!」
「やっちまうぞアトラス!」
ミアに言い返したおじさんが、大剣を両手で振るってアトラスと戦い始めた。
頑丈な正門を壊した大きな破城槌っていう道具も、アトラスの拳には耐えられずに破壊される。
そんな人間が殴られたらただじゃ済まないアトラスの拳を楽しそうに避けるほど、おじさんは信じられないくらいの余裕がある。
私と一緒に何十人もの人と戦っても、ほとんど傷を負わなかったアトラスの石の体に鉄の剣を叩きつけ、固い音を何度も何度も響かせる。
「鎧もスワローストーンも無しか、丁度良いハンデだな」
鳥の文様が描いてあった貝殻と違って、あの剣には魔力を感じない。
着ている服なんて汚れている上に傷んでボロボロになってる。
偉い人や強い人には見えない、なのに……。
アトラスの拳は何度も大きな剣で受けられ、返されたおじさんの剣はアトラスの同じ場所に叩きつけられて、少しずつ溝を大きくしていく。
そして、固い何かが割れる大きな音がした瞬間――。
「ええ⁉ ウソッ!」
「アトラス立つッスよ⁉」
「無理を言ってやるなよ」
アトラスの片足が切断されて、その大きな体が重い音を立てて倒れ込んだ。
核が無事なら後で体は治せるけど、片足を失ったアトラスは立ち上がる事もできない。
それでも前へ進んで戦おうとするアトラスを無視して、おじさんは大剣の鞘を拾って悠々と私達の方に歩いてくる。
槍の穂先を持って距離を詰めようとタロが近づいて来るけど、アトラスを1対1で倒すおじさんにそんな武器じゃ……!
「無茶しないでタロ! 大丈夫だから!」
「姫様の言う通りだ、ロクな武器もゴーレムも無しで俺とやり合うか? オススメしないがな」
「しかし……大丈夫とは? この先で待っている20人を1人でどうにか……できるとでも?」
私を捕まえているイーヴが苦しそうな声で言う。
大きな声は出せたけど、私も今返事をするのはちょっと大変だ。
だってものすごく疲れているから。
「おい姫様大丈夫か? なんか妙に……髪の色も濃くなってるが」
「大丈夫だよ。だって……お父様が来たもの」
「そうだね~アトラスは時間稼ぎって役目を果たしたよ」
坂の上側にいるタロから離れて、空の高い位置から声をかけるミアを皆が視線で追う。
おじさんや私とイーヴの頭も越えて坂の下側、そこから少しズレた位置へ向かう。
村の正面には切り立った台地に付けられた、ジグザグの坂道がある。
その途中には悪いおじさん達の仲間が20人もいる。
でもミアが移動した坂道の端には、大量の土と魔力で造られた新しい坂道があった。
その坂を大きな馬に乗って、駆けてくる人がいる。
「お父様……!」
「さ~本命登場だ! やっちゃえユーマ!」
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明日の投稿は昼12時過ぎ予定です
明日で決着!(予定)
 




