052話 拉致
「そちらの頭目を引き渡しなさい! そうすれば追撃はしないと約束しましょう、さらに生きたまま連れてきた者には金貨を与えます!」
丸い金属の板を布を巻いた棍棒で3回叩いて大音響を奏で、悪い人達の注目を集めたテオドールさんが叫ぶ。
嵐の魔法で吹き飛ばされて戦う気の無くなった人達が、次々に台地の上から姿を消していって、私の後ろにいる村の人達が歓声をあげてる。
終わった……村は助かったんだ。
「ミュリエルもう十分です、下がりなさい! ジロー殿この場は任せます、私は裏門の収拾へ向かいますので」
「分かった、敵の頭目が連れてこられたら確保しておく」
ジローが大騒ぎの村の人達に声をかけて、仕事を割り振ってる。
やっぱりちゃんとしたリーダーは違うんだなって思う。
私が戦えば皆ついてきてくれたけど、皆バラバラに戦うだけだったし。
嵐の魔法に巻き込まないようにジローにも後ろにいてもらったけど、声をかけられるだけで安心できた。
大きく息をついて、隣のアトラスにもたれかかる。
石でできた重いアトラスだけは、私と一緒に戦えたんだよね。
明日にでも体を洗って、磨いてあげないと……。
「ミュリエル大丈夫ッスか? 何だか凄く疲れてるみたいッス」
「うん……ちょっと疲れたかな……でも大丈夫だよ、ありがとうタロ」
特に体重の軽いタロだけど、気がつくと私の側にいたりして何度も戻るように言わなきゃいけなかった。
「アトラスはちょっと遅いから、近づかれたら危ないッス!」って言ったすぐ後に、近づいてきた人から私を守ろうとして体が浮いた時には必死で押さえつけたし。
体の成長の割に長さが変わってないのがちょっと不思議な髪をいじりながら、座り込む。
いつも水色に見える髪は濃い青色に見えて、光が薄い気がする。
お父様との日課でゴーレムを作った時もこうなるけど、体が大きくなった分だけ魔力の量も増えてたはずなのになあ……。
それに魔力だけじゃなくて、体力や他の物も使い切った感じで、張っていた気が抜けると急に体が重く感じちゃう。
「ミュリエルダメっすよ、こんな所で寝たら危ないッス! ジロー!」
「少し待ってくれ! 裏側の敵はこちらの状況が伝わってないんだ、まだ戦闘が続くかもしれない! それに負傷者の治療にも人手を向こうに回さないと――防壁の中に警備を置くから2人とも中に戻るんだ」
「はぁ~い……よっ……と」
立ち上がるのにおじさんみたいに声が出た、思ったよりも疲れてるのかな。
でも悪い人達がたくさんで来たら、村の人達じゃ危ないかもしれない。
今は私が一番強い、だから頑張るんだ。
村の中に戻るジローや村の人達を見送って、この場に残る。
大丈夫、何十人来たって私は負けない。
さっきまで沢山の悪い人達をやっつけてたんだから。
気合を入れてお尻についた砂を払ってると、台地を登ってくるいくつかの声が聞こえた。
「見ろ! 頭は馬に乗って逃げたぞ!」
「ハッハァ! 追え追え! 絶対逃がすなよぉ!」
走っていって坂道を覗き込むと、登ってくる人達の服装は汚れていて鎧も身につけてない。
一番大きな人が大きな剣を背負ってる以外には、武器も持ってなさそう。
格好とか叫んでる言葉からすると、村を襲っていた難民だった人達……かな?
でも親分は向こうにいるって言ってるし、何をしに来たんだろ。
駆け寄ってきたタロに腕を引かれて下がると、その人達は坂道を登りきって上がってきた。
「そこで止まるッス! 何者ッスか⁉」
「おぉっとぉ? 勇敢なコボルトの騎士様だな。俺たちゃ降伏しに来たんだよ」
「頭は捕まえてませんが、手土産はあります。この少年は村の人間でしょう?」
「パトリス⁉」
細身の人が抱えていたのは見覚えのある友達の姿。
グッタリしてるけど、男の人に担がれてもぞもぞ動いてる。
無事だったんだ!
「パトリスどうしたの⁉ 何をしたの!」
「性格の悪い副官が何か魔道具を使ったらしくてな、悪いが俺達下っ端にはよく分からねぇんだ。とにかく暴れるんで困って縛ってんだけどよ」
「頭も無鉄砲な上に雑に物事を決めて部下に放り投げる考え無しなんで、魔法を使えない俺達にはどれが魔道具かすら……」
「見せて! パトリス大丈夫⁉」
「待つッスミュリエル! ジローを――!」
「こんなに居ちゃそりゃあ不安だよな、悪かった! おい、お前らは下がってろ」
20人くらいいた男の人達が、前にいた2人を残してゾロゾロと坂道を降りていく。
一番大きい人が背負ってた剣を地面に下ろして、両手を広げて笑いかける。
2人だけで村を襲ったりは絶対出来ないしタロもアトラスもいるし、もう良いよね?
急いで駆け寄って男の人の肩から下ろされたパトリスの体を確かめる。
縛られて布を口に入れられたパトリスが、叫びながら暴れるのを私じゃ抑えられない……。
「嬢ちゃん口に詰めてる布は取っちゃダメだ、噛みつかれるぞ?」
「タロ手伝って! パトリスを助けないと!」
「うぅ……お前達もうちょっと下がるッス!」
「はいはい」
抑えるのを横からタロが手伝ってくれて……あった!
パトリスの首にかけられて、服の中にしまわれてたのは小さな貝殻。
鳥の文様が描かれてるけど……強い魔力がある他は、よく分からない。
「魔道具……これ? 凄く大きな魔力を感じるけど?」
「おぉそれだ、見た事あるぞ! 嬢ちゃんは触らない方が良いな、暴れだすかも……」
「それはダメだね……タロもだよ?」
「でもコレ外さないとパトリスが助けられないッスよ?」
「ならこうすりゃ良い」
剣を足元に置いたまま、大柄な人が近づいてくる。
タロが警戒して短い槍を向けると、ニヤッと笑ってその切っ先ギリギリに自分の首を差し出た。
「さすがにこれで悪さは出来ないだろ?」
「何かしたらすぐ刺すッスよ」
私の横にしゃがみ込んで、パトリスの服から貝殻を取り出すと――。
そのままパトリスの首から簡単に貝殻を外して……自分の首に⁉
「お、おじさん大丈夫なの⁉」
「これは頭が昔苦労して手に入れた魔道具でな、条件を満たせば誰にでも効果があるんだ。で、その効果なんだが――」
おじさんが私に手を伸ばして、グッと抱き寄せる。
いきなりの事に私は何も出来なくて、おじさんの胸に倒れ込んだけどタロは違った。
言ってた通りに突き込まれた槍――その穂先が唐突に折れて、タロに突き刺さる。
驚いた表情のまま倒れ込むタロが遠のいていく。
呆然とする私を、おじさんが抱き上げたからだ。
「普段は強い幸運を、そして命の危機にはその回避を。それが敵の攻撃だったなら相手に返る、そんな伝説級の魔道具だ。一回使うと長期間効果を失うけどな」
「タロ⁉」
肩と膝の裏に腕を回されて抱き上げられてる。
それだけならともかく、両手をまとめて握られてると魔法が使えない!
おじさんは私を抱えたまま、細身の男の人に目配せして剣を拾わせて坂道へ向かう。
その背後に倒れたタロがどうなってるのかも見えない!
アトラス……は動きを止めてる、私が攻撃されてないからこの人達を敵だと思ってない⁉
「待って! タロの治療だけさせて!」
「悪いが俺達は魔法が使えないしポーションも持ってないんですよ、時間もかけられませんしね」
「ア、アトラス! タロを助けて!」
「お優しいですな、運が良ければ助かりますよ姫様。さあこの王子と共に参りましょう! ハッハァ!」
細身の人を後ろに従えて、坂の途中で待ってる人達の元へ向かおうとするおじさん。
魔法が使えない私の力じゃ暴れてもまるで意味が無いくらい、しっかりと抱えられてこのままじゃ――!
そう焦る私と笑うおじさんのその後ろから、急に凄く聞き覚えのある声がした。
「さすがにそれは許さないね、妖精さんもコボルトさんもだよ」
「な……に……?」
驚いて振り返るおじさんと私が見たのは、折れた穂先を握り締めて細身の人に突き入れるタロの姿だった。
ブクマ、評価、感想、誤字訂正等いつもありがとうございます!
明日の投稿は昼12時過ぎ予定です
ちょっと致命的なミスに気がついて一度削除、再投稿しました
ひょっとしたらまだ齟齬が残ってて修正するかもしれません




