第二十五章 山本の電報
第二十五章 山本の電報
一九四一年十一月二十五日、広島湾、柱島錨地。
長門の無線電信室は、午後三時頃にその電報を発信した。
その電報の本文には暗号が含まれていた。発信員はいつも通り、その符号を一字一句正確に送信した。彼はもちろん、その文字列の意味を知らない。ただ上官から渡された紙をそのまま打電するだけである。軍艦において、無線電信員が発する電報は、彼の知る以上のものを含んでいる。
その電報は数時間後、単冠湾の南雲忠一のもとに届いた。
電報を読んだのは南雲であり、彼の傍らには艦隊参謀が立っていた。二人はその文面を解読し終えると、互いに一瞥を交わし、言葉はなかった。
その電報には、山本五十六から最終的な出撃命令が記されていた。
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その命令の文言は、今日でも日本防衛研究所などの関連資料で確認できる。
書式は標準的な軍事命令の形式である。発信時刻、受信部隊、命令内容。命令の核心はこうだ――第一機動部隊は十一月二十六日未明、単冠湾を出航し、北太平洋航路を経て布哇方面へ進出、ハワイ作戦計画を実施せよ。
命令の付記には、こうある。「部隊出発後、外交交渉において画期的進展があった場合は、別途停止命令を発する。停止命令がなければ、計画通り行動せよ。」
その「別途停止命令」が発せられることは、ついになかった。
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山本五十六は、その命令を発した当日、手帳に数行の言葉を書き留めていた。その手帳は後に戦争の中、彼がブーゲンビル島上空で米軍機の待ち伏せに遭い戦死した際、共に失われている。彼が何を書いたかは、当時側近に語った言葉から推測されている。
彼はこう言ったことがある。「私にできることは、すべてやった。」
また、こうも言った。「この戦の緒戦は、自信がある。だが、その後は保証できない。」
参謀長草鹿龍之介には、十一月末のある夜、二人で長門の甲板に立ち、広島湾の冷たい夜風の中で、こう語ったという。「もしこれが成功すれば、我々は六ヶ月の猶予を得る。その後は外交の問題だ。六ヶ月の間に何もまとまらなければ、その先は私には分からない。」
草鹿が問う。「その交渉の猶予期間を信じているのか。」
山本は少し考え、「信じているわけでも、信じないわけでもない。ただ、信じる権利もない。だから私はこの一戦を全力で戦い、その猶予を外交官に渡す。私の仕事は真珠湾で終わる。外交は、その時点で私の問題ではない」と答えた。
それは英雄主義でも絶望でもなく、極めて明晰な分業意識に近いものだった――自らの任務は、打撃を最大限に与えること。その後は他の者に委ねる、というだけのことだった。
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単冠湾では、その電報がもたらしたのは、特別な静けさだった。
艦内が静まり返ったわけではない。エンジンの音、甲板の機械音、水兵たちの足音――それらは変わらず響いている。だが、別種の静けさがあった。事態がついに明らかになり、もはや待機ではなく、行動前の最後の静止が訪れたのだ。
源田実は第一機動部隊参謀会議で、出航の具体的な手順――出港順、間隔、無線封止の継続方法――を一通り確認した。彼の口調は終始落ち着いており、特別な感情は見せなかった。彼は工学的な推演を行う際、感情を完全に括弧の外に置く人物である。
渕田美津雄は自室で、真珠湾の地図を最後にもう一度見直した。繰り返し見る必要はなかった。すでに頭に入っている。ただ、それは一つの儀式であり、目に焼き付けるための最終確認だった。
彼は地図を丁寧に折りたたみ、ハードカバーのファイルに収め、鍵をかけて部屋の隅のロッカーにしまった。
そして寝台に戻り、明日の出発に思いを巡らせた。
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十一月二十五日のこの命令は、後に有名となる「新高山登れ一二〇八」ではない。
あの暗号が発せられるのは十二月二日である。十一月二十五日の電報の意義は、第一機動部隊を単冠湾から出航させ、北太平洋航路に進ませることにあった。もし外交交渉が急展開すれば、連合艦隊から停止命令が出されることになっていた。
つまり、十一月二十五日に始まったのは出航であり、最終的な攻撃日が公に確定したわけではない。十二月八日(日本時間)を開戦日とする密命が下るのは、さらに数日後のことである。
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十一月二十五日の夜、単冠湾にはいつもより濃い霧が立ち込めていた。
赤城の甲板から湾口を望むと、向こうの丘はほとんど見えず、闇の中にさらに黒い輪郭が浮かぶだけだった。気温はすでに零度近く、甲板の金属は素手で触れると冷たく、手袋なしではわずかな痛みを感じるほどだった。
水兵たちの一部は甲板に、一部は舱室に、また一部はそれぞれの持ち場で当直に就いていた。明日が出発日であることを知る者はいない。命令は正式発表前は機密であり、ごく一部の参謀しか知らなかった。水兵たちは、すでにこの錨地に二週間近く滞在し、艦の補給も弾薬も燃料も満載であることから、何かが近いことを感じていた。
その夜遅く、何人かの水兵は、用意して出せずにいた手紙をもう一度読み返した。
読み終えると、丁寧に折りたたみ、元の場所に戻した。
その手紙が投函されるのか否か――彼らにはまだ分からなかった。それは、これからの成り行き次第だった。




