17 アウリス様と舞踏会
アウリス様と並んで城の大広間へと向かう。
大広間に入ると華やかな音楽と人々の熱気が一気に押し寄せてきた。
アウリス様にエスコートされている私は注目の的だ。
女性達はもちろん、なぜか他の人たちもチラリと見て何やら話している。
警備だと思い込んでいたが、私とアウルス様が付き合っているとか婚約したとか噂されているのではないかと気づいた。
「アウルス様、私たち注目されていますよ。もしかして、私アウルス様のお相手だと思われていますよ」
不安になりながらアウルス様の腕を叩いた。
「何か問題があるのか?」
「へぇ?」
平然と言われて私は変な声を出してしまう。
問題はある。
何が問題かを言おうとするが口から出て来ない。
身分差だとか、私はアウリス様が好きだけれど、アウリス様は絶対に迷惑だろうと思うが、実は思っていないとか?
問題がないと言うことはアウリス様は私が婚約者だと思われてもいいと言うこと?
ここに来るまでそこまで思考が及ばなかった自分が情けないが、ぐるぐると考えているとアウリス様が珍しくうっすらと私を見下ろして微笑んだ。
私が見たいと思っていたアウリス様の微笑みに目が離せない。
アウリス様は私から視線を移して正面を見つめている。
ちょうどマリア姫が姿を現した。
私たちが半日がかりで準備したマリア姫様はそれは美しく輝いている。
先ほどまでもしかしてアウリス様は私と結婚してもいいと思っているなんてという考えも吹っ飛ぶほど姫様が美しく自分がいかに平凡かを思い知らされ気分が落ち着いてきた。
私みたいな平凡で貧乏男爵家と結婚してもいいことなんてないし、危うくアウリス様に好かれていると勘違いするところだった。
謎にマリア姫様に感謝していると、アウリス様はそっと私の掌を叩いた。
その行動だけでドキドキしているとアウリス様が囁いてくる。
「マリア姫にご挨拶に行くぞ」
「そ、そうですね」
先ほどまで一緒にいたマリア姫に挨拶にいくのも変な感じだが、アウリス様の腕に捕まりながらゆっくりと歩く。
ギクシャクしている私を見てマリア姫は美しく微笑んだ。
私から見たら鼻で笑っているように見えるマリア姫の元へ辿り着く。
「今日の注目の2人ね。私やお兄様より注目されているんじゃないかしら?」
ふふんと笑うマリア姫にアウリス様は軽く頭を下げているが無表情のままだ。
「マリア姫様、本日はありがとうございます」
何に対してお礼を言っているのかわからないがアウリス様が言うとマリア姫は嬉しそうに頷いた。
「ふふん、私に感謝しなさいよ。まぁ、魔法騎士を招待客の中に紛れ込ませるのは良い案だったわ。ほら、かなり威圧感あるもの」
マリア姫は鼻で笑いつつ壁の隅で仁王立ちしている魔法騎士や騎士達を見つめた。
参加者の間を塗って警備をするのも恐ろしいと言う理由から進んで行っていないのだ。
そこまで危ない人がいるわけではないので警備も必要ないだろうと思うが、痴漢の抑制などがあるらしい。
若い女性を無理矢理誘う様な行為も横行していることから騎士達も警備にいるが、大広間の中央付近だと気づきにくいようだ。
アウリス様は頷くとすぐに下がろうとする。
「あ、マリア姫さま。また後でちゃんと仕事に戻りますので」
侍女としてマリア姫に伝えると意味ありげに微笑まれた。
後ろに控えているソフィーも同じように笑っている。
謎の2人の笑みを見ながらアウリス様に引っ張られながら大広間の人混みの中へと戻る。
「なんだったんですか?」
意味のわからないやりとりに私が聞くがアウリス様は答えない。
無表情で今は何を考えているかさっぱりわからない。
私にもアウリス様の感情がわかれば良いのに。
ため息をつきそうになると、フランシス様が壁の隅からアウリス様を呼んだ。
「アウリス。ちょっといいか」
アウリス様はフランシス様に頷くと私をちらりと見た。
「あ、大丈夫ですよ」
アウリス様の腕から手を離して笑みを浮かべる私に頷いてフランシス様の元へと歩いて行った。
緊張感から解放されてホッと一息つく。
アウリス様と舞踏会に出ることを楽しみにしていたはずなのに、意味がわからないことばかりで疲れてしまった。
アウリス様はもしかして私を気にかけてくれているのかもしれない。
平凡な私を?
ぐるぐると同じ思考を繰り返して目が回りそうになる。
気を取り直して何か飲もうと振り返ると目の前にフェルナンが立っていた。
「ヒィ」
一歩踏み出したところでフェルナンに当たりそうになり慌てて立ち止まる。
フェルナンは珍しく無表情で顔色も悪い。
煌びやかなパーティー会場に相応しくない雰囲気だ。
横目で見る程度だが、普段のフェルナンなら女性達に声をかけまくって嫌がられているはずだが今回は様子がおかしい。
「ど、どうしたの?体の調子でも悪いのかしら?」
フェルナンらしくない様子に声をかけると、彼はゆっくりと口を開く。
「誰も俺のことを好きになってくれないんだ」
フェルナンが弱々しく小さな声で言ったのを聞き間違いかと思い私は聞き返した。
「はい?」
「誰も俺の誘いに乗ってくれる女性がいないんだ。こうすればマーガレットが俺と付き合ってくれるって言ってくれたんだ。だから許してくれ」
「何を言っているの?」
支離滅裂な言葉に理解ができずフェルナンが恐ろしくなってくる。
不安を感じている私の元にアウリス様が近づいてくるのが見えた。
人をかき分けて近づいてくるアウリス様を見つめて早くきてほしいと願う。
これ以上フェルナンと意味がわからない会話はできない。
「こうすればマーガレットは戻ってきてくれるんだ」
ブツブツとフェルナンは呟くと同時にドンと私に体当たりをしてきた。
フェルナンの体重でバランスを崩し私は派手に床の上に倒れた。
床に倒れた背中が痛いがそれよりもなぜかお腹に痛みを感じる。
「ミユール!」
アウリス様の叫ぶような声が私の名前を呼んだ。
バランスを崩して転んだだけだと言い体が口が動かない。
喘ぐように口を開いている私の上半身をアウリス様が持ち上げた。
「ミユール大丈夫か?」
体が思うように動かないために私はゆっくりと頷く。
一体何が起こっているのだろうか。
異変に気づいた招待客達が悲鳴をあげている。
アウリス様の大きな手のひらが私のお腹を押した。
鈍痛を感じてゆっくりと視線を下すと、どす黒い血が流れているのが見えた。
「ひっ……」
声にならない悲鳴をあげた私をアウリス様が片手で抱きしめてくれる。
「大丈夫だ。今医者が来る」
珍しく焦った様子のアウリス様は早口に言いながら私が傷口を見せまいと片手で抱き寄せた。
「ミユール!ミユールが刺されたわ!」
「ミユール!死なないわよね」
すぐ近くでマリア姫とソフィーの悲痛な声が聞こえてくる。
そうか私は刺されたのか。
死んでしまうのかもしれない。
アウリス様の手で抑えられていたとはいえかなりの血が流れていた。
不安になる私の耳元でアウリス様の低い声が響く。
「大丈夫だ、絶対に死なせない」
アウリス様の大きな手で目元を隠されて抱き寄せられた。
私に傷口を見せないようにとアウリス様の大きな手のひらが覆ってくれる。
アウリス様の口から死という言葉が出るほど私の容態は悪いのだろうか。
体が冷たくなっていく感覚に死ぬのかもしれないと認識する。
呼吸がしづらくなり体が思うように動かない。
私はアウリス様に伝えていない。
身分が合わないと思っていたがそんなこと関係ない。
アウリス様に好きだって伝えていない。
後悔が押し寄せてきて私はなんとか口を開いた。




