16 舞踏会当日
翌日、姫様のドレスを着飾り準備を全て終え残りの時間で私とソフィーの準備に取り掛かる。
アウリス様と会場に入る私の代わりに他の侍女がマリア姫の手伝いに来てくれる予定だ。
すでに準備が終わった着飾ったソフィーが私の髪の毛をセットしてくれる。
3面鏡の化粧台の前に座って鏡越しにソフィーを見つめた。
薄い黄色の綺麗なドレスを着て着飾っていいていつもより可愛く見える。
「やっぱりちゃんとお化粧をしていいドレスをきると普段より可愛く見えるわよ」
私がいうとソフィーは鏡越しに睨みつけてきた。
「それだと普段私が可愛くないみたいじゃない」
「普段も可愛いわよ」
そうこうしているうちにソフィーは手際良く私の髪の毛をセットしてくれる。
長年マリア姫の侍女をしているだけあって私もソフィーも一流の侍女なのだ。
あっという間に髪の毛もセットし終わると、ソフィーは鏡越しに企んだ笑みを見せてきた。
「あんた、幸せもんね。私、いいものを預かってきたのよ」
「何を?」
ソフィーはニヤニヤと笑いながら宝石箱を取り出すと蓋を開いた。
中に入っていたのは昨日アウリス様が私に渡そうとした大きな宝石がついたネックレスだ。
昨日は夕日に照らされていたおかげで色まで確認できなかったが青い色をしている。
ギラギラとした宝石を見て私は悲鳴をあげた。
「ヒィ、どうしてそれがここにあるの?」
「アウリス様に預かったのよ。正確に言えばアウリス様がマリア姫様に渡したのよ」
「な、な、なんで?」
「アウリス様のお母様がぜひあんたにつけて欲しいって渡してきたそうじゃない。というか、アウリス様があんたにつけて欲しいんでしょう」
「ど、ど、どうして?」
「どうしてって、それは自分で考えなさいよ。まぁ、私はわかっていたけれど」
鼻歌を歌いながらソフィーは驚きで固まっている私の首に大きな宝石がついたネックレスをつけた。
ずっしりとした重さとひんやりとした宝石の冷たさを感じてまた震え上がる。
「こんな大きな宝石をつけて無くしたら困るわよ」
「気になるのはそっち?大丈夫よ、誰も獲りゃしないわよ。もし取られたらあのアウリス様がただじゃ置かないと思うわよ。命懸けで奪ってもねぇそんなの売れるとこだってないだろうし」
ソフィーは呆れているが、盗まれたらと思うと恐ろしくて首につけていられない。
首についているネックレスを鏡越しに見る。
恐ろしいほどギラギラと輝いており、一体どれほどの大金を積んで買ったのだろうか。
もし、この宝石に何かあったら我が家は全財産を差し出しても買える値段ではないだろう。
アウリス様と舞踏会に参加できると浮かれていたが、この宝石のせいで一気に気分が冷めてくる。
まじまじと宝石を見ている私にソフィーが声をかけてきた。
「ほら、アウリス様がお迎えに来たわよ」
「えぇぇ?会場で会うんじゃないの?」
驚いている私にソフィーは冷めた視線を向けてくる。
「会場で会うなんて愛人じゃあるまいし。ほら、行ってきなさい」
背中を押されて私は大きな宝石を指先で撫でながら立ち上がった。
「なんだか不安だわ」
「大丈夫よ。今日のミユールはいつもより可愛いから」
嫌味っぽくいうと私の背中をドアの前までぐいぐい押していく。
ドアの前にはニヤニヤと笑っている侍女仲間が立っていてドアを開けてくれた。
廊下にはアウリス様と魔法騎士の人たちが数人立っていた。
状況が読み込めない私にアウリス様の隣に立っていたフランシス様が説明をしてくれる。
「まぁ、俺たちは野次馬だから気にしないで」
正直に言われて笑っているとフランシス様は私のネックレスをじっと見つめた。
「あ、それが伯爵夫人が言っていたネックレスか。確かにでかいな……」
アウリス様も頷いている。
「この宝石の大きさなら魔法の力を貯めておくことができると思って譲ってくれないかと母上に交渉したことがあるが断られた」
「そうだろうな」
納得している2人の間に私は割って入る。
「どう言うことですか?」
「ん?宝石ってすごいパワーを持っているから大きな宝石なら魔法の道具になるんだよ」
親切に説明をしてくれるフランシス様にアウリス様も珍しく頷いて口を開いた。
「宝石に力を貯めておくこともできる」
そう言って腰につけていた剣をチラリと見せてくれる。
銀色の剣には青い宝石がついておりネックレスの宝石よりも小ぶりだがそれなりの大きさだ。
フランシス様の剣も見てみると赤い宝石がついていた。
「剣の防御力とか戦闘力とかが上がるんだよ」
「へぇ、凄いですね」
感心をして頷いて、はたとアウリス様や他の魔法騎士の人たちがいつもと違う格好をしていることに気づいた。
色は黒で変わらないが、礼装にマントを纏っている魔法騎士の人たちはいつもより凛々しく見える。
アウリス様も美しさと怪しさが増しており、まじまじと魔法騎士の人たちを見つめた。
「みなさま今日は素敵ですね」
呑気に言う私に、フランシス様も気取って胸に手を置いて軽くかしこまった。
「ミユール嬢も、ソフィア嬢も今日は一段と素敵だね。いつも可愛いけれど」
歯の浮くようなセリフを言うフランシス様をなぜかアウリス様が睨みつけた。
「なんだよ、お前が褒めないから俺が代わりに言ってあげたのに」
睨みつけられならもフランシス様はソフィーと助っ人にきてくれた侍女に軽く合図をする。
「さっさとマリア姫をお迎えに行こう。じぁ、会場で会おう」
そう言ってソフィー達はさっさと行ってしまう。
廊下に残され私はアウリス様を見上げた。
少し長い金色の髪の毛はセットされていて普段よりも素敵に見える。
2人りきりということもあるが、礼装のアウリス様にドキドキしてしまう。
素敵すぎて直視できず、ネックレスについている宝石を指先で撫でた。
「あの、本当にこれ私がつけていていいんですかね」
「問題ない」
アウリス様をそっと見上げると穏やかな眼差しで見つめられていることに気づいてまた心臓が跳ね上がった。
私の感情が伝わっているはずなのにアウリス様は気づいていないのだろうか。
穏やかなアウリス様の眼差しから逃れようとそっと顔を背けた。
「あの、私たちは警備で客に紛れるんですよね」
胸の高鳴りを隠すように早口に言うとアウリス様は頷く。
「一応……。他にも数人俺たちの様に紛れながら警備をしているものがいる」
「なるほど。じゃ、私たちも会場に行きましょう」
私たちだけでないと安心しているとアウリス様が腕を差し出してくる。
キョトンとする私にアウリス様は無表情だが上機嫌な様子になんだか私も嬉しくなってきた。
ワクワクしながらアウリス様の腕にそっと手を添えた。




