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その後の二人

「もうすぐ、あんた達の結婚式ねぇ」


 書類を見つめながらマリア姫が呟いた。

 仕事に復帰した私はマリア姫の侍女として変わらず働いている。

 アウリス様も傷が深かかったがすでに仕事に復帰しており変わらず魔法騎士として働いている。

 あの事件から1ヶ月と少ししか経っていないのにアウリス様のお母様の仕事は早かった。

 私の実家に話をつけてすぐに結婚の準備を始めてマリア姫や全ての人や教会のアポを全て取り日にちまで決めてしまっていた。

 あのアウリス様と私が結婚するのだ。

 にんまりした顔をして私は頷いた。


「はい。信じられませんがとっても幸せです」


 私の顔を冷めた目で見つめてマリア姫とソフィーは肩をすくめる。


「自分だけ幸せオーラを出されると面白くないわね。そんなにウキウキしているとアウリスが不機嫌になるんじゃないかしら?」


 揶揄うようにマリア姫に言われて私は締まりのない顔で微笑んだ。


「大丈夫です。あの事件の時にアウリス様が傷を命懸けで移したじゃないですか。そのおかげか感情の共有が少し薄まったようで、以前ほど不愉快にならないそうですよ」


 命懸けという言葉を強調して言うとソフィーはニヤッと笑う。


「あなた達、いまだにすっごく噂されているわよ。あの事件でアウリス様は人が入れ替わったとか、別人格になってしまったとか言われているわよ」


「わかる!本当にアウリス様別人なのよ!」


 食いつくように私が言うと、今度はマリア姫が書類を置いて身を乗り出してきた。


「どう別人格になったか教えてもらえるかしら」


「いや……どうというか、その、優しくなりましたね」


 どんなふうに優しくなったかを危うくいいそうになり、しどろもどろに答えた。

 マリア姫に言ったら明日には城の中で噂が広がっているに違いない。

 危うく恥を晒す所だった。

 私が詳しく言わないが面白くないのかマリア姫はフンと軽く頷く。


「まぁ、噂は知っているわよ。毎日送り迎え。アウリスからミユールを抱きしめて愛を囁いているそうじゃない。城の中ではやらない方がいいわよ。みんな見ているんだから」


 バカにしたように言われて私は顔を赤くする。


「いや、だって、しょうがないですよ。会うと嬉しいんですもの」


「いやぁね。バカなカップルじゃない」


 バカにしたように言うソフィーにマリア姫は呆れたように私を見つめる。


「バカなカップルなのよ。まだ結婚もしていないのにアウリスの屋敷に住んでいるんでしょう?同じ部屋なのかしら?」


「違いますよ!」


 私が否定をするとマリア姫は面白くなさそうだ。

 私はピンときてマリア姫を睨みつけた。


「変な賭けをしているんですね?」


「……していないわよ」


 顔を逸らすマリア姫にソフィーが教えてくれる。


「私も賭けているから知りたいんだけれど、……妊娠してたりする?」


 まさかの発言に私は声を荒げた。


「しているわけないでしょう!」


「まぁ、でもまだわからないわよね。生まれてから結果が出る感じかしら」


 呟くマリア姫に私はまた声を荒げる。


「そんなことしていませんから!どんな賭けをしているんですか、信じられない!」


 興奮しながら私はいうとマリア姫とソフィーは反省したそぶりも見せず窓の外を指差した。


「ほら、お迎えがきているわよ。お疲れ様」


 ひらひらと手を振られて私はため息をつく。

 窓の外にはアウリス様が歩いているのが見えた。

 毎日のようにアウリス様は迎えにきてくれる。

 たまに仕事で一緒に帰れない日もあるが、それでも仕事ばかりしていたアウリス様が一緒に帰ってくれるのは奇跡だ。

 変な賭けをされているのは納得できないが、文句を言う気も失せて私は頭を下げた。


「お疲れ様でした。お先に失礼します」


 マリア姫の執務室を後にして階段を降りる。

 ちょうど城の外に出たところでアウリス様が立っていた。

 いつものようにわたしを見ると少しだけ口元が軽く上がる。

 そして両手を広げて私のことを見つめてくる。

 流石に城の敷地内でとは思うが、わたしはそんなアウリス様に弱いので迷わず彼の胸に飛び込んだ。


「お疲れ様です」


 ぎゅっと広い胸板に頬を擦り寄せるわたしを抱きしめてアウリス様は頷いた。


「今日も変わりがなく平穏に過ごして何よりだ。……いや、先ほどかなり興奮していたようだが、何かあったのか?」


 感情の共有魔法が薄れたと言ってもアウリス様には相変わらず私が思っていることが筒抜けだ。

 アウリス様を見上げると青い瞳が私を見下ろしていた。


「マリア姫がまた賭けをしているんですよ。信じられない」


  口を尖らせていう私にアウリス様は軽く頷く。


「だいたい想像がつくな。結婚前にミユールが妊娠しているかどうかと言ったところか……」


 アウリス様の口から妊娠と聞いて私の顔が赤くなり鼓動が早くなった。

 それを感じ取ったのかアウリス様は面白そうに笑う。

 笑うアウリス様が本当に珍しくて私の胸の鼓動が早くなった。


「なんで、わかるんですか」

「マリア姫よりも、フランシスが言い出したらしい」


 まさかのアウリス様の言葉に私は驚いた。


「信じられない。フランシス様がそんなことを言うなんて!」


 アウリス様は薄く微笑んだまま私を抱きしめる。


「フランシスが言っていたが、結婚前に妊娠していると賭けている人はほぼいないらしい」


「そりゃーそうですよ。アウリス様の人徳ですね」


 ふんふんと私が頷くとアウリス様は軽く眉を上げる。


「それならば、結婚前にと……俺は賭けてみるか」


「はいぃぃ?何を言っているんですかっ!」


 顔を赤くして驚いている私をみてアウリス様は面白そうに笑った。

 それは美しい笑みで、私が一番みてみたいと思ってた微笑みだった。


 まさかこんな事でアウリス様の美しい微笑みを見ることになるとは思わず、私はそっとため息をついた。


 

 

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