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19 最終話

「どうしてアウリス様の方が重症なんですか?」


 一見普段通りに過ごしているアウリス様だが身動きするたびに顔を顰めるあたり痛いのだろう。

 いつも無表情なアウリス様が痛みを感じぐるらい重症で私は三日後ぐらいには動けるようになっていた。

 お互い仕事には復帰しておらず療養中だ。

 当日だけ病室にいたがその後なぜかアウリス様のお屋敷に担ぎ込まれて私は療養生活をしている。

 寝ている私の元へアウリス様のお母様が息子以上に気にかけてくださり、やれ果物は食べないかとか何が食べたいかとか数時間おきにやってきていたので正直、療養している気がしない。

 病室か、寮で寝ていた方が休まりそうだ。

 やっとこさ、動けるようになったところでマリア姫様が面会に来てくれることになった。


 アウリス様のお屋敷に。


 なんだか不思議な気分で久しぶりにお会いしたアウリス様はいつもと変わらないがなぜか私は隣に座っている。

 ニコニコしながらアウリス様のお母様は私たちを見ているし、マリア姫とソフィーはニヤニヤしながら私たちを見ている。

 マリア姫の護衛ということでフランシス様と数人の魔法騎士の方々も同席している。


「ミユールの傷を移した体。完全には移らなかったようだが……」


 残念そうにいうアウリス様に私は首を振る。


「死にそうなところを助けてもらって十分感謝していますよ。でも、どうして私はあんな目にあったんですか?記憶が確かならフェルナンに刺されたんですか?」


 どうも記憶が曖昧でうっすらとしか思い出せない。

 気づけば床に倒れていてお腹から血が出ていたのだ。

 マリア姫は美しい顔を歪める。


「そうよ。取り調べ終わったんでしょう?フェルナンはなんでミユールのことを刺したの?」


 フランシス様は頷いた。


「うーん。女好きのフェルナンは沢山の女性に声をかけていたけれど、それが最近は上手くいっていなかったそうなんですよ」


「当たり前よ。倉庫とか空き部屋に女を連れ込んでるなんて噂が流れていたし、強引だったそうよ。それに何年も下級騎士だしパッとしない男を誰が相手にするのよ」


 イライラしながらソフィーがいうとフランシス様は困った様子で話を続ける。


「俺も理解に苦しむんですが、なぜかフェルナンはマーガレットとはずっと繋がっていたそうなんですよ。で、そのマーガレットからミユールを傷つけないと別れるとか言われたそうです」


「くだらない!そんなことでミユールは死にそうになったっていうの?」


 マリア姫がドンと机を叩いた。

 姫様らしくなく豪勢な態度に、フランシス様はたじろぎながら頷く。


「本人がそう言っていますので……。マーガレットも話を聞いてみると、どうやらミユール嬢がいなくなればアウリスが自分に振り向くと思ったようです」


「アウリス!まさかそのマーガレットとかいう女に手を出していないわよね」


 伯爵夫人にギロリと睨まれてアウリス様は冷めた視線を向けた。


「出すわけがないだろう。俺の周りをうろうろしてきていたあの女か……」


 ソフィーはハッとして手を叩いた。


「マーガレットは相手がいる男を狙うのが趣味だからアウリス様の周りをうろうろしていたんだわ。最近、アウリス様とミユールの噂で持ちきりだったもの」


「確かにそうだな。急にアウリスとミュール嬢が仲良くなったから付き合っているのか別れるのかと城では噂になっていたから気に食わなかったのかもしれないな」


 フランシス様の呟きに私は戸惑う。


「えっ?私が噂になっていたんですか?」


 戸惑う私にマリア姫が鼻で笑った。


「ふふん、そうよ。アウリスがミユールに愛していると告白したから私の勝ちね」


「あーずるいですよ。2人が付き合うに賭けたので私も勝ちですね」


 マリア姫とソフィーがお互い言い合っているなかにフランシス様も口を挟む。


「待った待った、その賭けは誰も“付き合わない“に賭けなかったから無くなったんですよね」


「違うわよ、どうやって付き合うかに変更されたのよ。あの大変な中だったけれど、アウリスから愛を誓ったわよ」


 偉そうにいうマリア姫に私の顔が赤くなる。


「待ってください。一体どういう賭けが行われていて、私あの時おかしくなっていたんですって」


 恥ずかしさで消えてしまいたくなりそうになるが、アウリス様はいつもと変わりなく無表情だ。

 アウリス様の代わりに伯爵夫人が高笑いをする。


「ほほっ、付き合うと言うのならその賭けは成立しませんわよ。もう2人は婚約者同士なのですからね」


「えぇぇぇ?」


 私が驚き声を上げるのを見てマリア姫が不審そうに伯爵夫人に聞いた。


「本人知らないようだけれど?」


「怪我をして療養中でしたからね。ちゃんとご実家に確認をとって書類もございますわよ。ねぇ、アウリス」


 話をふられてアウリス様は頷く。

 それを見て私はますますパニックになる。


「わ、私が寝ている間にそんなことになっていたなんて!うちは貧乏な家なんですよ。男爵家と言っても田舎で本当に貧乏なんです。こんな、こんな立派なお家の方と婚約だなんて何かの間違いですよ」


 思わず立ち上がっている私にアウリス様は視線を向ける。


「興奮して立ち上がっても、痛みがないほど回復してよかった」

「そうですけれど、今はそう言う話じゃなくて……」

「ミユールは俺と婚約をするのは嫌なのか?俺はミユールと人生を共にしたい」


 無表情だがアウリス様は私が答えるのを待っている。

 

 マリア姫もソフィーもフランシス様も、アウリス様のお母様もじっと私を見つめている。

 こんな中で私が言えるはずもなくあわあわと口を閉じたり開いたりしてしまう。

 死んでしまうと思った時にアウリス様に伝えた思いは本当だったのに、また後悔したいのか。

 アウリス様は私を本当に命懸けで助けてくれた。

 いつ死ぬかわからないのだ、私は決心てアウリス様を見つめた。


「私だって、アウリス様とその、これからの人生を過ごせたら嬉しいです……よ」


 恥ずかしくて声が小さくなっていく私にアウリス様は無表情に頷いた。


「それならばよかった。俺は、ミユールを愛している。ミユールは?」


「はっ?ど、どうしてこんな皆んなの前でそんなことを言わないといけないんですかっ」


 恥ずかしくてドキドキしつつもうアウリス様にはっきりと言われて嬉しくて飛び上がりそうだ。

 アウリス様は冷めた顔をしつつ、うっすらと微笑んだ。


「ミユールが言葉にしなくても、だいたい何を思っているかわかるから大丈夫だ」


「へっ、まさか。まだ私の感情が共有されているんですか」


 驚きながら右手首を見るとまだアザのような紋章が浮かび上がっていた。

 私の感情がアウリス様にはお見通しなのだ。

 観念して私は顔を赤くしながら頷く。


「そうですよ。私はアウリス様が大好きです」


 恥ずかしくて隠れたくなるが、私の告白を聞いてアウリス様はゆっくりと微笑んだ。

 その微笑みは私が見たかった微笑みで。

 それはとても美しく、私は目が離せなくなる。


「アウリスが、微笑んでいる……」


「すごい破壊力ね、みんなに早く伝えたいわ」


 驚いているフランシス様と、噂を早く流したいマリア姫の声が聞こえるがそれどころではない。

 あのアウリス様が微笑んでいるのだ。


 呆然としている私の耳に、今度はアウリス様のお母様の高笑いが響いた。


「おほほほっ。これはめでたいわね!無感情だと思っていた息子が、女性を愛してくれるなんて!それも、告白までできるなんてお母様嬉しいわ!」


「賭けはどうなるんですか?」

「いやそれよりアウリスが微笑んでいるんだよ。こりぁ、明日は嵐だね」

「アウリスが愛の告白をしたって早く城に帰って言いふらしたいわ」

「おほほっ、ミユールちゃん。もう私のことはお母様と呼んでちょうだいね。もう我が家の一員なんですから」


 みんなんが一斉に話しているが何一つ耳に入ってこない。

 アウリス様は私の指先を掴んでそっと握った。


「ミユール。何度でも言おう、愛している」

 

 

 

 

 

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